動脈硬化症における低分子量GTP結合蛋白質制御因子の役割の解明 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300370A
報告書区分
総括
研究課題名
動脈硬化症における低分子量GTP結合蛋白質制御因子の役割の解明 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
望月 直樹(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 松田道行(大阪大学微生物病研究所)
  • 澤 洋文(北海道大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム・遺伝子治療・生命倫理分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
動脈硬化症におけるRasファミリーGTP結合蛋白質のGEF・GAPの調節機構を調べるためには①ゲノム情報から得られる新規GEF・GAPを同定し、その基質特異性を決定していくこと②その機能を細胞・個体で検討することが重要である。機能の新たな評価方法としてFRETを用いたGEF/GAPの活性化のモニターリングを行なうべく、Ras, Rap1, R-Ras,Ral分子の可視化プローブの開発をおこなう。さらに同プローブを用いて循環調節因子刺激によるGEF/GAPの活性化を調べる。
(1) Rasの活性制御因子群のcDNAを直接細胞に発現させ、その生細胞でどのG蛋白に対して作用するのかを調べるという新しい手法を開発する。
(2) DH/PH homology を有する分子群の抗体を作製してその局在を明らかにする。
(3) 血管内皮細胞と血管平滑筋細胞で特異的に発現するGEF, GAPに着目してその機能を調べる。
研究方法
RalGEF/GAP活性測定・可視化プローブ Raichu-Ralの作製-pRaichu-RalAの作成は、pRaichu-Rasと同様に作成した。RaichuはFluorescence Resonance Energy Transfer(FRET)理論をもとに二蛍光間のエネルギーを相対的に測定するプローブである。作成したプローブであるRaichu-RalAはアミノ末端から順に、YFP、スペーサー、RalA、スペーサー、RalBP1のRalA結合領域、スペーサー、CFP、スペーサー、RalAのカルボキシル末端領域から成る。
分光解析-293T細胞にプラスミドをリン酸カルシウム法にてトランスフェクトし、36時間後にTriton X-100を含む緩衝液で可溶化した。上清をFP750分光光度計(日本分光)にて解析した。シアン色蛍光蛋白(CFP)の励起には433 nmの光を用いた。
Raichu-RalAを用いたイメージング-Raichu-RalAプローブをCOS7細胞に発現させ、24時間後に撮影を開始した。CFPの蛍光画像および、CFPから黄色蛍光蛋白(YFP)への蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により観察されるYFPの蛍光画像を取得し、この2枚の画像の蛍光強度比を図ることで、RalAの活性を測定した。まず、血清飢餓状態に4時間以上おいてから、30分撮影し、そこで上皮細胞増殖因子を最終濃度20 ng/mlになるように添加し、さらに60分撮影した。画像解析にはMetamorph画像解析ソフトを用いた。また、細胞骨格系の影響を見る場合は、LatrunculinAやcytochalasinBで30分処理してから上皮細胞増殖因子で刺激した。
KIAA0915の抗体作製-KIAA0915のアミノ酸配列 (Genebank)を基に、二次構造を予測して、48番目から58番目のアミノ酸配列(KIAA0915-48)およびC末端の16アミノ酸のペプチドを合成した(KIAA0915-C)。48番目から58番目のペプチドに関してはN末端をアセチル化でブロックして、C末端はfreeでC末端のCysとkeyhole limpet hemocyanin (KLH)をクロスリンクして抗原とした。
免疫組織学的検討-染色組織はラット・マウスを用いた。エチルエーテル吸入により安楽死させて後、灌流固定後組織を細切して浸漬固定を行い、通常の方法でパラフィンブロックを作製した。6mmに薄切して内因性peroxidase除去後、10% goat normal serum に30 分反応させ、作製したanti-KIAA0915Cまたはanti-KIAA0915-48を1,000倍にして4 C° overnightで反応させた。3'-diaminobenzidineで発色させたOlympus,.BX51で観察した。
GEF活性とGAP活性の測定-FRET に基づきRasファミリー分子の活性化を調べることが可能なプローブRaichu-Rho, Rhaichi-Rac, Raichu-Cdc42を用いてFRETの効率を調べることで、GEF, GAP活性を調べた。
