循環器系疾患治療のための次世代遺伝子導入ベクターの創製(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300356A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器系疾患治療のための次世代遺伝子導入ベクターの創製(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
田畑 泰彦(京都大学再生医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岸田晶夫(国立循環器病センター研究所)
  • 浅原孝之(東海大学)
  • 盛英三(国立循環器病センター研究所)
  • 永谷憲歳(国立循環器病センター研究所)
  • 清水達也(東京女子医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム・遺伝子治療・生命倫理分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
48,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、虚血性心筋症(心筋梗塞、心筋症)や慢性閉塞性動脈硬化症などの血管狭窄病変に対する遺伝子細胞療法のための両親媒性遺伝子ベクターを開発し、これを用いて①血管内投与による高効率なGene Therapyさらに②血管成長因子等の遺伝子を導入した血管内皮前駆細胞などによるハイブリッド細胞-遺伝子治療法を開発することである。
研究方法
次世代遺伝子キャリアの作製と性質の評価
ゼラチンのカチオン化反応を行い、これを用いて架橋度の異なるカチオン化ゼラチンハイドロゲルを得た。125Iラベル化によりプラスミドDNA含浸ハイドロゲルおよびハイドロゲルのddYマウスの背部皮下における残存放射活性の時間変化を調べた。次に、プラスミドDNA含浸カチオン化ゼラチンハイドロゲルをマウス大腿筋肉内に埋入後の筋肉内でのプラスミドDNA発現を評価した。一方、片末端活性化エステルをもつポリエチレングリコール(PEG、重量平均分子量:5,000)を反応させ、PEG導入カチオン化ゼラチン(PEG-ゼラチン)を作製した。PEG-ゼラチンとプラスミドDNAとのポリイオンコンプレックスについて、分子サイズ、ゼータ電位、ならびにカラムに対する吸着などの物理化学的なキャラクタリゼーションを行った。さらに、PEG-ゼラチンとプラスミドDNAとのコンプレックスをマウス筋肉内に投与した後の遺伝子発現についても調べた。
高分子-遺伝子複合体の新プロセス開発に関する研究
重合度、けん化度の違う三種類のポリビニルアルコール(PVA)水溶液にDNA水溶液を添加後,密封し,40℃において10000atmで10分間処理した。高圧処理におけるDNAとPVAの相互作用を観察するために電気泳動を行った。 次に、分子量の異なる3種のPVAとFITCで蛍光標識した緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードしたプラスミドDNAからなる複合体を用いて、FITCの蛍光強度から複合体の細胞内への取り込みを評価した。
ヒト組み換えDNA生分解性物質の開発
培養した成人末梢血由来血管内皮前駆細胞(EPC)にhypoxia inducible factor1-alpha(Hif1-alpha)遺伝子を導入した。この遺伝子導入したEPCをex vivo にて培養後、重傷下肢虚血マウスモデルに静脈内投与し、Laser Doppler Analysisにより4週後に血流量を評価した。
細胞への遺伝子導入法の開発と循環傷害への応用
EPCにカチオン化ゼラチン遺伝子キャリアシステム(GFPおよびアドレノメデュリン遺伝子を含有)を貪食させ、細胞内での遺伝子発現をGFP遺伝子で検討し、肺高血圧モデル等で細胞-遺伝子ハイブリッド治療の効果を検討した。また、血管再生の評価方法として、これまでの放射光を線源とする微小血管造影法に代わる、病院に設置可能な普及型微小血管造影装置の試作機を作製した。
遺伝子導入細胞を用いた肺高血圧治療法の開発
