自立から死亡までのプロセスとコストの分析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300243A
報告書区分
総括
研究課題名
自立から死亡までのプロセスとコストの分析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 泰(国際医療福祉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 緒方俊一郎(社会福祉法人ペートル会)
  • 大河内二朗(産業医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
2,535,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人本年度は、3年継続調査の3年目であり、これまでの研究成果の総括を行う目的で今年度は3つの研究目的を掲げた。第一は、高齢者の状態像の推移確率を記述すること、第二は軽度障害や重度障害に陥るリスクファクターを検討すること、第三は本研究のタイトルにもある自立から死亡までのコストの検討することである。
研究方法
本研究は、熊本県球磨群相良村において65歳以上の高齢者 (文書で同意を得た対象者1257人)を対象とし、福祉法人ペートル会、在宅介護支援センターの調査協力員の協力を得て実施されている。また今年度は、比較対照として、愛媛県越智郡大三島町(文書で同意を得た対象者1840)のデータを加えて、報告する。
相良村および大三島において1999年から2003年にかけて高齢者の状態評価はを筆者が開発したTAI法(イラストを用いた高齢者区分法)を利用し、活動、精神、食事、排泄の状態を、5(自立)から0(廃絶)の6段階で評価した。その評価結果をもとに高齢者を「自立(自宅)」「軽度障害(自宅)」「重度障害(自宅)」「施設入所」「入院」「死亡」のいずれかに区分した。なお本研究において、「自立」とは移動、精神活動、食事、排泄において、見守りも直接介護も不要である群、「軽度障害」は、これら4項目において見守りは必要だが、直接介助は不要(ほぼ要支援・要介護1に相当)、「重度障害」は、これら4項目において、直接介助が必要な群(要介護2以上に相当)である。また今年度は、各高齢者の疾病や生活に関する調査を行なった。
個人情報保護条例が2002年4月より施行されたため、本年度の調査では、村民に調査協力の意思を改めて再確認し、文章による同意を得た場合のみを対象とすることとなった。
結果と考察
多くのコホート調査では、開始時および終了時のデータはあるが、その間のデータがないため、どのような経路(Trajectory)をたどって高齢者の機能が悪化するのか明らかではない。本研究の特徴の一つとして、途中経過データがあるため、詳細に推移を検討することができた。
(1) 年齢の影響 年齢は、機能低下に大きな影響をおよぼす。前期高齢者(74歳まで)と後期高齢者では、推移が大きく異なっている。例えば自立を維持する確率は74歳までは90%を超えているが、75歳では80%前後である。また自立から軽度機能障害の推移は74歳未満が5%前後に対し、75歳以上では10%を超える。同様に死亡の確率は74歳未満では1-6%であるが、75歳以上では、4-19%である。リスクファクターの検討においても1999年に自立の高齢者において、2003年の各状態への進展についての相対危険度を検討した。性別、家族構成についてコントロールした結果、高齢化(10年の高齢化の影響)と自立の高齢者の死亡の相対危険度は4.6、入院、入所の相対危険度は5.5、重度障害、軽度障害のいずれの状態に対しても悪化の影響を与えていた。一方1999年に軽度障害の高齢者における10歳の高齢化の死亡のオッズ比は3.2、入院は1.8、重度障害は2.9、自立への改善は0.56であることから、単に悪化するリスクが増加するばかりでなく、改善の可能性も低下していることがわかった。
(2) 性別の影響 性は年齢ほど大きな影響を及ぼしていない。しかし傾向として
①  男性は女性よりも死亡のリスクが高い。
②  男性は自立を維持する可能性が高い。
③  女性は、軽度機能障害を維持する可能性が高い。
年齢、家族構成でコントロールした結果、例えば自立の高齢者においては、4年後の男性の死亡のオッズ比は2.1であるが、軽度障害のオッズ比は0.6である。また軽度障害をスタートとしても、男性は、死亡および重度障害へのリスクが高い。なお、自立の状態の維持については推移確率の比較では有意差が認められた。以上から男性は「障害」が発生すると、その状態に耐えられず「死亡」へといっきに進んでしまう可能性を指摘している。これまでの様々な研究では、コホート追跡中に、男性が死亡してしまうため、コホート中に障害を持つ女性が多くなることが指摘されていた。本結果はその傾向を推移確率から直接明らかにしている。
