SLEを中心とした自己免疫疾患感受性遺伝子の解明(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300355A
報告書区分
総括
研究課題名
SLEを中心とした自己免疫疾患感受性遺伝子の解明(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
笹月 健彦(国立国際医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小池隆夫(北海道大学)
  • 白澤専二(国立国際医療センター研究所)
  • 三森明夫(国立国際医療センター)
  • 土屋尚之(東京大学)
  • 中村道子(東邦大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム・遺伝子治療・生命倫理分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
免疫システムにおける"自己寛容"の破綻した状態としてとらえられる自己免疫病の病因はいまだに明らかにされていない。自己免疫疾患を広義にとらえるとその有病率は約4%にもおよび、ときには致死的経過をとる病態であること、難治性であり慢性の経過をたどること、QOLの著しい低下を伴うことを考慮すると、その病因の解明とそれに立脚した治療法の確立は現代医療に課せられた急務である。本研究では、全身性自己免疫疾患の代表である全身性エリテマトーデス(SLE)を中心とした自己免疫疾患の疾患感受性遺伝子とその遺伝子変異の同定を行い病因を解明し、それに立脚した病態の解明と先駆的診断・治療法の開発に資することを目的とする。この成果は、リウマチ、Graves病、橋本病なども含めた自己免疫疾患に共通の病因の解明にもつながり、国民の保険・福祉・医療の向上に貢献できると考えられる。
研究方法
SLEを中心とした自己免疫疾患患者の末梢血採取とゲノムDNA抽出・保存を行う研究グループとそれらのDNAを利用したゲノム解析による感受性遺伝子同定を行うグループにより研究を効率よく進行させる。1) SLEの検体収集:小池(北大)は、厚労省「自己免疫疾患に関する調査研究」班(代表:小池隆夫)の組織を活用することにより、"All Japan"の協力体制のもとに検体の収集に関わるシステムを構築し、検体収集を行い、DNAの抽出・保存を行う。三森は国立国際医療センターにおいてSLE検体収集のシステムを樹立し、サンプルの収集を行う。中村(東邦大)は、SLEの大家系の検体の収集を行う。2) SLE多発家系の解析:同胞4人中3人がSLEを発症し、患者の父方祖母と母親がはとこである近親婚の大家系の9人に対して全ゲノムに対する約400個のマイクロサテライトマーカーにつき笹月・白澤(国際医療センター)は解析を行う。3) SLE弧発例の解析:笹月・白澤はH14年度に構築した"high throughput"なゲノム解析システムを利用し、マイクロサテライトマーカーとSNPsを駆使して、感受性遺伝子座の絞り込みと感受性遺伝子の同定を行う。4) 候補遺伝子からの解析:土屋(東大)は独自に収集したSLE弧発例を利用し、複数の候補遺伝子につき相関解析を行い感受性遺伝子を同定する。5) 倫理面への配慮:これらの研究では、研究対象者に対する人権擁護に関しては最大の配慮を行い、また、研究による不利益・危険性の可能性とそれらを可能な限り排除する方法等についても、十分の説明を行い、理解して頂いたのちインフォームド・コンセントの書式で各説明事項にチェックと署名をしてもらう。全ての研究機関において、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(平成13年3月29日:文科省・厚労省・経済産業省告示第1号)にのっとった倫理委員会により、研究は承認されている。
結果と考察
1) SLE検体の収集:小池(北大)は、厚労省「自己免疫疾患に関する調査研究班」(代表:小池隆夫)およびリウマチ学会員の協力を得て、弧発例を348例収集した。三森(国際医療センター)は、96例の弧発例の収集を行った。合計として、444例の弧発例の収集がなされた。SLE罹患同胞対に関しては、これまでに26組の同胞対サンプル収集が行われたが、さらに『検体収集のお願い』をSLEの診療に従事する日本全国の医療関係者に対して行った。一方、中村(東邦大)は、近親婚において同胞4人中3人がSLEを発症している大家系で、3世代にわたる9人より末梢血液採取、血液・生化学的データの収集を改めて行った。2) SLE多発家系の解析:笹月・白
