骨髄異形成症候群の原因遺伝子の同定と発症機構の解明(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300357A
報告書区分
総括
研究課題名
骨髄異形成症候群の原因遺伝子の同定と発症機構の解明(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
平井 久丸(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 小川誠司(東京大学医学部附属病院)
  • 千葉滋(東京大学医学部附属病院)
  • 黒川峰夫(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム・遺伝子治療・生命倫理分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨髄異形成症候群(MDS)は血球分化の障害と前白血病状態を特徴とするヘテロな疾患群である。その発症については、多くの病態の関与が報告されているが、血球分化の障害という観点からは造血前駆細胞の分化に深く関与する転写因子の異常が、また前白血病状態という観点からは、ゲノムの不安定性に基づく染色体の異常が、その本質的な病態を規定している可能性が示唆される。そこで平成14年度より始まった本研究では、これらの染色体異常のゲノム解析によりMDSの原因遺伝子の同定を試みるとともに、マウスジェネティクスを用いて転写因子異常によるMDSの発症機構を個体レベルで明らかにし、新規治療法の開発上必須と考えられるMDSモデルの確立を行うことを最終的な研究目的として研究を進めている。平成14年度には、MDSの予後不良染色体異常である、del(7q)およびder(1;7)の解析とMDSで異常を認める代表的な転写因子AML1については、遺伝子改変マウスの作成とその部分的解析を行ったが、平成15年度は、これらの成果を踏まえ、さらに発展的な研究の展開を目指した。すなわち、原因遺伝子の同定に関しては、7qに存在するCpGアイランドの網羅的解析による腫瘍特異的メチル化を指標としたdel(7q)の標的遺伝子の同定、および、アレイCGH法の確立とこれを用いたMDSのゲノム異常の網羅的探索を行うとともに、マウスモデルを用いたMDSの発症機構の解析では、昨年度に作成に成功したAML1の遺伝子改変マウスの造血系における異常の解析によるMDS発症機構の解明と同マウスにおける白血化モデルの検討を試みた。
研究方法
a)腫瘍特異的メチル化を指標とした7q欠失の標的遺伝子の同定に関しては、MDSにおける代表的な予後不良染色体異常であるdel(7q)について、腫瘍特異的なメチル化により不活化を受ける遺伝子という観点からその標的遺伝子を同定することを目的として、MDS由来細胞株を含む52種類の検体について、7qのCpGアイランドの網羅的メチル化解析を行った。すなわち、公表された7番染色体長腕の塩基配列データベースから、CpGアイランドの定義を満たす配列を抽出し、各CpGアイランドのメチル化の有無と程度を、正常組織および腫瘍検体から抽出したDNAを用いてbisulfite法により解析した。さらに、腫瘍特異的なメチル化が観察されている遺伝子については、その腫瘍細胞での発現とメチル化との相関を解析することにより、メチル化により発現の抑制を受ける遺伝子の同定を試みた。一方、アレイCGH法の確立とこれを用いたMDS検体のゲノム解析については、FISH法によりヒトゲノムへのユニークなマッピングが確認されている3600個のBAC/PACクローンについて、改良型DOP-PCR法によりプラスミドDNAの増幅を行った。増幅したDNAをスライドガラス上にスポットすることにより、ヒトゲノム全体について約1Mbの解像度で増幅・欠失を検出することが可能なCGHアレイを作成し、続いて、作成したアレイを用いてMDSを含む造血器腫瘍検体の予備的解析を行った。すなわち、腫瘍検体をCy3、正常男性DNAをCy5で標識し、作成したアレイ上で競合的にハイブリダイズさせた後、スキャナーを用いてアレイ上のシグナルを検出解析することにより、腫瘍細胞におけるゲノムの欠失・増幅領域の同定を試みた。
b)転写因子AML1条件的欠失マウスの解析に関しては、すでに平成14年度の研究によりAML1 exon 4の両端にLoxP配列を挿入し、かつMx1-Creトランスジーンを有するマウスを作成し、pIpCの投与により成体の造血系で誘導的にAML1欠落させることが可能なマウスモデルの作成に成功しており、平成15年度においては、その造血系に生ずる異常の解析、主として巨核球系の異常を中心とした解析を行った。さらに、AML1を成体で後天的に欠失させた骨髄細胞を致死量の放射線照射を施したマウスに移植し、移植後各造血分画への寄与を測定することにより、AML1の成体造血における機能の検討を行った。また、コロニーアッセイおよびFACS解析による造血幹細胞およびリンパ球共通前駆細胞の解析を行った。