(3)地域差 本調査の開始時点の対象者の特徴として大三島町では自立が多く、相良村では軽度障害が多かった。横断的な調査では、相良村が要介護者の比率が高いが、縦断調査を行うことにより、その概要がよりあきらかになった。すなわち、大三島と比較した場合、相良村の自立高齢者が1年以内に死亡するオッズ比が0.7であり、死亡の可能性が低い。また、推移確率の検討においても、相良村は大三島より軽度障害、重度障害の発生が多い。この結果は、死亡のリスクファクターと、障害のリスクファクターが異なる可能性があること、また、障害の発生が多い地域は、かならずしも死亡の可能性が高くないことを示している。この説明としては、相良村は、障害が発生したとしても、その状態を維持できるのに対し、大三島町では、障害が発生した場合、その状況に耐え切れず、死亡しているため、軽度および重度障害として残らないと考えられた。
(4)家族形態 家族形態は、自立の高齢者の機能推移に対して、ほとんど影響を与えていなかった。ただし、重度機能障害がある場合には、同居家族がいると、入院・入所の確率が低くなっていることがわかる。別の言い方では、同居家族の有無は、重度障害の入院・入所のリスクには関係するが、機能低下あるいは維持には大きな影響を与えていないと言うこともできる。
(5)慢性疾患今回の調査では軽度障害と重度障害のリスクがまったく異なっていることが明らかとなった。すなわち、重度障害のリスクファクターは脳血管障害(オッズ比5.6)とパーキンソン病(オッズ比48)であり、軽度障害のリスクファクターは慢性関節障害(オッズ比2.5)と骨折(オッズ比1.5)であった。これらの結果が示唆することは、
① 軽度障害と重度障害のリスクファクターは異なっている。重度障害のリスクファクターの中心は脳神経疾患であり、軽度障害のリスクファクターの中心は骨・関節障害である。
② 単に疾病の罹患率や、SMRといった死亡のリスクファクターをもとに、障害の原因を検討することは困難であるということ。
③ 頻度の高い疾患や状態、例えば高血圧、疼痛などは機能障害の直接の原因となっていないということ。
④ 2015年の高齢者介護で指摘された軽度要介護者の予防においては、関節障害や骨折の予防が重要である。
本報告では、年齢群別、性別のそれぞれの状態に対する生涯介護コストの推定を行った。最も生涯コストの高いのは、65-74歳の女性であり、自立、軽度障害、重度障害、入院入所のすべての群で、生涯コストが他よりも群を抜いて高かった。次いで65-74歳の男性と、75歳以上の女性のコストが高かった。また施設入所者は、65-74歳の女性を除くすべての群でコストが高い。この結果は、いくつかのことを示唆している。すなわち、施設入所の予防が生涯コストを下げるのには重要であること、介護予防は65-74歳の女性を対象にすると、効果があがる可能性があることなどである。
この研究の限界の第一として、コホートの選択が都市部ではなく、農業を中心とする過疎地域でなされたことであり、日本人全体をどの程度代表しているか不明な点が挙げられる。第二に疾病のリスクの検討においては、レトロスペクティブに、アンケート調査を行ったため、回想バイアスを否定できない点が挙げられる。第三に、疾病の重症度が症状の悪化に及ぼす影響が明らかでない点が挙げられる。
結論
今年度の調査により、年齢が、機能低下に最も大きな影響を及ぼす因子であることが明らかになった。前期高齢者(74歳まで)と後期高齢者では、推移が大きく異なっている。性は年齢ほど大きな影響を及ぼしていない。今回の研究で、①男性は女性よりも死亡のリスクが高い、②男性は自立を維持する可能性が高い、③女性は、軽度機能障害を維持する可能性が高い、という傾向を確かめた。
慢性疾患今回の調査では軽度障害と重度障害のリスクがまったく異なっていることが明らかとなった。すなわち、重度障害のリスクファクターは脳血管障害(オッズ比5.6)とパーキンソン病(オッズ比48)であり、軽度障害のリスクファクターは慢性関節障害(オッズ比2.5)と骨折(オッズ比1.5)であった。
本報告では、年齢群別、性別のそれぞれの状態に対する生涯介護コストの推定を行った。最も生涯コストの高いのは、65-74歳の女性であり、自立、軽度障害、重度障害、入院入所のすべての群で、生涯コストが他よりも群を抜いて高かった。次いで65-74歳の男性と、75歳以上の女性のコストが高かった。また施設入所者は、65-74歳の女性を除くすべての群でコストが高い。この結果は、いくつかのことを示唆している。 すなわち、施設入所の予防が生涯コストを下げるのには重要であること、介護予防は65-74歳の女性を対象にすると、効果があがる可能性があることなどである。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-