ウサギ下肢虚血モデルを作製後にアドレノメデユリンプラスミドDNA(500μg)、同量のアドレノメデユリンプラスミドDNAとカチオン化ゼラチン遺伝子キャリアとの複合体、カチオン化ゼラチン遺伝子キャリアのみを下肢骨格筋内に投与した。1ヵ月後に虚血下肢の血流改善度と筋肉内の毛細血管数を比較した。またラット下肢虚血モデルを作製し、アドレノメデユリン(ペプチド)の局所投与及び骨髄単核細胞の移植を同時に行った群の治療効果を、アドレノメデユリン単独投与群、細胞移植単独群と比較した。
遺伝子導入細胞の組織移植用シートへの応用
温度応答性高分子であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を電子線照射により表面グラフトした培養皿を用いて、新生仔ラット心筋細胞を培養し細胞シートを作製した。低温処理により脱着した細胞シート4枚を積層化後ヌードラット背部以下組織に移植した。比較対照としてシート4枚に相当する細胞数の心筋細胞浮遊液を対側の背部皮下組織に移植し、経時的に組織像を観察した。次に、遺伝子導入のターゲットとしてEPCをラット末梢血より単離培養後、2枚の心筋細胞シート間に挿入し、in vitroで培養し、背部皮下組織への移植実験を行った。
結果と考察
次世代遺伝子キャリアの作製と性質の評価
カチオン化反応におけるエチレンジアミンと水溶性カルボジイミド濃度を変化させることでゼラチンへのアミノ基導入率は変化した。このカチオン化ゼラチンからなるハイドロゲルは時間とともに生体内で分解していくことがわかった。ハイドロゲルの生体内分解性はその架橋程度によりコントロールできた。ハイドロゲルに含浸させたプラスミドDNAの生体内残存の時間変化はハイドロゲルの生体内残存の時間変化とよく相関していた。これは、体内でプラスミドDNAが、その徐放キャリアであるハイドロゲルの分解性によってコントロールされていることを示している。プラスミドDNA含浸カチオン化ゼラチンハイドロゲルをマウス筋肉内に埋入時の埋入部位における遺伝子発現が見られた。埋入2日目から水溶液プラスミドDNA投与に比較して、有意に高いレベルの遺伝子発現が認められ、その発現期間も延長した。また、この遺伝子発現期間は、プラスミドDNAの徐放期間の延長とともに延長した。次に、PEGを導入したカチオン化ゼラチン(PEG-ゼラチン)を用いて、プラスミドDNAとのポリイオンコンプレックス形成について調べた。DLS測定、吸着実験の結果、PEG-ゼラチンとプラスミドDNAとがポリイオンコンプレックスを形成し、そのコンプレックス表面がPEG分子鎖でおおわれていることが示された。これらのPEG-ゼラチン-プラスミドDNAをマウス筋肉内に投与したところ、遺伝子発現が認められた。
高分子-遺伝子複合体の新プロセス開発に関する研究
PVA-プラスミドDNA混合溶液を超高圧処理した後に電気泳動を行い、複合体形成を検討した。数種のPVAを用いたが、昨年報告したDNAマーカーの場合と比較すると、より高分子量のPVAを用いなければ複合体は生成しなかった。重合度1500以上のPVAであれば複合体の形成バンドが観察された。この結果より、PVAであれば複合体とDNAの複合体形成には双方の分子量が影響することがわかった。PVA分子はそれ自身で集合体を形成する能力を有しており、これにDNAが相互作用するのではないかと考えている。次に、PVA-プラスミドDNA複合体の細胞内への取り込みについて検討を行った。種々の細胞を用いて検討を行った結果、特に貪食能の高い細胞において、多量に取り込まれていることが明らかとなった。マクロファージ系の樹立細胞であるRAW細胞にPVA-プラスミドDNA複合体を投与した場合、ほぼすべての細胞がFITCに由来する蛍光を発しており、高い取り込みが実現されていることがわかった。さらに、GFP遺伝子を用いて遺伝子発現を観察したところ、ほとんどすべての細胞は弱くではあるが、発現していることがわかった。
ヒト組み換えDNA生分解性物質の開発
Hif1-alpha遺伝子導入EPCの増殖能・遊走能はコントロール遺伝子導入EPCに比し有意に上昇していた。また虚血組織内の新生血管数は、有意に増加しており、Laser Doppler AnalysisではHif1-alpha遺伝子導入EPC移植群において有意に血流の改善が認められた。