結果と考察
(1)染色体異常のゲノム解析について、昨年度に引き続き、特にMDSの不良予後に関連した染色体異常であるdel(7q)について、メチル化による遺伝子の不活化という観点からその標的遺伝子の探索を試みた。昨年までの網羅的メチル化解析の結果より、造血器腫瘍特異的にメチル化をうける20個の遺伝子群が同定されており、本年度は、これらの遺伝子群について、検討に用いた45種類の腫瘍検体における遺伝子発現を定量的PCR法により詳細に定量し、メチル化の程度と発現の相関を解析した。その結果、メチル化により遺伝子発現の低下を来すと考えられるdel(7q)の重要な標的遺伝子の候補として2つの遺伝子、PFTK1およびQ9P1T7を同定することが出来た。今後これらの遺伝子に関してはMDS患者検体を用いた欠失解析、変異解析により、7qの標的遺伝子としての可能性に関する検証を重ねる予定である。
(2)アレイCGH法に関しては、アレイ化された多数のBAC/PAC DNAを標的としてCGHを行うことにより、癌のゲノムに生じた遺伝子の増幅・欠失を網羅的に解析することを可能にする有用なゲノム解析技術である。我々は、約3600クローンからなるBAC/PAC DNAを用いて平均解像度約1Mbで全ゲノム領域の増幅・欠失をスクリーニングすることが可能なアレイCGHシステムを確立した。MDS患者検体10例を含む造血器腫瘍検体を用いた同アレイCGHシステムの性能評価では、巨視的な染色体の増幅・欠失は勿論、染色体分析では検出し得ない?10Mb以下の小さな領域の変化をも同定することが可能であることが示された。研究の最終年度である平成16年度の研究においては、本アレイCGHシステムを用いて多数のMDS患者検体を解析することにより、新たなMDSの標的遺伝子の同定を試みる予定である。
(3)転写因子AML1の不活化はMDSの患者で不活化変異が報告されており、その機能的喪失とMDSの病態の発症に重要な役割を果たしている可能性が強く示唆されている。一方、AML1に関してはそのホモ欠失体は胎生致死となることが知られており、これまで成体造血におけるAML1の機能的意義は全く不明であった。そこで、我々は成体造血におけるAML1の欠失とMDSの病態との関連を明らかにすることを目的として、Cre/LoxPシステムを用いて成体の造血系で誘導的にAML1遺伝子をノックアウトすることの可能なマウスを開発し、AML1欠失が成体造血に及ぼす効果を詳細に解析した。驚くべきことに、成体においてAML1を欠失させても顆粒球系、赤血球系の造血は正常に維持されることから、AML1は成体の造血幹細胞の維持自体には必要がないことが明らかとなった。一方、AML1を欠いたマウスでは、骨髄における異常巨核球の著増とともに血小板の低下が認められること、またリンパ球への分化も強く障害されていること、造血前駆細胞プールが増大していることから、AML1を欠失した造血前駆細胞には明確な質的異常が存在することが示されるとともに、AML1の機能的異常が血球分化の障害と無効造血を特徴とするMDSの病態に関与していることが個体レベルで示された。今後、これらのマウスを用いて、AML1を欠失する造血前駆細胞で上記の異常が生ずるメカニズムの解析を進めるともにレトロウィスルを用いた変異導入実験により、急性白血病発症モデルの確立とその標的遺伝子の同定を試みる。
結論
(1)MDSにおける予後不良染色体異常であるdel(7q)に関して、メチル化による不活化という観点からその標的遺伝子の同定を行い、腫瘍特異的にメチル化を受けて発現の低下を示すdel(7q)の標的遺伝子の候補としてPFTK1およびQ9P1T7を同定した。
(2)3600個のBAC/PACクローンを搭載し、ヒトゲノム全域について約1Mbの解像度でゲノムの増幅・欠失の同定を可能にするCGHアレイおよび解析システムを構築し、これを用いてMDS検体10例を含む造血器腫瘍検体17例の解析を行った。アレイCGHでは染色体分析で認められる巨視的な染色体の異常に加えて、染色体分析では同定不可能な小さな領域の増幅・欠失についても検出が可能で、多数のゲノム異常が同定された。
(3)AML1を成体造血系で欠失したマウスの解析により、AML1は成体における造血幹細胞の維持自体には必要はないが、その欠失により無効造血を含む血球分化の障害が惹起され、MDS様の病態が再現されることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-