介護予防に特化した在宅訪問指導プログラムの有効性評価に関する介入研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300244A
報告書区分
総括
研究課題名
介護予防に特化した在宅訪問指導プログラムの有効性評価に関する介入研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 荒井啓行(東北大学大学院)
  • 永富良一(東北大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,760,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
要介護となる状態の発生を予防する(遅らせる)ことを目的として、転倒骨折予防、閉じこもり高齢者への働きかけ、食の自立支援、口腔ケア、痴呆予防など、様々な介護予防事業が全国で展開されている。今後、これらの事業をさらに効果的に実施するには、以下の2つの課題を果たすことが不可欠と思われる。第1に、虚弱高齢者の抱える諸問題に関する総合的かつ多面的な評価(Comprehensive Geriatric Assessment; CGA)を実施した上で、個々人に最も必要となる介護予防サービスを総合的に提供するといった、介護予防アセスメント及びプラン作成の過程を確立すること。第2に、身体機能の低下などのため外出困難である者や閉じこもりなどのため外出したがらない者を対象に、居宅訪問による個別的な指導と予防サービスの体系を整備する必要があること。本研究の目的は、これら2つの課題に対して実証的な回答を提示することである。そのため、仙台市宮城野区鶴ヶ谷地区の70歳以上住民を対象に、平成14年度と15年度の2回にわたって、「寝たきり予防健診」という高齢者CGAを実施した。ここでは、東北大学の11分野及び東北文化学園大学の共同により、運動機能・認知機能・うつ・呼吸循環機能・歯科口腔状態・聴覚・泌尿器科的状態・生活習慣・社会的状況などを評価した。これらをもとに、介護予防の観点から受診者に対する個別指導を行うとともに、運動機能低下と抑うつ状態に対する介入研究を実施した。運動機能低下に対する介入研究では、以下の2点を目標とした。第1に、運動訓練終了後も高齢者が日常生活中で運動習慣を維持できるように生活指導を実施し、その効果を評価した。第2に、教室開催型の運動訓練に参加を希望しなかった虚弱高齢者を対象に、居宅訪問による運動指導を実施して、その効果を評価した。抑うつ状態に対する介入研究では、「寝たきり予防健診」で評価した抑うつ状態スコア(Geriatric Depression Score; GDS)をもとに、東北大学医学部精神神経科の医師が対象者の居宅を訪問して、うつ診断及び治療を1年間にわたって実施している。
研究方法
本研究は、「寝たきり予防健診」の実施、虚弱高齢者に対する運動訓練に関する研究、抑うつ高齢者に対する訪問指導プログラムの3者より構成される。すべての研究は東北大学医学部倫理審査委員会の承認のもと、適切なインフォームドコンセントにより行われており、倫理面の問題は存在しない。「寝たきり予防健診」は、仙台市宮城野区鶴ヶ谷地区の70歳以上住民を対象に行われた。平成14年7月から8月に第1回健診を実施し、1,198名(44%)が受診した。そのうち1,178名から健診データの研究活用に関する同意を得た。平成15年7月の第2回健診を972名が受診した。上記1,178名のうち、671名(57%)が第2回健診も受診した。虚弱高齢者に対する運動訓練に関する研究は、虚弱高齢者に対する運動訓練と生活指導(教室型)の効果評価と虚弱高齢者に対する在宅訪問運動指導の効果評価の2つにより構成された。第1に、虚弱高齢者に対する運動訓練と生活指導(教室型)の効果を評価した。ここでは、虚弱な在宅高齢者を対象に、運動訓練に加えて運動習慣の増加に向けた生活指導プログラムを実施し、その効果を無作為割付対照試験により検証した。平成14年「寝たきり予防健診」を受診した上記1,179名のうち、運動機能検査4項目の総合判定で機能低下が認められた414名に運動訓練への参加を募集した。事前説明会に参加した150名に対して、問診・運動負荷試験などにより訓練への適格性を判定した。適格者86名を介入群43名と対照群43名とに無作為に割り付けた。介入期間は平