澤(国際医療センター)は共同で、患者3人を含む9人の家系構成員に対して、全ゲノムに均等に存在する400個のマイクロサテライトマーカーを用いてhomozygous mappingを行い、これまでにSLE感受性遺伝子座領域として報告された領域と一致する2つの遺伝子座(4p16と16q13)を感受性遺伝子座として同定した。3) SLE弧発例の解析:4p16候補領域に対して、マイクロサテライトマーカー、SNPsを用いた患者一対照群による相関解析で感受性遺伝子座の狭小化を試みた結果、2候補領域を同定したが、その領域にはそれぞれgene Aとgene Bが存在した。更に、免疫システムに関与すると推定される4p16領域の候補遺伝子に対して、SNPによる相関解析を行った結果、gene Cとgene Dを候補遺伝子として同定した。4) SLE候補遺伝子の解析:土屋(東大)はFCGR2Bとの相関(I232T)を日本人のみならずタイ人、中国人においても見いだし、更にCD72多型とSLEにおける腎症との相関を見いだした。 多因子疾患感受性遺伝子を同定するには、検体収集システムの樹立と効率的なゲノム解析システムの構築が必要である。検体収集に関しては小池(北大)によりH14年度に"All Japan"の協力体制の下でのシステムが構築され、それを利用することによりこれまでに348例の弧発例が収集されたこと、及び、三森(国際医療センター)が国立国際医療センターにおいて96例の弧発例を収集し、合計で444例の弧発例が収集されたことは、目標を充分に到達したと評価される。今後、相関解析の信頼性を高めるために、当初の目標を超える600-800例の検体収集を平成16年度に達成すべく、検体収集に関しては一層の努力を継続する予定である。又、中村(東邦大)が収集したSLE多発家系の3世代にわたる9人のゲノム解析から、候補遺伝子領域として4p16と16q13が同定されたことも評価に値すると考えられる。実際に、その情報をもとに、弧発例に対して4p16領域の解析を進行させた。SLE同胞対収集に関しては、今後の一層の努力が必要となってくる。弧発例に対する候補遺伝子解析では土屋(東大)がFCGR2Bとの相関(I232T)を日本人のみならずタイ人、中国人においても相関を見いだし、更にCD72多型とSLEにおける腎症との相関を見いだした。今後は、これらの相関に関して、この研究で収集されたSLE検体に関しても、相関解析を行い再現性を確認する必要性がある。 笹月・白澤は国立国際医療センターに"high-throughput"なゲノム解析システムをH14年度に構築し、そのシステムを利用することにより、多発家系の解析を行い、感受性遺伝子座候補として、4p16を同定し、さらにこの領域に対して、弧発例に対して、マイクロサテライトマーカーによる候補遺伝子座の絞り込みを行い、2つの遺伝子(gene Aとgene B)を同定し、更に免疫関連遺伝子に対するSNP解析により、別個にgene Cとgene Dを候補遺伝子として同定した。今後は、さらなる検体収集を待って、これらの4つの遺伝子に対して密な相関解析を行うことにより、感受性遺伝子と病因に関与するSNPの同定を行う予定である。 一方、同胞対収集に関しては困難が伴っているが、今後も積極的に行い、日本人ではまだ行われていない罹患同胞対法の連鎖解析による日本人における候補領域の同定が非常に重要になってくると考えられる。3年計画の2年目として、当初の目的は充分に達成できたと考えられる。
結論
各研究においてヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に基づいて、各倫理審査委員会での承認を得、以下のことを行った。1) “All Japan"の協力体制が構築され、SLE弧発例に関しては合計で、444例が収集がされた。SLE罹患同胞対に関しては、これまでに26組の同胞対サンプル収集が行われたが、さらに『検体収集のお願い』をSLEの診療に従事する日本全国の医療関係者に対して行った。一方、中村(東邦大)は、近親婚において同胞4人中3人がSLEを発症している大家系で、3世代にわたる9人より末梢血液採取、血液・生化学的データの収集を改めて行われた。2) 患者3人を含む9人の家系構成員に対して、全ゲノムに均等に存在する400個のマイクロサテライトマーカーを用いてhomozygous mappingを行い
、これまでにSLE感受性遺伝子座領域として報告された領域と一致する2つの遺伝子座(4p16と16q13)を感受性遺伝子座として同定した。3) 4p16候補領域に対して、マイクロサテライトマーカー、SNPsを用いた患者一対照群による相関解析で感受性遺伝子座の狭小化を試みた結果、2候補領域を同定したが、その領域にはそれぞれgene Aとgene Bが存在した。更に、免疫システムに関与すると推定される4p16領域の候補遺伝子に対して、SNPによる相関解析を行った結果、gene Cとgene Dを候補遺伝子として同定した。4) 候補遺伝子解析によりFCGR2Bとの相関(I232T)を日本人のみならずタイ人、中国人においても見いだし、更にCD72多型とSLEにおける腎症との相関を見いだした。

公開日・更新日

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