高齢者の寝たきりの原因の解明及び予防に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300237A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の寝たきりの原因の解明及び予防に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
坂田 悍教(埼玉県立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 北川定謙(埼玉県立大)
  • 柳川洋(埼玉県立大)
  • 土居通哉(埼玉県立大)
  • 細川武(埼玉県立大)
  • 岡本順子(埼玉県立大)
  • 五味敏昭(埼玉県立大)
  • 都築暢之(埼玉医大)
  • 前田和秀(ケアパ-ク江南)
  • 原口章子(小鹿野町総合福祉センタ―)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,802,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
寝たきり予防をキ-ワ-ドとして地域における脳卒中、転倒・骨折を取り上げ、地域高齢者の転倒の特徴及び身体因子、歩行の推移、転倒に対する片脚起立の意義、転倒と視力・視野の経年的変化、骨粗鬆対策、転倒への精神的関与、高血圧・脳卒中患者の現状分析など過去2年間にわたり横断的側面より縦断的な研究を行ってきた。今年度の研究として以下に挙げる課題を中心として行った。①地域在住高齢者の歩行に関する縦断的研究、②施設入所者の歩行能力に関する縦断的研究、③地域在住高齢者の転倒に対する介入研究、④転倒予防--開眼片脚起立時間の測定の意義、⑤転倒との関連性からみた地域高齢者における視力・視野の経年的変化、⑥地域在住高齢者の重心動揺に関する研究⑦地域高齢者における高血圧に関する検討(24時間血圧測定)、⑧高齢者の脳卒中に影響を与える基礎疾患と保健行動に関する研究、⑨地域在住高齢者と青年期の学生のストレスについての一考察等の成果・概要について報告する。
研究方法
T郡O町在住高齢者身体因子、体力など基本調査の継続:調査対象は、埼玉県T郡O町在住の65歳以上の全員2、794名を調査対象とした。第1次調査は1999年12月11日より開始、第6次調査として2003年8月11日までの計6回の調査を行った。基本調査として健康属性、体力測定(新文部省体力基準ほか11種目)視野・視力、重心動揺などを測定した。これらの基本継続調査に加え、移動・歩行の縦断的研究では、3年経過した2003年12月に対象者への直接の電話により、歩行形態、歩行時間について聞き取り調査を行った。地域在住高齢者の骨量に関する研究では、小冊子の配布、骨粗しょう症予防教室の開催、身体測定時の個別指導などで介入後、骨量を測定した。転倒との関連性からみた地域高齢者における視力・視野の経年的変化に関しては、継続的調査、及び市街地在住高齢者については埼玉県立大学で同様の体力測定を行っている。片脚起立の意義では、地域、老人保健施設、病院などで体力測定を行い分析した。高血圧、脳卒中対策では、継続調査の中で高血圧症高齢者に対して24時間血圧測定、意識調査を分析、14年度の継続研究で追跡調査の中で症例数が増加した。
結果と考察
転倒予測体力・歩行形態の変化予測尺度、ADL確保の基準体力として簡便法として開眼片脚起立時間の測定が挙げられた。開眼片脚起立時間の測定で 転倒予測体力・歩行形態の変化予測尺度、ADL確保の年齢階層別基準値として以下の値を確定した。基準値は、65~69歳40秒、70~74歳30秒、75~79歳20秒、80歳~84歳10秒である。 
開眼片脚起立の測定は、体力チエックの中で器具もいらず家庭で容易に行える検査法で転倒・歩行・ADLのみならず高齢者では下肢関連疾患 の早期発見にも役立つ有効な方法である。片脚起立訓練法として負荷片脚起立、片手支持片脚起立訓練は、健常 高齢者及び虚弱高齢者に有効であった。これらを応用した訓練、講習会、小冊子の配布により地域在住高齢者の骨量の維持や年間転倒率の低下が認められた。
転倒経験者では非経験者に比べて、視力、視野面積ともに、有意にかつ顕著に低下している。転倒発生における一要因として、視力低下だけでなく、視野狭小も強く関係しており、視覚機能の重要性をさらに示唆するものであった。
地域在住高齢者の重心動揺検査では、外周面積、単位時間軌跡長は男女共、加齢と共に漸増する傾向、単位面積軌跡長は加齢と共に男性ではほぼ一定傾向、女性では漸増、X・Y方向動揺平均中心変位は男女共、加齢に関係なくほぼ一定傾向を示した。ロンベルグ率(外周面積)は男女共、加齢に関係なくほぼ一定傾向を示したが、男性の方が少し価が高かった。高齢者における各測定項目の測定値の標準偏差が大きく、直立姿勢制御に個人差が大きいことが特徴であった。
地域.血圧高値者に24時間血圧測定を実施した。血圧の日内変動を検討した結果、1)日
内変動の大きいextreme dipper(ED)+dipper型が男女とも高頻度にみられたが、2)ED
型は、収縮期血圧は男性で多く、拡張期血圧では男女共に低頻度であった。地域高齢者の
基礎疾患の分析で、疾病状況は、高血圧を指摘された者が94名(43.1%)、1つ以上の脳
卒中のリスクの有る者は117名(53.7%)であり、この地域の脳卒中のリスク因子は高血
圧が最も高かったリスク有り群の平均BMI値は24.0とリスク無し群と比較し有意に高く、
BMI値が肥満域にある者の比率も高かった。また、収縮期血圧が140mmhgを越えている
者、心臓疾患のある者の比率も有意に高かった。この地域における高血圧対策の重要性が
指摘された。
186名(完全回答のみ)の地域在住高齢者のストレスの調査を行い、大学生(91名・完全回答のみ)と比較検討した。地域在住高齢者は、学生より精神的なストレスも肉体的なストレスも少ないことが推察された。対処能力は、精神的・肉体的ストレスほど差はなくわずかに学生のほうが良好のように思われた。
結論
地域在住高齢者の転倒、歩行・移動の維持、拡大ADLの確立に開眼片脚起立時間の関与は大きく、年齢階層別の基準値として男女とも65歳代40秒、70歳代30秒、75歳代20秒、80歳代10秒を確立した。この基準値は地域高齢者の転倒・移動・ADL確立の予測値となりえる。また、寝たきり予防対策として家庭で容易に実施可能な片脚起立時間の測定や虚弱高齢者から健常高齢者まで安全に行える片脚起立訓練を推奨する。

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