肺癌および慢性肺気腸原因遺伝子の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300206A
報告書区分
総括
研究課題名
肺癌および慢性肺気腸原因遺伝子の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山谷 睦雄(東北大学病院老年・呼吸器内科)
研究分担者(所属機関)
  • 関沢清久(筑波大学大学院臨床医学系内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
6,422,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)肺癌の発症は喫煙が最大の原因である。喫煙中にはタールやニトロサミンなどの発癌物質がふくまれている。喫煙はさらに、DNA傷害を生ずるオキシダントが含まれ、肺癌発症に関与すると示唆されている。肺腺癌は非喫煙者や女性に多く発症するが、最近になって喫煙量増加によって患者が増加すると報告されている。抗酸化酵素グルタチオン-Sトランスフェラーゼ遺伝子欠損が発癌物質の活性化を起こすとの報告があるが、抗酸化酵素活性低下と肺癌発症との関係は明らかになっていない。ヘムオキシゲナーゼはヘムをビリベルジンと鉄に代謝し、一酸化炭素やビリルビン、フェリチンを産生する酵素である。誘導型ヘムオキシゲナーゼはオキシダントや高酸素による細胞破壊を防御する抗オキシダント作用を持ち、生体におけるオキシダント物質とのバランスを保つ働きをしていると考えられている。さらに、ヘムオキシゲナーゼは発癌物質ベンゾピレンの活性に対する予防効果が報告されている。ヘムオキシゲナーゼの誘導はヘムオキシゲナーゼ遺伝子の上流に位置するGT反復配列で制御され、長いGT反復配列ほど抑制作用が強いことが最近報告された。これらの知見から、私たちは慢性肺気腫では喫煙中のオキシダントに対する防御能力が弱いのではないかと考え、慢性肺気腫における長いGT反復配列の遺伝子多型性を報告してきた。本研究において、私たちは肺癌においても、喫煙中のオキシダントに対する防御能力が弱いのではないかと考え、肺癌患者において、GT反復配列数を解析した。(2)慢性肺気腫に代表される慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease; COPD)は世界における主要死亡原因の1つであり罹患率・死亡率ともに増加している。喫煙はCOPD発症の最大の危険因子として認められているが、一方で喫煙者の10%前後のみにCOPDが発症するとの報告があり、喫煙に対する感受性を含め、COPDの発症因子・発症機序は不明である。現在、慢性肺気腫の発症機序として2つの仮説、プロテアーゼ・抗プロテアーゼ説およびオキシダント・抗オキシダント説が提唱されている。オキシダント・抗オキシダント説はオキシダントの直接傷害および抗プロテアーゼ抑制作用による肺組織破壊が慢性肺気腫を惹起すると説明しているが、喫煙者の抗オキシダント産生機能と慢性肺気腫発症との関係は不明であった。誘導型ヘムオキシゲナーゼはオキシダントや高酸素による細胞破壊を防御する抗オキシダント作用を持ち、ヘムオキシゲナーゼの誘導はヘムオキシゲナーゼ遺伝子の上流に位置するGT反復配列で制御され、長いGT反復配列ほど抑制作用が強いため、私たちは慢性肺気腫では喫煙中のオキシダントに対する防御能力が弱いのではないかと考え、慢性肺気腫における長いGT反復配列の遺伝子多型性を報告してきた。しかし、慢性肺気腫においてもGT反復配列の長くない、HO-1遺伝子多型性に該当しない患者も多い。COPDの病型のうち気道狭窄が主に現れ、肺胞破壊が弱い症例もあり、気道分泌も発症に関与するといわれている。CLCA1遺伝子は気管支喘息の気道杯細胞に発現し、非喘息の気道上皮には発現しない。また、気道粘液合成における関与も報告されている。今年度はCOPDの発症素因をさらに検討するため、気道分泌と関係の深いCLCA1遺伝子の多型性を検討した。
研究方法
(1)肺扁平上皮癌患者100名(平均年齢68.1歳、男性95名、女性5名)、対照者100名(平均年齢68.8歳、男性93名、女性7名)を対象に、末梢血液からDNAを抽出して、ヘムオキシゲナーゼ-1の遺伝子発現を制御するGT反復配列数を解析した。二種のプライマーP1-sとP1-asは誘導型ヘムオキシゲナーゼ-1遺
伝子上流域をはさむ位置とした。PCR産物は15%ポリアクリルアミドゲルの電気泳動を行ない、GT反復配列の長さを比較した。(2) 日本人のCOPD患者88名(平均年齢66.9歳、男性85名、女性3名)と対照者40名(平均年齢72.9歳、男性40名、女性0名)、およびエジプト人のCOPD患者106名(平均年齢62.5歳、男性106名、女性0名)と対照者72名(平均年齢59.0歳、男性72名、女性0名)の末梢血白血球よりDNAを抽出し、CLCA1遺伝子を解析した。
結果と考察
(1) GT反復数を27回未満、27回以上33回未満、33回以上とすると、肺扁平上皮癌患者と対照者の間では33回以上の長いGT反復配列を持つ割合は違いがなかった。これに対し、肺扁平上皮癌の進行期(stage IIIB-stage IV)の患者16名において、早期(stage 0-stage IIIA)患者84名に比べて33回以上の長いGT反復配列を持つallele(class L)の頻度およびclass Lのalleleを有するgroup Iのgenotypeの頻度とも高い値を示した(P<0.05)。肺扁平上皮癌の進行の速度とヘムオキシゲナーゼ-1遺伝子多型性の関与が明らかになった。 (2) CLCA1遺伝子に22の新規遺伝子多型が検出され、エジプト人では+5080 T/C genotypeが慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者で11%と対照群20%に比べて低く、有意差があった。日本人では+13924 T/A allele頻度がCOPD患者で48%と対照群の34%に比べて高く、有意差があった。また、CLCA1遺伝子の遺伝子多型はCOPD発症と関連があること、関連遺伝子多型は人種間で異なることが明らかとなった。
結論
肺扁平上皮癌の発見時進行度とヘムオキシゲナーゼ-1遺伝子多型性の関係、および、慢性閉塞性肺疾患発症とCLCA1遺伝子多型性との関係が明らかになった。

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