沖縄における長寿とサクセスフル・エイジングに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300235A
報告書区分
総括
研究課題名
沖縄における長寿とサクセスフル・エイジングに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
崎原 盛造(沖縄国際大学)
研究分担者(所属機関)
  • 芳賀博(東北文化学園大学)
  • 安村誠司(福島県立医科大学)
  • 鈴木征男(第一生命経済研究所)
  • 尾尻義彦(琉球大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,323,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
沖縄県今帰仁村における在宅高齢者を対象に、平成10年度を初回調査とする5年追跡調査により、サクセスフル・エイジングの構成要素と指標を明確にする。
研究方法
沖縄県今帰仁村に居住する65歳以上の在宅高齢者1,064人(男性417人、女性647人)を対象にした平成10年の面接調査に参加し有効回答が得られた823人の追跡調査を質問紙面接法により行う。調査項目は、生死の確認、転出・転居状況、介護認定状況、婚姻状況、配偶者の有無、同居家族数、居住形態、ADL、移動能力、活動能力、健康度自己評価、入院歴、通院状況、痛みの有無、睡眠状況、交流頻度、ライフスタイル、ソーシャルサポート、外出頻度、GDS、生活満足度、精神的自立度、暮らし向き、就学年数等であった。本調査は、文書による同意を得て実施した。
結果と考察
初回調査(平成10年)で有効回答の得られた823人のうち、平成15年の追跡調査でも有効回答の得られた者は591人(71.8%)であった。その他は死亡77人(9.4%)、入院・入所・痴呆等59人(7.2%)、調査時不在32人、拒否31人、回答不備27人、転出6人であった。サクセスフル・エイジングの指標を明らかにすることを目的として、社会学的側面、医学的側面および心理学的側面から検討した。1)社会学的側面では、健康度自己評価「良好」、IADL「自立」および友人・近隣との交流頻度「週1回以上」ある者をサクセスフル・エイジングの状態にあると操作的に定義して検討した。その結果、初回調査時にサクセスフル・エイジングと判定された者は47.0%、そのうち5年追跡時でもサクセスフル・エイジングを維持していた割合は49.4%であった。また、初回調査では非サクセスフル・エイジングであったが、追跡調査時にはサクセスフル・エイジング状態に好転した者が19.0%いた。追跡時のサクセスフル・エイジングの状態にある者は33.3%であった。この追跡時のサクセスフル・エイジングの転帰を従属変数とする多重ロジステイック回帰分析を行った結果、初回調査時においてサクセスフル・エイジングの状態、年齢が低い、過去1年間通院歴がない、知的能動性が高いという変数が有意な関連を示した。2)医学的側面では非「閉じこもり」をサクセスフル・エイジングの指標として検討した。2002年調査で非「閉じこもり」であり、かつ2003年の追跡調査でも非閉じこもりであった者をサクセスフル・エイジングとした。「閉じこもり」は、入院・入所、痴呆・障害、死亡等を非サクセスフル・エイジングとした。その結果2年間サクセスフル・エイジングを維持していた割合は、男性では65.7%、女性では63.9%であり、男女差はなかった。「閉じこもり」の出現率は、70歳以上75歳未満の前期高齢者で23.1%、75歳以上の後期高齢者では27.5%であった。サクセスフル・エイジングと非サクセスフル・エイジングの発生要因の比較を男女別に行った結果、男性では有意差を示す要因はなかった。女性ではADLの排泄(小便)、日常生活自立度、老研式活動能力指標が有意であった。これらの有意な関連のあった要因を用いて多重ロジステイック回帰分析を行った結果、ADLの排泄(小便)が「時々もらす/常時おむつ使用」であることのみが非サクセスフル・エイジングに有意に関連していた。3)心理学的側面では、主観的幸福感を指標として検討した。その具体的な尺度として生活満足度(LISK)を用いた。生活満足度得点の分散分析を行った結果、関連のある変数は、配偶者の有無、既婚子同居の有無、健康度自己評価、暮らし向き自己評価、友人との交流頻度、近隣との交流頻度、老研式活動能力指標および精神的自立性で
あった。これらの変数を説明変数、生活満足度を従属変数とする重回帰分析を行った結果、有意な関連のみられた変数は健康度自己評価、暮らし向き自己評価および精神的自立性の3変数であった。また、5年間の生活満足度の変化に影響をあたえる要因について分散分析を行ったところ、有意に関連のあった変数は健康度自己評価の変化、暮らし向きの変化および既婚子同居の変化であった。4)性格5因子と健康度との関連についても検討した。各性格因子と関連する健康度および心理社会的要因は多様であった。とくに沖縄の高齢者の性格特性と考えられた「調和性」は生活満足度、活動能力および近隣との交流頻度と関連することが明らかになった。5)初回調査時の運動能力と追跡の活動能力は密接な関連があり、とくに歩行速度の維持は高齢期の活動能力を維持する上で重要な要素であることが示めされた。
結論
1)社会学的側面では、健康度自己評価「良好」とIADL「自立」および友人や近隣との交流頻度「週1回以上」であることをサクセスフル・エイジングと操作的に定義した。5年間サクセスフル・エイジングを維持していた者は約半数であり、追跡時にサクセスフル・エイジングであった者は33.3%であった。初回調査で非サクセスフル・エイジングであった者のうち19.0%はサクセスフル・エイジングへ移行していた。健康度の改善によりサクセスフル・エイジングへの移行の可能性が示唆された。また、高齢期のサクセスフル・エイジングには、中高年からの疾病予防とその管理、ならびに知的能動性に示される人生に対する積極的な姿勢を維持することが重要であることが示唆された。2)医学的側面では非「閉じこもり」をサクセスフル・エイジングの指標として検討した結果、2年間非「閉じこもり」のサクセスフル・エイジングと判定された割合は、男性65.7%、女性63.7%であり、男女差はなかった。男性ではサクセスフル・エイジングの発生に関連する要因は認められなかったが、女性ではADLの排泄(小便)が非自立であることのみが非サクセスフル・エイジングに関連する要因であった。3)心理学的側面では、生活満足度で測定した主観的幸福感を指標として検討した。生活満足度に直接的な影響を及ぼしているのが身体的要素としての健康度自己評価、経済的要素としての暮らし向き、心理的要素としての精神的自立性であった。老研式活動能力指標で評価した活動能力は精神的自立性を介した間接的な影響が認められた。5年間で生活満足度は有意に低下したが、その変化には健康度自己評価の変化と暮らし向きの変化が有意に影響をあたえていた。4)沖縄の高齢者の性格特性である「調和性」は高齢期の生活満足度の維持に有意に関連することが示唆された。5)歩行に示される運動能力は、高齢期の活動能力に有意な影響をあたえることが明らかになった。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)