高齢者疾患の易発症性に対する遺伝的負荷の解明(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300239A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者疾患の易発症性に対する遺伝的負荷の解明(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
森本 茂人(金沢医科大学老年病学)
研究分担者(所属機関)
  • 勝谷友宏(大阪大学大学院医学系研究科生体制御医学専攻加齢医学)
  • 奥野良信(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 覚道健一(和歌山県立医科大学第二病理学)
  • 中橋 毅(奈金沢医科大学老年病学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
9,464,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人期の高血圧、虚血性心疾患、脳血管障害、糖尿病などの生活習慣病に対する疾患感受性遺伝子の検討は多数なされており、欧米においてはこれらの疾患の遺伝子治療の試みも行われるに至っている。一方、脳・心血管疾患、肺炎を含む高齢者疾患の遺伝的負荷の解明は進んでいない。さらに我が国においては欧米の先進諸外国とことなり、寝たきり状態が極めて高率に発症するが、寝たきりの発生そのものに対する遺伝的負荷の検討は皆無である。本研究においては我が国におけるこれらの高齢者疾患の遺伝的負荷に関し、若年者で報告されている上記既報の遺伝的危険因子の関与を検討するとともに、肺炎に対してはアンジオテンシン変換酵素、キマーゼなど咳嗽反射関連因子遺伝子多型の関与について、また寝たきりについては寝たきりに陥った直接原因疾患につき調査し、それぞれの疾患群に於ける寝たきりの易発症性に対する遺伝的負荷についても検討を行う。本研究により得られる成果は、特定の遺伝子多型検索により各高齢者疾患発症の危険性が高い例に対し発症前の予防措置の方策を提示しえ、また早期の治療体制を整えうることから、長寿先進国である我が国および高齢化が進行する世界各国の老年者の健康・福祉の増進に資する。
研究方法
関連施設老人病院受診例のうち研究計画に同意得た4000例を目標とした症例を対象に高齢者疾患の前向きコホート調査を行う。調査対象老年期肺疾患は、①虚血性心疾患、②心不全、③脳梗塞、④脳内出血、⑤非冬季肺炎、⑥インフルエンザ後肺炎、さらには⑦高齢者の寝たきり状態とする。これらの検討は「ヒトゲノム研究に関する共通指針(案)」検討委員会の原案を遵守して行う。
【調査項目】 対象例全例の年齢、性、血圧、入院期間、日常生活動作(移動能については寝たきり例、端座位可能例、車椅子移動 可能例、歩行可能例に分類)、知的機能(Mini- Mental Stateによる)などの他に、各高齢者疾患の既知の危険因子として、脳心血管疾患発症の既往歴、、過去・現在の喫煙歴、高血圧(>140/90 mmHg)、糖尿病の有無(血糖値>126 mg/dl)、腎機能障害の有無(血清Cr値>2 mg/dl)、栄養状態(身長、体重、BMI、血清アルブミン値、血清コレステロール値による)についても同時に調査する。また投薬内容(ステロイド、降圧薬、制酸薬等)の調査も行う。
検索対象遺伝子は、レニン・アンジオテンシン系の遺伝子多型として知られるアンジオテンシンI 変換酵素遺伝子には第16 intronに約300 bpの挿入(I)/欠失(D)(insertion/ deletion)の多型、アンジオテンシノーゲン遺伝子M235TおよびT+31C多型、レニン遺伝子Mbo I多型、アンジオテンシンII 1型受容体遺伝子A1166C多型、β2 受容体 遺伝子Arg16Gly およびGln26Glu多型、メチレンテトラアルデヒド葉酸還元酵素(MTHFR)遺伝子C677T、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ( ALDH )2遺伝子多型、低比重リポ蛋白受容体遺伝子C1773T 、エンドセリン遺伝子多型、アデュシン 遺伝子 Gly460 Trp多型、アポ蛋白E遺伝子多型、およびヒトキマーゼ遺伝子多型とする。これらの検討は「ヒトゲノム研究に関する共通指針(案)」検討委員会の原案を遵守して行い、倫理的に何ら問題となるものではない。
結果と考察
1. 高齢者肺炎
高齢者肺炎131例、対照例524例の高齢入院患者において、アンジオテンシン変換酵素阻害薬投与は、アンジオテンシン変換酵素遺伝子多型のDD型において特に抑制効果が高いことを明らかにした。
2. 高血圧の関与遺伝子
日本人に多い食塩感受性高血圧に対しては、アンジオテンシノージェン遺伝子T+31多型、αアジュシン遺伝子Trp460多型が関与すること、また血管攣縮性高血圧に対してはcNOS遺伝子T894多型が関与することを明らかにした。
3. 高齢者インフルエンザ感染
高齢者インフルエンザ後肺炎の重篤化に肺サーファクタント蛋白A遺伝子多型の関与の可能性を明らかにした。
4. 骨粗鬆症
高齢者骨粗鬆症に対するアドレノメデュリンの役割につき精査し、破骨細胞の形成能に関与することを明らかにした。
5. 神経疾患
アルツハイマー型老年期痴呆に、口腔粘膜タウ蛋白のリン酸化様式が上皮細胞と神経細胞で同様の分布を示すことを確認し、口腔粘膜の同蛋白リン酸化の評価がアルツハイマー型老年期痴呆の早期診断に役立つ可能性を明らかにした。
結論
世界最長寿国であり、また生活習慣、遺伝的背景が欧米とは異なる我が国において、これらの高齢者疾患に対する遺伝的負荷を明らかにすることは、これら疾患に対する遺伝的高負荷群に対しては環境因子の調整、早期からの診断、治療の開始などにより、これら高齢者疾患本研究は我が国高齢者の健康な老後の実現に寄与し、老人の世紀である21世紀の我が国および世界各国の福祉と安寧に資する。

公開日・更新日

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