心筋梗塞、脳硬塞の予知因子の同定と予知法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300204A
報告書区分
総括
研究課題名
心筋梗塞、脳硬塞の予知因子の同定と予知法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
北 徹(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 横出正之(京都大学医学研究科)
  • 木村 剛(京都大学医学研究科)
  • 久米典昭(京都大学医学研究科)
  • 堀内久徳(京都大学医学研究科)
  • 荒井秀典(京都大学医学研究科)
  • 田中 誠(京都大学医学研究科)
  • 福山秀直(京都大学医学研究科)
  • 野坂秀行(社会保険小倉記念病院)
  • 光藤和明(倉敷中央病院)
  • 鄭 忠和(鹿児島大学医学部)
  • 近藤宇史(長崎大学医学部)
  • 井原義人(長崎大学医学部)
  • 坂田隆造(鹿児島大学医学部)
  • 土井修(静岡県立総合病院)
  • 田中昌(大阪赤十字病院)
  • 吉岡秀幸(京都逓信病院)
  • 服部隆一(近畿大学医学部奈良病院)
  • 佐賀俊彦(近畿大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
40,560,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は心筋梗塞と脳梗塞の臨床応用可能な予知法の開発である。日本人の死因は、心疾患15%、脳血管障害15%であり、高齢になるに従い増加する。これらの疾患は高齢者の生命予後を規定するとともに、回復後も後遺症を残すため高齢者のQOLを損なう。もし、その発症が予知できれば、バイパス手術やカテーテル治療等の侵襲的治療法や、強力な抗血小板療法、脂質低下療法等の内科的治療によりその発症は回避可能であろう。そのため、国民医療・高齢者医療の向上のためには、心筋梗塞・脳梗塞発症予知法の確立は急務である。心筋梗塞発症は粥腫の破裂に引き続く血栓形成が原因とされる。心筋梗塞は必ずしも冠動脈の高度狭窄部位で発症するものではなく、前兆なく発症することがしばしばである。一般に、冠動脈造影では予知は困難であると考えられている。そのため、特に危険因子が重複する高齢者などでは、そのような指標があれば定期的に測定することで、治療のタイミングや治療強度を決定することが可能となる。脳梗塞は、心臓内にできた血栓が脳血管を閉塞させる脳塞栓、粥状動脈硬化が基盤となった脳血栓症、および、高血圧との相関が強いラクナ梗塞に分類されるが、特に後2者に関してはその発症メカニズムについていまだ不明な点が多い。脳梗塞予知法が開発されれば、より質の高い医療を実施することが可能となるであろう。
なお、抗血小板療法の心筋梗塞・脳梗塞予防に対する有効性が確立され、多くの患者が治療されているが、同時に副作用として脳出血の頻度を増加させる。現在、広く臨床の場で、その効果をモニターする方法がないが、もし、そのような方法が確立できれば、効果をモニターしながらより有効でかつ安全な抗血小板療法を施行できるであろう。本研究で確立しようとしている血小板活性化指標は予知因子としてばかりでなく、抗血小板療法の効果モニターに広く応用される可能性がある。
研究方法
北は共同申請者、久米等とともに、酸化LDL受容体であるLOX-1、SR-PSOXを発見し、両者とも動脈硬化巣に発現し、可溶型があることを見出した。ELIZA法を用いて、LOX-1の血中濃度測定系を確立できたので、急冠症候群を中心に多くの症例において測定した。SR-PSOXに関しては現在、血中濃度測定法を開発中である。血小板活性化指標がない理由のひとつは、血小板活性化機構に不明な点が多いためである。共同申請者、堀内等とともに独自の、形質膜を透過型にした血小板を用いた血小板顆粒放出および凝集解析系を確立し、血小板活性化の分子機構の解明に取り組んだ。また、安定した血小板凝集能測定システムを確立した。
結果と考察
動脈硬化発症には酸化低比重リポ蛋白質(LDL)が重要な働きをしているが、我々は2つの酸化LDL受容体、LOX-1(Nature, 1997)およびSR-PSOX (JBC, 2000)を見出している。LOX-1は可溶型が存在し、測定法を確立し得た。ヒト血清において測定可能なことを確認し、急性心筋梗塞等を含む急性冠症候群の患者では高値となることを見出した(投稿中)。CRP 等の炎症マーカーや心筋障害マーカーとも異なる動き、すなわち、発症時には最高値に達しているという結果であった。さらに多くの症例を重ね、時間経過の詳細、さらに、安定型および不安定狭心症での位置づけ等まで踏み込み、心筋梗塞、脳梗塞予知因子として確立していく計画である。さらに、閉塞性動脈硬化症で可溶型LOX-1値が上昇していることを見いだした(投稿準備中)。種々の疾患において、多くの症例で可溶型LOX-1値を測定し血清診断法としての位置づけを確立していく計画である。
SR-PSOXは酸化LDLにより発現誘導されること、心臓の弁をおおう内皮細胞に特異的に発現しており、感染性心内膜炎など急性の炎症性弁疾患で発現が強く上昇することを見いだした(Yamauchi et al., ATVB, 2003)。可溶型SR-PSOXは感染性心内膜炎の診断マーカーになる可能性がある。早急な測定法の確立が望まれる。
動脈硬化の最終段階は血栓形成による動脈の閉塞であるが、透過型血小板を用いた凝集 (BBRC, 2001)・顆粒放出 (JBC, 2000) 解析系を確立し、血小板活性化の分子機構を解析している。本年度は、small GTPase Rab27が濃染顆粒放出を制御していること、Rab27の標的タンパク質をMunc13-4と同定し、両者が血小板濃染顆粒放出を制御していることを見いだした(Shirakawa et al., JBC, 2004)。また、PKC?が凝集を制御していることを直接的に証明した(Tabuchi et al., JBC, 2003)。血小板は核をもたず、分子生物学を用いることが困難であったため、血小板活性化に伴う内部での反応については解明されていないことが多い。我々の確立した系を用いて研究をすすめ、血小板活性化の分子メカニズムを明らかにし、血栓性疾患の予防、治療に貢献していきたいと考えている。
平成15年度には、安定かつ信頼性の高い血小板凝集指標の測定法を確立した。すでに、京都大学医の倫理委員会の承認を得ており、平成16年度には、多くの症例で測定し、予知因子となるか検証していく計画である。また、その指標が、抗血小板療法の効果判定指標となるかも検討していく計画である。
結論
本年度は、可溶型LOX-1の解析で、可溶型LOX-1が心筋梗塞予知因子であることを証明できた。さらに、多くの疾患、症例で検討を進め、可溶型LOX-1値の診断学的意義を確立する。また、血小板活性化指標を確立できたので、本指標が予知因子と成るかを検証する。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-