文献情報
文献番号
200300358A
報告書区分
総括
研究課題名
バキュロウイルスを利用した新規遺伝子治療ベクターの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 善治(大阪大学微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
- 森石恆司(大阪大学微生物病研究所)
- 武田直和(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム・遺伝子治療・生命倫理分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
遺伝子治療は細胞医療や再生医療とともに、現行療法の限界を超える画期的な治療法として期待され、欧米を中心に活発な研究開発が行われている。外来遺伝子の導入方法としてはウイルスベクターやリポソームなどの非ウイルスベクターがあるが、効率的にはウイルスベクターに勝るものはない。ウイルスベクターとしては、アデノウイルスやレトロウイルスなどが開発され、一部の遺伝子治療の臨床試験で使用されている。レトロウイルスは遺伝子を染色体内に導入する為、宿主遺伝子の挿入部位によっては細胞を癌化させる欠点が指摘されており、フランスでの臨床試験で白血病の発症が報告されている。アデノウイルスはほとんどのヒトが既に中和抗体を持っており、投与量が多くなる欠点が指摘されている。また、他のヒト病原ウイルスは弱毒化や無毒化が施されているとはいえ、安全性の問題が皆無とは言えない。さらに、現行のベクター技術では目的の遺伝子を目的の細胞にいかにして効率的よく導入するかという点に多くの問題点が残されている。このような問題点を克服するには新しいウイルスベクターの開発が必須である。バキュロウイルスは、環状二本鎖DNAを遺伝子としてもつ昆虫ウイルスで、感染した昆虫細胞内に多角体と呼ばれるウイルス粒子を包埋した封入体を大量に作るのが特徴である。本ウイルスはこれまで昆虫にしか感染しないと考えられていたが、広範な哺乳動物細胞へ感染し、複製することなく、外来遺伝子を効率よく発現できることが明らかにされ、遺伝子治療ベクターとしての可能性が注目を集めている。本研究はバキュロウイルスの特性を再考し、目的のリガンドを被ったターゲッティンベクターや昆虫細胞で産生させたウイルス様粒子を利用した新しいベクター系の開発を目的とする。
研究方法
1) In vivoでの遺伝子導入:バキュロウイルスのin vivoにおける遺伝子導入は、血液中の補体成分によってウイルスが不活化されるため、それをなんとか克服する必要がある。そこで、様々な動物血清に対するバキュロウイルスの感受性を再検討すると共に、補体経路の活性化を抑制できる薬剤であるFUT-175 (6-amidino-2-naphthyl 4 guanidinobenzoate、フサン) の活性を評価した。さらに、組換えウイルスを用いてマウスへの遺伝子導入を試みた。2) ターゲッティング可能なバキュロウイルスベクターの開発:他のウイルス蛋白質を組み込むことによって広範な細胞に高率よく遺伝子導入できるバキュロウイルスの開発と平行して、ウイルス粒子表面に任意の蛋白質のみを提示させることによって、狙った細胞だけに遺伝子を導入できるターゲティングベクターの開発を試みた。3) バキュロウイルスによる宿主応答:バキュロウイルスの自然免疫誘導活性を詳細に解析した。また、哺乳動物細胞にバキュロウイルスを感染させた際に転写されるウイルス由来mRNAを全バキュロウイルス遺伝子をカバーするマイクロアレイを用いて網羅的に解析した。4)ウイルス様粒子の作製: HEVの構造蛋白領域をコードするORF2を組み込んだ組換えバキュロウイルスを作出した。感染昆虫細胞からウイルス様中空粒子(VLP)を精製し、カニクイザルに経口投与し、血中および腸管内の抗体産生をELISA法で測定した。また、VLPを産生する形質転換ポテトを作製した。
結果と考察