細胞への遺伝子導入法の開発と循環傷害への応用
アドレノメデュリン遺伝子を含むカチオン化ゼラチン遺伝子キャリアシステムを貪食させたEPCは、ラットの肺高血圧モデルで、EPC単独治療群よりも有意に肺血圧と肺血管抵抗を低下させた。動物の生存期間も延長させた。遺伝子導入による副作用は認められなかった。次世代遺伝子ベクターによる安全で高率の高い遺伝子導入法が確立された。一方、空間像度50μmの普及型微小血管造影装置の最終機を完成させ、動物実験でその有用性を確認した。今後は国立循環器病センターに移設し臨床治験で、再生医療における有用性の評価を行う。
遺伝子導入細胞を用いた肺高血圧治療法の開発
ウサギ下肢虚血モデルへのアドレノメデユリン遺伝子導入によって、レーザードップラーより求めた虚血下肢/健側下肢血流比が有意に改善し、また毛細血管数の有意な増加が認められた。アドレノメデユリンは骨格筋内のAktをリン酸化し血管新生に働くことが明らかとなった。アドレノメデユリンプラスミドDNAとカチオン化ゼラチン遺伝子キャリアとの複合体の投与はプラスミドDNA単独に比べ、骨格筋内のアドレノメデユリンの発現およびその発現期間を持続させ(2週間以上)、強力な血管再生作用を示した。またアドレノメデユリン投与と骨髄単核細胞移植の併用群では、アドレノメデユリン単独投与群、細胞移植単独群と比較してレーザードップラーによる下肢血流量の増加と毛細血管数の増加を認めた。In vitroではアドレノメデユリンは骨髄単核細胞のアポトーシスを抑制し、血管内皮細胞への接着、分化を促した。
遺伝子導入細胞の組織移植用シートへの応用
細胞浮遊液の移植と重層化細胞シートの移植との比較において前者では移植後早期にTUNEL陽性細胞を認め、7日目では球状の細胞塊の中央部に壊死組織を認めたのに対し、後者ではTUNEL陽性細胞は認めず経時的にも層状の組織内に壊死組織は認めなかった。また前者では数日してからconnexin43の発現を認めたのに対し、後者では組織内に最初からconnexin43の発現を認めた。また蛍光ラベルしたEPCを心筋細胞シート間に挿入し培養後、皮下組織に移植したところ前駆細胞が拍動する心筋組織内に生着して残存していることが確認された。また一部の細胞は管状構造を形成し血管網の再構築に貢献していることが示唆された。
結論
生体吸収性のカチオン化ゼラチンからなる徐放キャリアとしてハイドロゲルを作製した。この徐放システムは、ハイドロゲルの分解にともなってプラスミドDNAが徐放化し、その発現レベルの増強、徐放化による遺伝子発現期間の延長が可能となった。アドレノメデュリン遺伝子をゼラチンハイドロゲルから徐放することによって、遺伝子の水溶液投与と比較して、虚血動物モデルでの有効な血管新生効果が見られた。カチオン化ゼラチンにPEGを結合することにより、プラスミドDNAと相互作用する粒子サイズの小さなハイドロゲルの作製ができた。また、超高圧を用いて超微細粒子を作製する新しいプロセスを開発し、微粒子状の加工に成功した。また、このキャリアシステムによって、モデル遺伝子の細胞内取り込みを高めることを確認した。EPCなどの貪食能を有する細胞がプラスミドDNAとカチオン化ゼラチン複合体を貪食し、細胞質内でその貪食した遺伝子の発現が見られるとともに、その発現レベルがウイルスベクターを用いた場合と同じレベルまで高まることを見いだした。この複合体を利用した遺伝子治療と細胞治療を評価できる動物モデルを用いて、ゼラチン遺伝子複合体による治療実験を進めている。今年度では、アドレノメデュリンあるいはHif1-alpha遺伝子のEPCへの遺伝子導入と虚血疾患治療に対する有効性を確認した。また、温度応答基材を利用した心筋細胞シートの重層化技術を完成し、得られた心筋細胞シートが期待通り、機能していることをin vitroで確認した。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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