免疫系の老化をターゲットにした細胞療法に関する研究 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300227A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫系の老化をターゲットにした細胞療法に関する研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
中山 俊憲(千葉大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
8,450,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
NKT細胞は加齢とともに激減し、60才以上のヒトではほとんど検出できない。また、いくつかの自己免疫疾患の患者やがん患者でもその数は、激減している。1997年にこの細胞のみを特異的に活性化させる糖脂質 (α-GalCer)が我々の施設で発見され、これを用いてヒトのNKT細胞をin vitroで培養し、現在のところ2週間で100倍程度に増殖させることが可能になった。本研究では、免疫系の老化に伴うT細胞及びNKT 細胞依存性の免疫能の低下を防止することを目的とし、老化とともに激減するNKT細胞に焦点をあてた免疫細胞療法に関する基礎実験を行う。 また、老化T細胞のTh1/Th2細胞分可能を解析する。まず、活性化した樹状細胞にα-GalCerをパルスして移入して生体内のNKT細胞を効率よく増殖させる、などの手法の確立に関する実験を行う。NKT細胞に焦点を当てた細胞療法に関する臨床研究計画は、本学の倫理委員会で承認されている。GMPレベルの細胞調整を行って、Phase Ⅰに相当する治療を行う。我々の施設では、細胞調整は無菌室を用いて日常的に行っており、NKT細胞療法のプロトコール樹立には、これまで行ってきたLAK療法での経験が十分参考になる。さらに、今回は米国FDAの細胞治療指針に従って細胞調整することを目指している。自己のリンパ球を用いた細胞療法は、補助療法として上手く使えば、特に高齢者での感染症予防、根治手術のあとの微小転移などをターゲットにしたがんの治療などに効力を発揮し、国民の保健医療のニーズに大いに貢献すると考えられる。
研究方法
老化T細胞の機能解析に関する研究では、5~6週齢のマウスを若年マウス(Young)とし、8~12カ月齢マウスを老齢マウス(Old)として実験に用いた。実験には、C57BL/6またはBALB/cマウスを用いた。以下の指標によるT細胞の機能評価を行った。Proliferation assay、Cell division assay、細胞内カルシウム濃度の上昇、IL-4レセプターを介したシグナル伝達分子のリン酸化、Ras/MAPKカスケードの活性化、ナイーブCD4T細胞のメモリー細胞への分化、Th2メモリーT細胞への分化条件下におけるGATA-3/c-Mafの発現誘導、抗原刺激によるin vitroでのサイトカイン産生能、OVA(chicken egg albumin)の免疫と血清Igレベルの測定、喘息モデルにおける肺への炎症細胞浸潤。
NKT細胞を用いた細胞療法に関する研究では、NKT細胞療法Phase Iプロトコールの確立をめざし検討を行った。これは細胞調整を米国FDAの細胞調整基準を遵守したもので、かつGMP基準を尊重した品質管理、品質保証を行う点が特徴である。α-GalCerパルス樹状細胞投与の安全性評価を行うためのPhase I試験を行った。Phase II相当の研究に進めた。
結果と考察
老化マウスのT細胞の機能解析に関する研究に関して:T細胞抗原レセプター刺激による増殖反応を比較したところ、老齢マウスでは若年マウスに比べ増殖反応が低下していた。またナイーブT細胞からメモリーT細胞への分化にともなう細胞分裂能を比較したところ、Th1分化条件下、Th2分化条件下のいずれにおいても、若年マウスと老齢マウスとの間で大きな差はみられなかった。脾臓から精製したCD4T細胞をT細胞抗原レセプター刺激して増殖反応を比較したところ、老齢マウスでは若年マウスに比べ増殖反応が低下していた。老齢マウスではJak1、Jak3、STAT6のリン酸化レベルが若年マウスに比べて低下しており、加齢にともなう影響が認められた。老齢マウスでは、Erk1、Erk2ともリン酸化の上昇レベルが明らかに若年マウスより低く、またリン酸化されたErk分子の割合も若年マウスに比べて低かった。このことから、加齢によるErk/MAPKカスケードの活性化の低下が考えられた。Th1細胞への分化は加齢による影響を受けにくいが、Th2細胞へのは加齢にともない低下することが明らかとなった。Th2細胞への分化条件下におけるGATA-3およびc-Mafの発現誘導能を比較した結果、老齢マウスではこれらの転写因子の発現誘導が低下していることが明らかとなった。主にTh1細胞により産生されるIFNγの量については、差はみられなかったが、主としてTh2細胞により産生されるIL-5の産生は、老齢マウスで低下していた。OVAで免疫したマウスにOVA溶液を吸入させて誘導する喘息モデルを用いて、生体内でのアレルギー反応における加齢の影響を検討した。若年マウスでは好酸球が最も多かったのに対して、老齢マウスではリンパ球の割合が増加していた。以上のことから、老齢マウスのT細胞からはTh2細胞への分化が障害されていることが明らかになった。
細胞治療臨床研究に関して:本学の倫理委員会で承認されている。GMPレベルの細胞調整を行いPhase Iに相当する臨床研究を行った。細胞は5×107(レベル1、2ヶ月間、計4回)という小量から始め、レベル2(2.5×108)、 レベル3(1×109)に進んだ。最低、各レベル3例を行った。2ヶ月の投与期間とその後の3週間の経過観察を行った。Grade 3以上の重篤な有害事象は認めなかった。平成16年3月末までに、Phase II(レベル3、1×109)相当の治療研究に進んだ。
考察:ヒトでの細胞治療に関しては、今後は、PhaseII研究を中心に、患者数を増やす。また、元々NKT細胞の数が少ない人で、in vitorで数を増やした後に免疫細胞治療を行う可能性について検討する。これも。PhaseIの追加研究として行う。これにより、多くの患者での効果の増強が期待できる方向を目指す。米国FDAの細胞治療指針に従って、免疫細胞治療の標準的プロトコールの作成を目指した研究に力を入れる。我々の方法での細胞治療は有害事象が起こらないことがわかったので、さらにPhaseII研究を行って確認するとともに、老人への細胞治療を行う場合、どのような患者を対象にしたらよいか検討する。重篤な感染症、慢性の感染症などを念頭に検討する。
結論
本年度の研究で、老齢マウスのT細胞はTh2細胞分化に障害があることが明らかになった。αGalCerをパルスした樹状細胞による細胞治療のPhase I相当の研究から、重篤な有害事象は見られずPhase II相当の治療に進めることができた。αGalCerをパルスした樹状細胞による細胞治療の手法が開発された。

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