老人精神疾患患者の経過に及ぼす家族の感情表出の影響

文献情報

文献番号
200300217A
報告書区分
総括
研究課題名
老人精神疾患患者の経過に及ぼす家族の感情表出の影響
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
三野 善央(大阪府立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 井上新平(高知大学医学部)
  • 下寺信次(高知大学医学部)
  • 津田敏秀(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
6,084,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老人精神疾患患者に及ぼす家族の感情表出(expressed emotion EE)の影響を明らかにすることを研究目的とした。以下分担研究ごとに分けて記すと、①統合失調症者と生活する老人介護者の特徴を明らかにし、心理教育のテキストを開発すること、②老人気分障害者のための心理教育用テキストとビデオを開発し、心理教育の効果を評価すること③痴呆性老人家族のEEをはじめとする特徴を明らかにし、④老人精神疾患と家族に関する疫学研究方法論を検討することである。
研究方法
①127名の統合失調症患者を対象にEEと年齢の関連を検討した。患者の入院後、約2週間以内に 研究内容について、精神科医が直接、文書および口頭にて説明し、文書にて同意を得た。EEの 判定には、CFI(Camberwell Family Interview)を用いた。CFIを自宅または病院にて実施した。 時間には約1-2時間を要した。面接内容は、テープに録音し、面接終了後、テープおこしを行 い、これらの資料をもとにEEの判定を行った。CFIの判定は、面接中において、批判的言辞が6 以上存在する、敵意がある、感情的巻き込まれの項目が3点以上のいずれかの条件を満たせば、 High EEと判定される。また、条件を満たさない時は、Low EEと判定された。高齢者と非高齢者のEEの特徴を比較した。また心理教育用テキストを開発した。②うつ病をはじめとする気分障害に関する検討では、うつ病家族心理教育のためのテキストとビデオを開発するための検討を行った。これにより標準的な心理教育をどんな場所でも行えるようにした。また家族心理教育の効果を無作為化対照試験を用いて検討した。ICD-10あるいはDSM-IVの診断基準において大うつ病エピソードあるいは躁病エピソードと診断された、大うつ病または双極性感情障害を対象疾患とした。対象者は高知大学神経精神科または教育関連病院の同仁病院に入院となった対象疾患を有する患者のうち、一定の条件をみたすものとその主要な家族とした。Five-minute Speech Sample (FMSS)を元に正式な判定の資格をもつ2名の医師がEEを判定した。FMSSによる高EEと低EE群は無作為に家族教育を行う介入群と行わないコントロール群に分けた。教材としてうつ病の疾患教育用ビデオ、パンフレットを使用した。1クールあたり4回の家族教育を行った。9カ月間の観察を行い、再発の有無を評価した。③痴呆性疾患については、対象者は、高知大学医学部附属病院神経科精神科を受診した高齢の痴呆性疾患患者とその家族で、患者と家族が過去に3ヶ月以上同居し、かつ研究への協力意志を表明している者である。属性として性別、年齢、発病年齢と罹病期間を調べた。精神症状・問題行動の評価、家族評価のための健康状態の調査としてGHQ-60、ケア負担としてZarit介護者負担尺度を用いた。患者への感情や態度の測定を行った。④高齢精神疾患と家族との関連を検討するための疫学的問題点を検討した。 
結果と考察
①65歳以上を高齢者、それ未満を非高齢者と定義すると、高齢者での高EEの割合は28.6% (12/42)であり、非高齢の31.2%  (39/12)と有意差は認められなかった。またEEの下位尺度別に分析しても、批判による高EEの割合は、高齢者群で13.3% (6/42)であり、非高齢者群12.0% (15/125)との間に差は認められなかった。また、情緒的巻き込まれ過ぎによる高EEも、高齢者群では14.3%(6/42)であり、非高齢者群19.2% (24/125)との間に有意差は認められなかった。高齢者では批判が陽性症状、日常生活上の問題、とくに近隣への迷惑行動に関する内容、薬物療法に関する内容が多くなっていた。高齢者での情緒的巻き込まれすぎに関しては、高齢者の方が、自己犠牲、献身的行
動での高得点評価が多くなっていた高齢者での情緒的巻き込まれすぎに関しては、高齢者の方が、自己犠牲、献身的行動での高得点評価が多くなっていたが、統計学的有意差は認められなかった。次に、統合失調症の家族心理教育のための家族用テキストを作成し、「レッスン・とうごうしっちょうしょう(統合失調症)」として出版した。これらの内容のうち高齢家族のための家族心理教育を行ううえで、改変すべき、あるいは留意すべき点を検討した。その主な内容は、統合失調症はありふれた病気であること、統合失調症は難しい病気ではないこと、③統合失調症は原因不明の病気ではないこと、などとした。これによって高齢家族にも効果的な心理教育の内容を明らかにできた。②気分障害に関しては、家族心理教育用のテキストとビデオを開発した。さらにこれらを高齢者用に修正した。家族心理教育の再発予防効果をRCTを用いて評価したところ、家族心理教育群では有意に再発割合が小さくなっていた。これによりうつ病での家族心理教育の効果の根拠を明らかにしえた。③痴呆性疾患に関しての結果については、痴呆は軽度から中等度の重症度の者が多かった。因子間では、CDRが罹病期間、認知機能、ADL、精神症状・行動障害と関連していた。またADLと精神症状・行動障害との間の関連も見られた。痴呆性疾患家族のEEの特徴を明らかにした。④経験的導入時間・導入時間・未発見期間について説明した。さらに経験的導入時間・導入時間・未発見期間を考慮しないことにより生じてしまうバイアスについて説明した。情報バイアス(誤分類によるバイアス)であり、ノン・ディファレンシャルなものである。従って、疫学的影響の指標をnullの方向にバイアスすることに研究者や判断者は注意しなければならない。また疫学的原因モデルについて考察し、Synergy Effect Modificationについて論じ、疫学知識の普及の必要性について強調した。
結論
老人精神疾患患者と家族のEEに関する研究を行った結果、家族あるいは本人のEEは老人精神疾患患者においても重要な役割を果たすだろうことが明らかとなった。家族心理教育はこれらの老人精神疾患患者の予後を改善する可能性が大きく、その具体的内容の確立と臨床疫学的効果判定がさらに必要である。

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