1) In vivoでの遺伝子導入:様々な動物血清に対するバキュロウイルスの感受性を調べてみたところ、マウス以外の非働化していない動物血清はバキュロウイルスを不活化させたが、VSVGを被った組換えバキュロウイルスでは対照
ウイルスに比べて血清成分に対して抵抗性を示した。また、補体経路の活性化を抑制できる薬剤であるFUT-175は、濃度依存的に血清成分によるバキュロウイルスの不活化を阻害したことから、組換えバキュロウイルスとFUT-175のような薬剤との併用による方法により、動物個体への遺伝子導入も可能になるものと思われる。組換えウイルスを用いてマウスの脳組織および精巣のセルトリ細胞での外来遺伝子の発現が認められた。2) ターゲッティング可能なバキュロウイルスベクターの開発:バキュロウイルスのエンベロープ蛋白質gp64の代わりに、VSVGを被ったウイルスの遺伝子導入は、抗gp64抗体では阻止できず、抗VSVG抗体で中和されたことから、設計どおりに粒子表面に発現させたVSVGを介して遺伝子が導入されていることが確認された。また、ウイルスのエンベロープ蛋白質だけでなく、逆にウイルスのリセプター分子や癌抗原に対する単鎖抗体を粒子表面に提示すれば、ウイルスに感染してエンベロープ蛋白質を発現している細胞や癌細胞だけにチミジンキナーゼ等の自殺遺伝子を導入し、プロドラッグとの併用によって目的の細胞だけを生体から排除することが可能となると思われる。3) バキュロウイルスによる宿主応答:バキュロウイルスを24時間前に鼻腔内投与したマウスは、A型およびB型インフルエンザウイルスの致死量の鼻腔内攻撃から防御されることが明らかとなった。これまで多くのウイルスエンベロープ蛋白質が自然免疫を誘導できることが報告されており、これまでのバキュロウイルスでの成績もエンベロープ蛋白質が自然免疫を誘導することを支持するものであった。しかしながら、バキュロウイルスによる自然免疫の誘導はエンベロープ蛋白質よりも、細胞内に取り込まれたウイルスゲノムがToll-like receptor 9 (TLR9)を介してシグナルを核に伝達していることが示唆された。免疫担当細胞においてはエンベロープ蛋白質の細胞融合活性によって細胞内に侵入したバキュロウイルスは、主に分解経路に輸送され、分解されたゲノムDNAが、細胞内に局在するTLR9にシグナルを伝達しているものと思われる。この成績は、バキュロウイルスが遺伝子導入ベクターとしてだけでなく、接種経路によってはアジュバント活性を併せ持った新しいワクチンベクターとしての可能性を示唆するものである。バキュロウイルスを接種しても細胞傷害性が低いことは、バキュロウイルスの遺伝子治療用ベクターとしての有利な特徴のひとつであると考えられる。そこで、遺伝子治療用ベクターとしての安全性を評価するため、哺乳動物細胞にバキュロウイルスを感染させた際に転写される、バキュロウイルスゲノムを網羅的に解析したところ、150個の全バキュロウイルス遺伝子のうち3種の遺伝子の発現が転写レベルで僅かに検出さるのみであった。この成績から、哺乳動物細胞においてはバキュロウイルス自身のゲノムの発現がほとんどなく、これが細胞傷害性が低いことの一因であると推測される。4)ウイルス様粒子の作製:カニクイザル一頭当たり10mg のVLPを経口投与した。IgG抗体は3週目には上昇し始めたが、抗体価はマウスに比べ低かった。80日を経過した時点で、腸管IgA抗体が検出できなかったので、84日に追加免疫を行った。その結果、血中IgG抗体の急激な上昇がみられた。そこでIgG抗体がピークに達した直後の100日目に10,000MID50の感染性HEVでチャレンジしたところ、VLPを経口投与した2頭では、血中からは全くウイルス抗原が検出されずチャレンジに対して抵抗性を示した。さらに、HEVORF2領域の形質転換ポテトのtuberに5-30mg/gの構造蛋白が発現していた。
