循環器疾患関連遺伝子の解明に関する研究

文献情報

文献番号
200300362A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器疾患関連遺伝子の解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 力(東京大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 永井良三(東京大学大学院)
  • 今井靖(東京大学附属病院)
  • 門前幸志郎(東京大学大学院)
  • 前村浩二(東京大学大学院)
  • 林同文(東京大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム・遺伝子治療・生命倫理分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
循環器疾患の発症進展には多種類の環境・遺伝要因が関与する。本研究は循環器疾患の病態および治療反応性を遺伝子多型研究から解明することを目指し、詳細な臨床情報収集とそのデータベース化を基盤とし、それと遺伝子解析結果を統合的に処理することにより(1)心血管病の発症、重症度と関連する遺伝子マーカーの同定(2)環境因子に対する感受性、治療に対する反応性を規定する遺伝因子の同定(3)同定した遺伝子異常の機能解明 の実現を目的とした。
研究方法
東京大学医学部付属病院循環器内科に入院する全症例について網羅的な臨床情報のデータベースを構築・データ集積を行い、平行して承諾の得られた患者からDNA採取を行った。あわせて関連医療機関においても遺伝子検体の収集を行い、対照群あるいは追加の疾患群として遺伝子解析に組み入れ主としてcase-control studyの手法で遺伝子解析を行った。候補遺伝子アプローチによる解析であるが、その解析対象遺伝子としては動脈硬化性疾患および心臓疾患との関連が示唆される因子の約60に及ぶ遺伝子に着目して解析した。特にその遺伝子多型は蛋白構造を規定するコーディング領域の遺伝子多型、遺伝子の発現量を規定するプロモーター領域の多型に着目し解析したが、一部の遺伝子についてはその遺伝子領域全体の遺伝子配列を一定数の患者を対象に調査し新規の遺伝子多型・変異の同定を行ったのちに解析を行った。関連性が有意な遺伝子多型が認められる場合には、近傍の遺伝子多型についても探索し疾患感受性ハプロタイプの選出し、そのハプロタイプと疾患の発症、治療反応性等について検証を加えた。さらに遺伝子機能自体の解明を目的に、心臓・血管構成細胞の培養株またはトランスジェニックマウスあるいはノックアウトマウスなどの遺伝子改変動物を使用することにより、遺伝子多型およびその遺伝子自体の機能についての解明を試みた。(倫理面への配慮)本研究の開始にあたり患者サンプルの採取に関するインフォームドコンセントの内容や方法、ならびに本研究にかかる目的や方法などの研究内容は東京大学医学部内に設置されたヒトゲノム遺伝子解析研究倫理審査委員会(「ヒトゲノム解析研究に関する共通指針」に準拠)において審査・承認されそれに基づいて実施した。
結果と考察
(1)脂質代謝において抗動脈硬化作用を有する高比重リポ蛋白コレステロール(HDLコレステロール)に関する遺伝子多型についてHDLコレステロールの生成に関わるABCA1(ATP-binding cassette transporter A 1)遺伝子のMet823Ile多型が日本人においてHDL濃度を有意に規定する遺伝的要因であることが判明した。(2)血管リモデリングに関与するmatrix metalloproteinase (MMP)のMMP1およびMMP3の遺伝子多型は、近接して存在することから互いに連鎖し、その組み合わせからなるハプロタイプが心筋梗塞発症に強く関連することが示された。その関連性は他因子で補正しても有意であり、オッズ比は1.8に達するものであった。(3)β2アドレナリン受容体多型およびそのハプロタイプが冠動脈硬化、特に心筋梗塞発症に強く関連することが示された。この多型は我々の母集団では糖尿病、高血圧、肥満、高脂血症などとは関連性がなく、これら交絡因子とは独立して疾患発症に寄与することも確認された。(4)冠動脈形成術後(PCI)の再狭窄は本治療法の最大の障壁となっているが、MMP3, MMP9, p21 phoxの遺伝子多型が標的病変の性状で補正した再狭窄発症に有意に関連することが認められた。(5)心臓血管のリモデリングの
制御に関与する転写因子KLF5と相互作用する転写共役因子について検討し、KLF5がSETと結合すると転写抑制がかかること、モデルアゴニスト投与における炎症刺激においてKLF5がNFkBと共役してPDGF遺伝子の発現亢進に寄与することが示された。またこのKLF5について遺伝子領域の全長、とくにエクソンおよび5' flanking regionのSNPについて検討したところ5' flanking region内の遺伝子多型が冠動脈硬化および冠動脈形成術後再狭窄に関連すること、またその多型がKLF5遺伝子の転写活性を修飾することが確認された。(6)複数の遺伝子多型を組み合わせることにより、よりハイリスク症例の峻別が可能になることが示された(一例として、lymphotoxin alphaとMCP-1は単独では心筋梗塞発症には1.5倍程度のオッズ比であるが、これを組み合わせることによりオッズ比は4倍となる)。 海外において報告のある遺伝子多型について日本人においても関連性があることが追試されたほか、新規の遺伝子多型について冠動脈硬化との関連性が確認されている。また単独の遺伝子多型での寄与率が低くてもその組み合わせを検討することにより、強力な冠リスクを推定出来る可能性があることが示された。今後は機能的に相加・相乗的に作用しうる遺伝子多型間での組み合わせについての検討も加える必要がある。
結論
包括的臨床情報収集とゲノム解析との統合により、複数の冠動脈疾患発症を規定する遺伝的因子およびその組み合わせを検出した。さらなるデータ集積により治療・予後を規定する因子の同定が今後可能になるであろう。

公開日・更新日

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