ゲノム医学を用いた骨粗鬆症疾患遺伝子の同定・機能の解明とその診断・治療への応用(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300352A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム医学を用いた骨粗鬆症疾患遺伝子の同定・機能の解明とその診断・治療への応用(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
井上 聡(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤茂明(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 堺隆一(国立がんセンター研究所)
  • 津久井通(埼玉医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム・遺伝子治療・生命倫理分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
退行期骨粗鬆症は、加齢にともなう骨量の減少が病的に亢進した状態と、それに基づく腰背痛や骨折などの臨床症状からなる症候群である。本症は罹患者、特に高齢者の生活の質を低下させ、その患者数は年々増加しており、病態の解明とともに予防法、治療法の確立が強く望まれている。本症の治療薬として有効とされているものうち、エストロゲンとビタミンDは核内受容体を介して作用する。さらには、治療薬が主に細胞内の情報制御伝達系を介して働くことから、核内受容体、転写因子、細胞内シグナル伝達因子、膜受容体、酵素を含む遺伝子情報制御分子が骨粗鬆症疾患遺伝子として関与していることが想定される。ヒト全ゲノムの配列、遺伝子情報が決定される現在の状況において、骨粗鬆症および骨代謝における遺伝子情報制御分子の作用機序を解明することにより、骨粗鬆症の病態解明、診断、治療に役立てることが出来ると考えられ、これら分子の基本的な作用機構と新しい標的因子、骨代謝における生物学・医学的役割を知ることが重要である。本研究の目的は、1)ゲノム医学の手法を活用し、骨における遺伝子情報制御分子ならびにその共役因子、標的因子群を網羅的に同定するとともにその機能を分子レベルで解明し、2)遺伝子改変動物とヒト遺伝学的解析を用いて、生物個体レベルでそれらの分子の骨代謝における役割を解明することにより、骨粗鬆症の疾患遺伝子としての意義を明らかにし、遺伝子診断、ゲノム創薬により新しい診断、治療法への応用を計ることにある。
研究方法
1)エストロゲンによる骨形成制御機構に関する検討を行うため、アデノウイルスによる遺伝子導入、マイクロアレイ法を用いて骨芽細胞におけるエストロゲン応答遺伝子の探索とその機能解析を行った。2)ビタミンD3応答遺伝子であるp57Kip2による骨形成制御機構に関する検討を行うため、p57Kip2ノックアウトマウス由来骨芽細胞を用いて、p57Kip2シグナル下流遺伝子をマイクロアレイ法により探索した。3) Wnt-βカテニンシグナル伝達因子sFRP4の遺伝子多型が骨量に及ぼす影響をSNPを用いたゲノム解析により検討した。SFRP4の骨芽細胞分化における発現変化を、ラット初代培養骨芽細胞分化誘導系において定量的PCR法を用いて検討した。4) 2次元電気泳動法とTOF-MS質量分析機によるプロテオーム解析法を活用して、骨芽細胞においてビタミン Kに応答して変化が起きる蛋白質群の探索を行った。5) ビタミンKの骨芽細胞における作用における核内受容体ステロイドX受容体(SXR)の役割を、結合実験、転写活性実験、定量的PCR、遺伝子改変動物の系を用いて、分子生物学的に検討した。6) エストロゲン受容体新規共役因子を複合体として、それぞれの構成分子に関してTOF-MS質量分析機を用いて生化学的に同定し、機能解析を行った。7) ビタミンK、エストロゲンシグナルの骨代謝における生体作用解析を、コンディショナルトランスジェニック動物の作製により行った。8)エストロゲン受容体を膜近傍に発現させ、エストロゲンの骨代謝におけるnon-genomic作用の解析を、蛋白生化学の手法を用いて複合体精製とTOF-MS質量分析機を用いた同定により行った。9) 2次元電気泳動・免疫沈降により骨における新しいチロシンリン酸化経路の解析を行った。10) Casノックアウトマウス細胞において発現が変化する遺伝子の解析をコントロール細胞と比べることによりマイクロアレイ法を用いて行った。