ウイルスに比べて血清成分に対して抵抗性を示した。また、補体経路の活性化を抑制できる薬剤であるFUT-175は、濃度依存的に血清成分によるバキュロウイルスの不活化を阻害したことから、組換えバキュロウイルスとFUT-175のような薬剤との併用による方法により、動物個体への遺伝子導入も可能になるものと思われる。組換えウイルスを用いてマウスの脳組織および精巣のセルトリ細胞での外来遺伝子の発現が認められた。2) ターゲッティング可能なバキュロウイルスベクターの開発:バキュロウイルスのエンベロープ蛋白質gp64の代わりに、VSVGを被ったウイルスの遺伝子導入は、抗gp64抗体では阻止できず、抗VSVG抗体で中和されたことから、設計どおりに粒子表面に発現させたVSVGを介して遺伝子が導入されていることが確認された。また、ウイルスのエンベロープ蛋白質だけでなく、逆にウイルスのリセプター分子や癌抗原に対する単鎖抗体を粒子表面に提示すれば、ウイルスに感染してエンベロープ蛋白質を発現している細胞や癌細胞だけにチミジンキナーゼ等の自殺遺伝子を導入し、プロドラッグとの併用によって目的の細胞だけを生体から排除することが可能となると思われる。3) バキュロウイルスによる宿主応答:バキュロウイルスを24時間前に鼻腔内投与したマウスは、A型およびB型インフルエンザウイルスの致死量の鼻腔内攻撃から防御されることが明らかとなった。これまで多くのウイルスエンベロープ蛋白質が自然免疫を誘導できることが報告されており、これまでのバキュロウイルスでの成績もエンベロープ蛋白質が自然免疫を誘導することを支持するものであった。しかしながら、バキュロウイルスによる自然免疫の誘導はエンベロープ蛋白質よりも、細胞内に取り込まれたウイルスゲノムがToll-like receptor 9 (TLR9)を介してシグナルを核に伝達していることが示唆された。免疫担当細胞においてはエンベロープ蛋白質の細胞融合活性によって細胞内に侵入したバキュロウイルスは、主に分解経路に輸送され、分解されたゲノムDNAが、細胞内に局在するTLR9にシグナルを伝達しているものと思われる。この成績は、バキュロウイルスが遺伝子導入ベクターとしてだけでなく、接種経路によってはアジュバント活性を併せ持った新しいワクチンベクターとしての可能性を示唆するものである。バキュロウイルスを接種しても細胞傷害性が低いことは、バキュロウイルスの遺伝子治療用ベクターとしての有利な特徴のひとつであると考えられる。そこで、遺伝子治療用ベクターとしての安全性を評価するため、哺乳動物細胞にバキュロウイルスを感染させた際に転写される、バキュロウイルスゲノムを網羅的に解析したところ、150個の全バキュロウイルス遺伝子のうち3種の遺伝子の発現が転写レベルで僅かに検出さるのみであった。この成績から、哺乳動物細胞においてはバキュロウイルス自身のゲノムの発現がほとんどなく、これが細胞傷害性が低いことの一因であると推測される。4)ウイルス様粒子の作製:カニクイザル一頭当たり10mg のVLPを経口投与した。IgG抗体は3週目には上昇し始めたが、抗体価はマウスに比べ低かった。80日を経過した時点で、腸管IgA抗体が検出できなかったので、84日に追加免疫を行った。その結果、血中IgG抗体の急激な上昇がみられた。そこでIgG抗体がピークに達した直後の100日目に10,000MID50の感染性HEVでチャレンジしたところ、VLPを経口投与した2頭では、血中からは全くウイルス抗原が検出されずチャレンジに対して抵抗性を示した。さらに、HEVORF2領域の形質転換ポテトのtuberに5-30mg/gの構造蛋白が発現していた。
結論
バキュロウイルスの粒子表面に任意の蛋白質を自在に提示させることによって、in vivoで遺伝子導入可能なベクター、やターゲッティング可能なベクター系を開発した。また、宿主応答を解析した。組換えバキュロウイルスで発現したHEV VLPを用い腸管免疫誘導能をカニクイザルで試験した結果、マウス同様の免疫反応が誘導されることが明らかになった。HEV構造蛋白を産生する形質転換ポテトが得られた。
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