血管平滑筋細胞におけるVsm-RhoGEFの発現とVsm-RhoGEF結合EphA4受容体の発現の確認-血管平滑筋細胞Human Coronar Artery Endothelial Cellsとラット大動脈血管平滑筋細胞(A7r5)におけるVsm-RhoGEFの発現をWestern Blotで調べた。また免疫沈降法でEphA4受容体とVsm-RhoGEFの結合を調べた。
結果と考察
Raichu-RalAの開発: RalAのプローブはRalAとRalAの標的分子RalBP1とを組み合わせて行った。RalAと標的分子の順番を替えることならびに、RalAのN末側およびC末側、RalRB1のRalA結合部位以外のところの長さを様々に変化させることで、FRET効率の高いプローブを作成することができた。
Raichu-RalAを用いたイメージング: RalAの活性は、刺激後速やかに上昇し、約30分間、高い活性が続く。しかもRalAの活性は新しくできる葉状突起部分に限局して上昇することがわかった。プルダウン法で同様の結果が得られることを確認し、イメージングの結果と生化学的な手法とで矛盾しない結果であることを確認した。
免疫組織学的検討(KIAA0915-Vsm-RhoGEF): 大動脈、心房、心室、肝臓、腎臓、脾臓、肺、脳各組織の血管平滑筋でKIAA0915の発現が認められた。抗体特異性を確認するために行った免疫吸収試験では抗原 (0.5 mg/ml)と作用させる事により動脈平滑筋での抗体の反応性は消失し、抗体による免疫反応が抗原特異的である事が判明した
新規Vsm-RhoGEFの同定: GAP活性をKIAA0131, KIAA1304, KIAA0456, KIAA0411でそれぞれ調べたところRho,Rac,Cdc; Cdc; 比較困難; Racに対するそれぞれGAPであることが判明した。EphA受容体に結合すると言われるephexinと相同性をもちDbl homologyを有する分子KIAA0915に着目した。KIAA0915がその抗体を使った免疫組織学的検討により血管平滑筋細胞で特異的に発現していることからVsm-RhoGEFと命名した。
EphA4とVsm-RhoGEFの結合: A7r5細胞はEphA4とVsm-RhoGEFを発現していた。293T細胞にHA-tag付EphA4とGFP-tag付Vsm-RhoGEFを発現して免疫沈降法で結合を確認したところ両分子が結合していることが明らかになった。また、Vsm-RhoGEFの基質特異性をRaichu-Rac, Raichu-Cdc42, Raichu-Rhoで調べたところRhoAに対するGEF活性を有していることが明らかになった。
Ephrin刺激依存性EphA4燐酸化と引き続くVsm-RhoGEFの燐酸化によるGEF活性の上昇:
EphA受容体がリガンドEphrin-A1刺激によりA7r5細胞でチロシン燐酸化を受けることを明らかにした。Ephrin-A1刺激依存性にRhoの活性化を認め、また、stress fiber形成も促進されたことから、このEphA4受容体の燐酸化とVsm-RhoGEFの燐酸化がGEF活性を調節していると考えられた。
Ephrin-A1依存性血管平滑筋細胞のstress fiber形成におけるVsm-RhoGEFの必要性:Ephrin-A1刺激で血管平滑筋はstress fiber 形成が促進されるが、Vsm-RhoGEFの優勢劣性変異体とRNA interferenceを用いて、形態維持にVsm-RhoGEFが不可欠であることを証明した。
本年はRas, Rhoに引き続いてRalファミリーGTP結合蛋白質の活性化測定・可視化プローブを作製することで動脈硬化症におけるRalの調節蛋白質の機能を調べることが可能となった。また、昨年までに得られているRho,Rac, Cdc42のGEF/GAPの活性測定プローブを用いて新規のGEF,GAPについてその基質特異性を調べることができた。特に本年度KIAA0915が血管特異的に発現することを明らかにした。この分子はRhoの活性化因子であることがわかったのでVascular smooth muscle RhoGEF (Vsm-RhoGEF)と命名した。RhoGEFはこれまで7回膜貫通型受容体の下流で機能していることが示唆されていたが、本研究ではEphチロシンキナーゼ受容体に直接結合し機能していることを証明した。EphチロシンキナーゼのリガンドであるephrinはTリンパ球・血小板の表面に発現しており細胞間の接合によりRhoが活性化されることで血管平滑筋の収縮が制御されている可能性が強く示唆される結果を得た。
結論
これまでRas, Rhoファミリーの活性化測定・可視化プローブのほかに今年度新たにRalファミリー分子活性化の可視化プローブを作製した。これにより新たなRalGEF, GAPのscreeningが可能である。血管平滑筋細胞で特異的に発現するVsm-RhoGEFがRhoの活性化により血管収縮を制御している可能性を示した。

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