剖検例に基づいた非アルツハイマー型痴呆の臨床的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300236A
報告書区分
総括
研究課題名
剖検例に基づいた非アルツハイマー型痴呆の臨床的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
小阪 憲司(横浜市立大学医学部 → 福祉村病院)
研究分担者(所属機関)
  • 井関栄三(横浜市大医学部)
  • 池田研二(東京都精神研)
  • 田邊敬貴(愛媛大医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,323,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
非アルツハイマー型変性痴呆non-Alzheimer degenerative dementias(NADD)には多種多様な疾患が含まれるが、その代表はレビー小体型痴呆dementia with Lewy bodies(DLB)と前頭側頭型痴呆frontotemporal dementia(FTD)である。これらにはそれぞれ国際的な診断基準があるが、いずれも問題が多い。それは、必ずしも剖検例で確定診断された症例を対象としているわけではないために、病理学的な病型分類にいちいち対応したものではないために起こっていることに起因するところが大きい。そこで、この研究では、剖検例で病理学的に確定診断をくだした症例を対象として、病理学的な病型分類を検討し、それぞれの臨床像を解析し、それらの病型に対応する臨床診断基準を作成することを目的とした。
研究方法
DLBおよびFTDの病理診断がくだされた剖検例を対象として、神経病理学的・免疫組織化学的手法により詳細な病型分類を行った。
DLBについては、横浜市大精神医学教室に保存されている34剖検例を対象として病理学的病型分類を行った。さらに、それぞれの症例について臨床像を解析し、それぞれの特徴を抽出することを試みた。
FTDについては、東京都精神研に保存されている36剖検例を対象として病理学的病型分類を行い、それぞれについて臨床像を一例一例検討し、それぞれの病型の特徴を抽出することを試みた。さらに、わが国のピック病の剖検報告例28例について、国際的な臨床診断基準の項目を検討した。
結果と考察
DLBについては、34剖検例の病理学的病型をみると、辺縁型純粋型5例、辺縁型通常型11例、辺縁型AD型0例、新皮質型純粋型2例、新皮質型通常型10例、新皮質型AD型6例であった。それぞれの臨床特徴を検討したところ、発症年齢は辺縁型純粋型および通常型でもっとも高く81歳であり、新皮質型通常型およびAD型がこれに次ぎ76~7歳で、新皮質型純粋型ではもっとも低く48.5歳であった。初発症状は、新皮質型通常型およびAD型では痴呆であり、新皮質型純粋型ではパーキンソニスムであった。辺縁型では、初発症状は純粋型でパーキンソニスム、通常型で痴呆がより多かった。これらの特徴を加味して各病型の臨床診断基準の作成をすることが必要である。
FTDについては、FTD36剖検例を病理学的病型に分類すると、ピック小体病12例、非定型ピック病14例、MND型(ALS=Dとも)10例であった。これらを対象として病理像・臨床像をさらに詳細に検討した。非定型ピック病14例中8例に上位運動ニューロン優位の変性を、ALS-D10例中9例に下位運動ニューロンの変性を認めた。臨床的には、上位運動ニューロン変性を認めた非定型ピック病8例中7例には経過中に錐体路症状が認められた。したがって、非定型ピック病例全体の50%に錐体路症状が出現していたことが明らかになった。また、萎縮型について検討したところ、側頭葉優位萎縮型はピック小体病よりも非定型ピック病に多く、しかも非定型ピック病では左側優位の萎縮をみることが多かった。したがって、非定型ピック病では語義失語が出現しやすく、14例中3例で意味痴呆の病像を示した。一方、ピック小体病には意味痴呆を示した症例はなかった。また、日本の文献でピック病の剖検報告例28例(男性10例、女性18例)を検討した。平均年齢は53.1歳、平均死亡年齢は60.9歳であった。FTDの国際臨床診断基準の主要診断特徴についてみると、「潜在的発症と緩徐な進行」は100%、「早期からの感情鈍麻」100%、「社会的対人行動の早期からの障害」は92.9%、「自己行動の統制の早期からの障害」は96.4%、「早期からの病識欠如」は25%に記載されていた。支持的診断特徴では、「自己衛生や身なりの障害」(82.1%)、「転導性の亢進・維持困難」(67.9%)、「口唇傾向と食餌嗜好の変化」(67.9%)、「自発語の低下と節約的發語」(89.3%)、「常同行動、滞続言語」(71.4%)、「65歳以前の発症」(92.9%)などが高頻度に認められた。以上の結果を各病型別の臨床診断基準の作成に生かすべきである。
結論
NADDの代表的疾患であるDLBとFTDの剖検例を対象としてそれぞれの臨床診断基準の作成を目的としたが、国際的な診断基準では問題が多く、それが病理学的な病型分類に基づいたものでないことに起因することを指摘した。われわれの病型分類を提唱し、それぞれの臨床的特徴を挙げたが、それぞれの臨床診断基準を作成するにはまだ症例数が不十分であり、今後は症例数を増やすとともに、文献報告例を含めて検討する必要性がある。

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