老化疾患におけるKlothoの意義の解明とその臨床応用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300365A
報告書区分
総括
研究課題名
老化疾患におけるKlothoの意義の解明とその臨床応用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
鍋島 陽一(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 永井良三(東京大学医学研究科)
  • 倉林正彦(群馬大学医学部)
  • 川口 浩(東京大学医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム・遺伝子治療・生命倫理分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は(1)血清Klotho蛋白測定キットの構築とKlotho蛋白の濃度測定による診断システムの開発、(2)血清中のKlotho蛋白の蛋白医薬としての可能性の検討、(3)Kotho蛋白が結合あるいは修飾する生体内分子の同定と医薬品開発への発展、(4)ヒトklotho遺伝子多型(SNP's)と老化関連疾患との連鎖解析(5)Klotho蛋白のカルシウム恒常性維持機構における役割の解析、(6)循環器疾患、腎疾患におけるKlothoの意義の解析を目的としている。
研究方法
(1)分泌蛋白を高感度に認識する新たな抗体によりサンドイッチエライザー系を構築した。(2)免疫沈降、質量分析によりklotho結合蛋白を同定した。精製klothoと人工基質、ステロイドグルクロニドを用いて酵素活性、至適条件を検討した。(3)klothoの血管内皮機能保護作用、血管新生能への影響を検討した。(4)アンジオテンシン負荷モデルにklothoのアデノウイルスを投与し、klothoの腎保護作用を検討した。(5)klothoを発現するセンダイウイルスを投与し、各種細胞シグナルの活性について検討した。(6)klotho遺伝子欠損マウスと過剰発現ラットを用いて酸化ストレス、臓器障害との関連を解析した(7)変形性腰椎症患者および脊椎靱帯骨化症患者から抽出したDNAを用いてklotho遺伝子多型との association studyを行った。ルシフェラーゼアッセイによってklotho遺伝子の転写調節部位の探索を行った
結果と考察
(1)ヒト・マウス血清中より130kDの分泌型蛋白を見いだし、サンドイッチエライザー測定システムを構築した。本システムにより血清値の測定、研究における利用が可能となった。ヒト血清中に多量のKlotho蛋白(健常者の10倍程度)が存在する患者が見つかり、カルシウム代謝異常症を示す原因不明患者の解析を開始した。(2)Klotho蛋白はステロイド-グルクロニドからグルクロン酸を切り取るsteroid ?- Glucoronidase活性を示した。生理活性ステロイドの活性化の制御がKlotho蛋白の作用機構の本質であると推定される。(3)免疫沈降、質量分析によりKlotho結合蛋白としてGRP78,カルネキシン、Na+/K+ ATPaseを同定した。Klotho蛋白はNa+/K+ ATPaseと複合体を形成し、遠位尿細管、脈絡膜細胞におけるカルシウム輸送能を制御している。又、Klotho蛋白が1?-hydoroxylaseの発現を負に制御するネットワークを構成する分子であることが明らかとなった。活性型ビタミンDはカルシウムチャンネル、カルビンデインD28K発現上昇を介してカルシウム輸送の亢進をもたらし、ついで、発現が誘導されたKlotho蛋白が1??-hydroxylaseの発現を負に制御することによって活性型ビタミンD濃度を下方修正する仕組みとなっている。(4)下肢虚血モデルではklothoヘテロマウスは野生型のコントロールに比し、CD31陽性の毛細血管も少なく血管新生能が低下していた。また、血管新生能低下はstatin薬剤の投与で改善する可能性があることを示唆する結果を得た。さらに、Klotho投与が血管新生亢進を促す結果を得た。(5)アンジオテンシン負荷マウスでは、klothoの発現は低下しており、同負荷マウスにklothoの発現を誘導すると腎障害が改善した。(6)、klothoを発現させ、各種細胞シグナルの活性について検討した結果、内皮型一酸化窒素合成酵素eNOSのリン酸化(活性化)を認めた。(7)尿中イソプロスタンは、Klotho過剰発現ラットで、野生型ラットより明らかに低値であった。また、大動脈壁の活性酸素の産生は、klothoマウスで増加していた。 
今回の解析によりNa+/K+ ATPaseが体液のカルシウム濃度の維持のために重要な役割を担っていることが明らかとなり、新たな視点を与えることとなった。細胞外カルシウム濃度を感知する機構、感知したシグナルがカルシウム制御を司る分子の機能に変換される機構については未だ多くの疑問が残されているが、本研究により新たな発展の道が切り開かれた。活性型ビタミンD濃度の亢進が多彩な変異症状の重要な要因となっていることが明らかとなり、予想を越えた現象にビタミンDが関与していることが明らかとなり、今後の臨床研究の発展へと結びつくことが期待される。サンドイッチエライザー系を開発したが、広く市販するには血清の保存法など、検討すべき課題は残されている。また、カルシウム代謝異常症には原因不明の患者が半数ほどおり、それらの患者についての解析により、あらたな疾患概念の確立へと発展することが期待される。ステロイドの活性制御システム、作用システムについての新たな考え方や、新たな生理活性ステロイドの探索へと研究が発展することが期待される。
血管新生は虚血性血管疾患のみならず、癌、網膜の増殖性疾患等様々な疾患の病態に関わる。Klothoの外的投与による血管新生能の亢進はklotho投与による新しい血管治療法の開発にそれぞれが糸口となる可能性がある。一方、アンジオテンシン負荷に対する腎保護作用は現在現在重要な社会医学的な問題である腎不全の患者の治療、透析医療の医療費問題の軽減に結びつく可能性がある。klotho遺伝子が酸化ストレスを減少させる機序は十分検討されていないが、その機序が解明されれば、老化や心血管病の新たな治療薬となる可能性がある。klotho遺伝子は加齢に伴う骨粗鬆化に関与しているものの、変形性腰椎症や脊椎靱帯骨化症など、他の老化関連骨軟骨疾患には関与していないことが示された。
結論
(1)Klotho蛋白結合分子を同定し、カルシウム制御における役割を解析した。(2)Klotho蛋白は活性型ビタミンD合成の負の制御因子である。(3)Klotho蛋白はsteroid ?-Glucoronidase活性を示した。(4)Klothoは血管新生、腎防御、NO産成、酸化ストレス抑制など、多面的な機能をもつと推定された。(5)klotho遺伝子は加齢に伴う骨粗鬆化に関与している。

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