成14年10月末から6ヶ月間とした。介入群に対して、週1回 2時間半ずつの運動訓練を19回、月1回 20分ずつの個別生活指導を5回実施した。対照群には、介入群と同頻度・同時間の運動訓練のみを実施した。運動訓練は、厚生労働省老研局計画課監修「介護予防研修テキスト」に準じて、全体を3期(導入・教育期、筋力強化期、機能的強化期)に分け、段階的で適切な運動指導を行った。生活指導では、個別面談により、日常生活中の身体活動に基づいて具体的な目標値と運動課題を提示して、参加者の行動変容を促した。介入効果を判定する指標として、介入の前後で股関節外転筋力、バランス能、日常生活における身体活動量を測定した。第2に、虚弱高齢者に対する在宅訪問運動指導の効果を評価した。平成15年「寝たきり予防健診」受診者のうち運動機能検査の総合判定で機能低下が認められた190名に運動教室への参加を募集した。参加を希望しなかった者87名に理由を調査して、以下の理由(運動に自信がない、体力に自信がない、外出に困難や不安を感じる、人前に出ることを億劫に感じる、人前で運動することに抵抗がある)のいずれかに「はい」と回答した27名に在宅訪問運動指導の案内を行って、参加を希望した12名を介入の対象とした。運動指導員と看護師による訪問運動指導は、平成15年10月から月1回ずつ4回実施した。指導内容は、ストレッチ、筋力トレーニング、バランストレーニングについて、個々人の機能程度に応じたレベルを設定して行った。抑うつ高齢者に対する訪問指導プログラムでは、平成14・15年「寝たきり予防健診」の一次調査でGDS14点以上または自殺念慮評価で2項目に肯定的回答をした高齢者に対して、二次調査(精神科医と保健師・看護師の訪問による精神医学的な診断的評価)を実施した。本介入研究では、平成14・15両年の二次調査のいずれかで小うつ病または大うつ病と判定された高齢者を介入の条件とし、平成15年11月~12月に介入対象者を決定した。それ以降、平成16年7月までの予定で在宅訪問指導を継続している。
結果と考察
虚弱高齢者に対する運動訓練と生活指導(教室型)の効果評価では、介入群のうち35名(82%)、対照群で37名(86%)が6ヶ月間の介入を完了した。下肢筋力、バランス能力などの運動機能は、介入・対照両群とも、訓練前より訓練後で有意な改善を認めた。その改善程度には、群間差を認めなかった。日常生活における身体活動量(1日の総消費エネルギー量、中高度のエネルギー消費量、1日の歩数)は、(生活指導を受けない)対照群で低下した一方、(生活指導を受けた)介入群で増加する傾向が認められた。今後、運動訓練の終了から時間が経つにつれて、生活指導の長期的な影響により、両群の運動機能と身体活動量に差が生じる可能性がある。今後の追跡調査により生活指導プログラムの長期効果を明らかにしたい。虚弱高齢者に対する在宅訪問運動指導の効果評価では、Timed up & go testの値に有意な改善が認められた。横方向のファンクショナル・リーチでも運動指導後に改善傾向が見られた。その改善程度には集団運動指導群と在宅訪問運動指導群との間で差がなかった。一方、在宅訪問運動指導群では、SF36の社会生活機能、モチベーションのステージといった心理的指標に改善はなかった。抑うつ高齢者に対する訪問指導プログラムでは、平成15年「寝たきり予防健診」受診者で、GDSに欠損値がなく研究に関する同意が得られた者953名のうち、二次調査の対象となったのは148名であった。92名が二次調査に参加し、33名がうつ病と判定された。そのうち27名が介入研究への参加に同意した。一方、平成14年の二次調査でうつ病と判定されていたが、平成15年の二次調査でうつ病と判定されなかった者が7人いた。この7人にも参加を募ったところ、3人から同意を得た。したがって、平成15年「寝たきり予防健診」参加後の二次調査実施者の中で、介入対象となったのは30人であった。これに平成14年にうつ病と診断された者のうち、平成15年健診の非受診者50名および平成15年健診を受診して二次調査の非該当だった者14名についても、改めて精神医学的評価を行い、そのうち1
9名が介入の対象と判定され、その同意を得た。以上より、49名(参加率=42%)が、訪問指導による介入試験に参加した。訪問指導は平成16年7月まで継続される予定であり、本報告書の作成時点で何らかの結果を述べることは不可能である。しかし現在までのところ、参加者のコンプライアンスも良好であり、順調に経過している。本介入研究の最終結果がまとまり次第報告する予定である。
結論
都市部高齢者を対象に介護予防に特化した健診プログラムと運動・抑うつに対する訪問指導プログラムを考案し、その有効性を介入研究の手法により検証した。そのため、仙台市宮城野区鶴ヶ谷地区の70歳以上住民を対象に、平成14・15年に心身機能などの総合評価(CGA)である「寝たきり予防健診」を実施した。その結果に基づいて、虚弱高齢者に対して日常生活中の身体活動の増加に向けた個別指導と運動訓練を行うとともに、外出が困難である高齢者には訪問による運動指導を実施した。さらに、抑うつ状態高齢者には、精神科医と保健師・看護師の訪問による精神医学的な診断的評価と治療を実施している。これら介入の有効性が示唆された一方、実施に係る諸問題(対象者における応諾率の低さ、費用対効果の限界など)も明らかとなった。これらをもとに、よりよい介護予防サービスの提供システムに関する検討を深めるものである。

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