高齢者の施設・在宅における終末像の実証的検証および終末期ケアにおける高齢患者の自己決定のための情報開示のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300210A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の施設・在宅における終末像の実証的検証および終末期ケアにおける高齢患者の自己決定のための情報開示のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
葛谷 雅文(名古屋大学大学院医学系研究科健康社会医学専攻発育・加齢医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 杉山孝博(医療法人財団石心会川崎クリニック)
  • 伴信太郎(名古屋大学医学部附属病院総合診療部)
  • 服部明徳(東京都老人医療センター)
  • 水川真二郎(杏林大学医学部高齢医学教室)
  • 内藤通孝(椙山女学園大学大学院生活科学研究科栄養保健科学教室)
  • 植村和正(名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座)
  • 益田雄一郎(名古屋大学大学院医学系研究科健康社会医学専攻発育・加齢医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
12,675,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国は世界でも類をみない速さで高齢社会を迎えている。人は老いて死ぬことが避けられない以上、高齢社会の到来は高齢者の死の増加を意味する。一致した見解はないものの、がん患者の場合はおおよそ6ヶ月以内に死亡すると認められた時点から終末期といわれることが多い。一方、高齢者は老衰という避けられない自然経過をたどるうえ、心不全・脳梗塞後遺症など様々な慢性病を抱えていることが多く、その死にゆく過程は実に様々である。これまで高齢者の終末期医療の実態を調査した研究は少ない。こうした現状では十分な情報を国民に提示することができない。我々の研究によると、死亡場所(病院・高齢者介護施設・在宅)により終末期の医療行為に特徴がみられることが分かってきている。我々の研究の目的は、2つある。1つは、「情報開示」に必要な、従来複雑とされた終末像のデータベースの構築を実現することである。これは、主に平成14年度と15年度に行ってきた。そしてその成果をもとに平成16年度以降に、終末期ケアに関する「情報開示・インフォームドコンセント」の方法論の提案およびその効果の実証を目指す。もう1つは、高齢者施設・在宅における終末期に至る過程を明らかにし、終末期における高齢患者のADL・QOLへの介入を模索することである。
研究方法
(1)訪問診療を受けている高齢終末期患者に対して、終末期の症状・医療行為、介護者の気持ち、死亡時の状態、死亡場所などを調査した。(2)北海道地域5施設、中部山間地域4施設、沖縄地域4施設の在宅で死亡した在宅療養患者に対して、終末期医療に関する前向き調査を行った。(3)東京都老人医療センター総合内科病棟を退院した高齢患者に対して、アンケート調査を行った。(4)過去1年間に老人保健施設に入所した125人に対して、身体的入所理由、入所理由に関係した症状、原因疾患などについて、医師の問診により調査した。(5)介護老人福祉施設に入所している63歳から94歳までの30名に対して、嗜好と1年間の血液検査結果の変化を調査した。(6)全国の痴呆性高齢者グループホームに対して、終末期ケアに関するアンケート調査を行った。(7)全国の老人保健施設に対して、終末期ケアに関するアンケート調査を行った。
結果と考察
(1)患者の病状に関する詳しい説明、発熱・食欲の低下・痰の絡みなどに対して自宅での点滴・吸引機の導入などすばやい対応、介護サービスの適切な利用、医師による親戚への説明、24時間対応の訪問看護の導入など、患者や介護者が安心できる状況を作ることで、在宅における終末期ケアをスムーズに実施できた。(2)2003年3月から2004年1月までの11ヶ月間で40症例を収集した。予備調査において、総数100症例のデータ収集が可能と考えたが、インフォームドコンセントを得ることが予想以上に困難で地域比較するには不十分な数となった。(3)自己申告による健康状態は、手段的ADL、GDS15のそれぞれと相関を認めた。また、家族の介護負担感は手段的ADLと相関を認めた。入院中に精神機能や手段的ADLに対して介入を行う必要があると考えた。(4)後期高齢者の自立障害の主な原因として、壮年期からの
生活習慣に関連した異常が挙げられた。生活習慣病の予防・治療は、高齢者終末期の病態の改善や寝たきり予防が重要な長期的意味を持つと考えた。(5)貧血または貧血傾向と診断されている者が多く、ヘモグロビンは低下傾向がみられた。約8割が、食欲は「普通」~「ある」、好みの味付けは「普通」~「薄い」であった。全員が「果物を食べられる」と回答し、約3割が「牛乳・豆類は食べない」と回答した。栄養に関して何らかの介入が必要である。(6) 多くのホームが終末期ケアを実施することを前向きに検討していることが分かった。しかし、実施に際して医療資源の充実や利用者・家族の理解など課題が挙げられた。入居者および家族の希望に沿った終末期ケアを提供していくためには、利用者や家族に一層の情報提供を行っていく必要がある。(7) 介護老人保健施設の間で、終末期ケアに関する方針・実態に大きな違いがあることが分かった。そして、実施する場合には、施設基準や人員配置基準の見直しが課題として挙げられた。また、医療行為の実施について、人工呼吸器などの積極的医療に加えて麻薬系鎮痛薬の使用を行っている施設が少ないことが分かった。
結論
(1)在宅終末期医療の意義が医療者・患者・家族に十分理解されること、24時間訪問診療・看護体制の確立が望まれる。(2)今後の課題として、データ数の蓄積に加えてインタビュー調査などの質的探索調査を含めた追加調査が必要である。(3)退院後のQOLを高めるには、入院中に患者のADLとうつについて考慮する必要がある。(4)高齢患者やその家族は、「自立障害」を高齢者の終末期ととらえている。その予防には壮年期からの生活習慣病の管理が重要である。(5)介護老人保健施設入所者の栄養状態について、管理栄養士を中心としたチームによるきめ細かい配慮が必要である。(6)(7) 入居・入所者および家族の希望に沿った終末期ケアを提供していくためには、その場所で終末期ケアを提供できるか否か、可能ならどこまでなのか、利用者や家族により一層の情報提供を行っていく必要があると考えられる。

公開日・更新日

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