高齢者の自立度及びQOLの維持及び改善方法の開発に関する大規模研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300229A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の自立度及びQOLの維持及び改善方法の開発に関する大規模研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
高田 和子(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 名倉英一(常滑市民病院)
  • 柴田和顯(愛知県健康福祉部)
  • 川合秀治(全国老人保健施設協会)
  • 芳賀博(東北文化学園大学)
  • 辻一郎(東北大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
11,407,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の自立度やQOLの維持に影響を与える要因を把握することは、高齢化の中で、高齢者の自立度・QOLの維持のための方策を考えるために必要である。本研究では以下の4つの研究により、高齢者の自立度の維持に関連する要因の検討を行った。1.1県の全市町村から無作為抽出された対象について3年後の調査を実施し、自立度の変化の検討、移動能力、生活習慣の変化とQOLの変化の関係、2.転倒に関連する運動機能と抑うつ症状の関連、3.ミニ・ディサービスへの参加が活動性やQOLに与える影響、4.運動・栄養介入プログラムへの参加によるQOLの変化。以上の結果から、自立度やQOLに影響を与える要因が明確になれば、今後、高齢者の自立度の維持・QOLの維持に役立つ介入の方向性を検討できる。
研究方法
高齢者の移動能力、生活習慣とQOLの関係の検討では、1県内の全ての市町村(74)から、性・年齢階級別に75人ずつ計22,000人を層化無作為抽出し、平成11年に1回目の調査を行った。1回目に有効回答が得られた14,001人に、3年後の平成14年に再度郵送留置法で調査した。本研究では 1・2回目ともに有効回答の得られた11,462人を分析対象者とした。調査内容は、1・ 2回目ともに、1)生活満足度、2)身体活動・日常生活機能、3)ライフスタイル、4)経済状況、5)社会活動、6)疾病・障害、7)健康管理についてである。それらのデータをもとに、移動能力、生活習慣の変化とQOLの変化の関係を検討した。
運動機能と抑うつ症状の関連は、宮城県仙台市宮城野区鶴ヶ谷地区に移住する70~96歳の高齢者2,730名を対象に「寝たきり予防健診」を実施し、健診受診者1,198名のうち、研究に関する同意を得た1,087名を本研究の対象とした。調査項目は抑うつ尺度としてGeriatric Depression Scal (GSD)及び、転倒に関連する運動機能として脚伸展パワー、ファンクショナルリーチ、Timed up & go test、10m最大歩行テストを実施した。
ミニ・デイサービスへの参加が活動性・QOLに与える影響では、三本木町に在住する2003年7月現在75歳以上の高齢者のうち要介護、要支援の認定者を除く627人を対象に、2003年8~9月に質問紙を用いた訪問面接により行った。調査項目は、基本属性のほかに、ミニ・ディサービスへの参加状況、活動能力、運動習慣、社会参加、友人・近隣との交流頻度、健康度自己評価、生活全体への満足度、動作に対する自己効力感である。
運動・栄養プログラムへの参加とQOLの関係は、平成12年に全国の3地域17の老人保健施設において実施された虚弱高齢者を対象とした運動・栄養プログラムに参加した者を対象にプログラムへの参加がQOLに与える影響について検討した。プログラム参加の前後とその2年後に調査を生活習慣、健康状態、QOL に関する調査を行った。
結果と考察
地域在住の高齢者の縦断調査からは、自立度の維持・向上には初回の自立度のレベル、性、年齢により差がみとめられた。移動能力が高いほどQOL得点が高く、「移動能力不変群」と「移動能力低下群」におけるQOL得点の変化から移動能力の低下は、加齢によるQOL得点の低下に対して、さらに影響を与えると考えられた。また、身体活動状況が減らないことが、QOLを維持・向上する上で重要なことが明らかになった。QOLの変化に影響する生活習慣としては、精神的健康は、地域活動や他人の世話、市民講座など他人との関わりの多い活動への参加により、その低下が小さかった。男性では、たんぱく質を含む食品や野菜の摂取頻度の高いこと、睡眠に関する障害のないことが多くのQOLの下位尺度に影響していた。
運動機能と抑うつ症状の関係は、女性では男性に比べて、すべての運動機能において抑うつ症状を示す者の割合が高く、運動機能と抑うつ症状との関連に性差がみられた。男女とも運動機能が良好な者ほどGDS得点は低下することが示された。
ミニ・ディサービスへの参加者では「活動能力合計点」及びその下位尺度である「知的能動性」と「社会的役割」、「社会参加実施数」「友人との交流頻度」「近隣との交流頻度」等において、ミニ・ディサービス参加群の平均が、不参加群のそれより有意に高値であった。すなわち、ミニ・ディサービス参加者は、活動的であり社会との交流も活発であるといる。老人保健施設における運動・介入プログラム参加者の2年後の調査からは、人的サポート、経済的ゆとり、精神的活力にはコントロールと介入群で大きな差はなく、比較的維持されていたが健康満足感と精神的健康がコントロール群でのみ低下していることが認められた。
結論
高齢者における3年間の自立度の変化には、初回の自立度のレベルと性・年齢により違いがみられた。移動能力の保持、身体活動量を高く維持することがQOLの維持において重要な役割を示していた。自立度の高い高齢者においてQOLを維持するための要因として、ネガティブな感情を抱かないためには他人との関わりの多い活動への参加が、また男性のQOLの維持には、食生活や睡眠を整えることが重要であることが示された。また、転倒に関連する運動機能が低いと抑うつ状態を示す者が多くなった。ミニ・デーサービスへの参加や栄養・運動介入プログラム参加者についての検討からは、ミニ・デーサービスへの参加者が活動的で社会との交流が活発であり、閉じこもり予防に有効であること、運動・栄養の介入による自立度の維持がQOLへも影響していることが示された。

公開日・更新日

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