結果と考察
1)エストロゲンによる骨形成制御機構
に関する検討:骨芽細胞におけるエストロゲン応答遺伝子の探索を行ったところ、トランスグルタミラーゼ、Creatine Kinase B、Keratin 19、KIAA0843の4つが得られた。それぞれは、蛋白架橋や、エネルギー代謝、細胞骨格形成に関わることが想定され、閉経後骨粗鬆症に関連して、骨におけるエストロゲンの新しい分子標的が同定された。骨粗鬆症治療薬の開発や評価系に応用できることが期待された。2)ビタミンD3応答遺伝子であるp57Kip2の下流に骨基質蛋白質オステオポンチンが同定された。p57Kip2は骨芽細胞の増殖と分化に深く関与し、そのノックアウトマウスは骨形成異常を呈する。老人性骨粗鬆症の治療には、骨芽細胞を刺激して、骨形成を促す新薬の開発が待望される。今回新しく見出したシグナル経路の骨形成における役割が注目された。3) Wnt-βカテニンシグナル伝達因子sFRP4やDBPのSNPが骨量と相関した。骨粗鬆症疾患遺伝子を探索するため、ゲノムワイドのSNP解析を候補遺伝子からのアプローチと並行してすすめており、複数のマーカーの組み合わせから、遺伝子診断、オーダーメード医療への応用が期待された。4) 骨芽細胞におけるビタミン K応答蛋白質の探索により、プロテオーム解析により同定した。その結果、蛋白質レベルでの分子標的としてHsc70が明らかとなった。蛋白修飾を引き起こすビタミンKの従来の作用に対しての標的因子の探索とあわせ、新しい分子標的の解明が進んでいる。5)ビタミンKの骨芽細胞における作用において、従来の蛋白修飾の補酵素としてのはたらきとは全く別の、ステロイドX受容体(SXR)を介する転写レベルでの予想外のシグナル経路を明らかにした。このことにより、新規骨粗鬆症治療薬開発の分子標的を見出し、リファンピシンなどのリガンド関連小分子がその候補にあがった。6) エストロゲン新規受容体共役因子を複合体としてSERMに関連して同定し、その機能解析が注目された。それら新規因子の遺伝子改変動物も作製が進んでおり、骨における病態が興味深い。7) ビタミンK、エストロゲンシグナルの新しいコンディショナルトランスジェニック動物を作製した。特にBGPコンディショナルトランスジェニックマウスにおいて、その骨での発現は著明な石灰化の異常をきたし、骨粗鬆症に関連する疾患モデル動物としての応用が期待された。エストロゲン受容体のコンディショナルトランスジェニックの作製にも成功し、骨における表現型が注目される。8) エストロゲンの骨代謝におけるnon-genomic作用の解析から、新しいシグナル伝達複合体が明らにした。膜近傍におけるエストロゲン作用が閉経後骨粗鬆症で重要な役割を担っているとの報告もあり、従来の作用経路と比較しそれぞれの経路の役割を検討する。9) チロシンリン酸化蛋白質の分離法を確立し、骨芽細胞での新しいシグナル経路を明らかにした。10) Casノックアウトマウス細胞で発現が変化する遺伝子の解析から骨の細胞における新しいシグナル伝達経路のかかわりが示された。
結論
本研究により、骨粗鬆症治療薬であるエストロゲンとビタミンKの骨における新しい分子標的、シグナル経路を明らかし、さらに骨粗鬆症治療薬と密接に関連した骨粗鬆症疾患モデル動物を作製解析し、新しい治療法への応用が期待された。また骨粗鬆症治療薬の分子標的に関して、p57 をはじめとする複数の骨粗鬆症疾患候補遺伝子の機能や骨代謝における役割を明らかにした。骨量に相関する遺伝子のSNPを多数同定し、ゲノムワイドな研究を推進し、遺伝子診断、オーダーメード医療への応用が示唆された。このように、骨粗鬆症に対する多角的アプローチによる研究をDNA、RNA、蛋白レベルで、ゲノム医学ならびに独自に開発した手法を用いて取り組み、新しい骨粗鬆症における疾患遺伝子を探索し、骨粗鬆症モデル動物の開発解析と新規標的因子の同定機能解析を推進した。今後、骨粗鬆症疾患遺伝子の役割の解明を目指し、基礎ならびに臨床医学的なアプローチにより、さらに研究を発展させていく。

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