要介護状態予防が必要な対象把握に対する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300199A
報告書区分
総括
研究課題名
要介護状態予防が必要な対象把握に対する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
鳩野 洋子(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本玲子(神戸大学)
  • 守田孝恵(山口大学)
  • 松野朝之(宮古福祉保健所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
1,926,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年度は、①昨年度精選した項目を用いて本調査を実施し、要介護状態予防が必要な対象者を把握する尺度を開発すること、②特に対象者把握が困難と考えられる大規模自治体における対象者把握の実態について調査することで、その課題と今後の取り組みり手がかりを得ることを目的としている。
研究方法
①に関しては、昨年度の収集・精選した項目した項目について、住民・専門職に対して意見を求め、項目の削除修正を行い、46項目の本調査項目を決定した。本調査は人口3万から30万人未満の自治体の専門職に、介護保険の要支援の認定を受けている前期高齢者(以下、要支援高齢者)と、その対象と性別が同じで年齢差が3歳以内の元気な高齢者(以下、元気高齢者)に対して質問紙の配布を依頼し実施した。また項目の安定性をみるため、某地域の高齢者13名に対して1ケ月の期間をおいて、2度調査を行った。②に対しては、平成15年5月現在、人口30万人以上の75自治体の介護予防担当部署宛に郵送調査を実施するとともに、郵送調査において調査協力が得られた自治体のうち6自治体に対してヒアリング調査を実施した。
結果と考察
①の調査について 本研究対象としての基準に合致した要支援高齢者、元気高齢者339組みの回答を分析に用いた。回答は日本全国から得られた。元気高齢者の回答について、項目の回答分布に偏りがみられた2項目を削除したのち、CITIを行い、相関係数が低かった12項目を削除した。32項目について、重みなし最小二乗法・プロマックス回転による因子分析を繰り返し、因子負荷量の小さい項目を削除した結果、28項目7因子からなる尺度が得られ、要介護状態リスク尺度Fraility Risk Scale for the Elderly(FRA)と命名した。尺度は最低28点最高112点の得点をとり、得点が低いほうが要介護状態のリスクが高いことを示す。因子抽出後の累積寄与率は53.6%であった。クロンバックの係数は全項目で0.887、各因子では0.504~0.771であった。以上のことからFRAは全項目を用いて使用する上では信頼性のある尺度であると考えられた。妥当性の検討のために、要支援高齢者と元気高齢者の得点を比較したところ、有意に差がみられた(p<0.01)。これに加え、本人・専門職の1年後の予測別の得点状況を検討したところ、FRA得点は要介護状態の危険性の予測によく反応していた。以上によりFRAの構成概念妥当性が確認されたと考えた。また健康度の測定尺度として信頼性妥当性が確認されているEuroQOL尺度日本版の5項目法との相関係数の算出により、基準関連妥当性を検討した。スピアマンの順位相関係数は0.459(p<0.01)で、中程度の相関がみられたことにより、基準関連妥当性が支持された。既存のツールとFRAを比較したところ、FRAは高齢者自身が認識しうる生活のありように重点をおき、特定の疾病や環境に左右されがたい普遍的な内容を含んでいる尺度であることが特徴づけられた。また要支援高齢者と元気高齢者の得点の得点分布の状況から、FRA得点が90点以下の場合を要介護状態に移行するリスクの高い状況と捉えることができるのではないかと考えた。 
②の調査については、66自治体から回答が得られた(有効回答率88.0%)。そのうち、自治体内から複数の回答があった2自治体を除き、64自治体を分析対象とした。介護予防の中心部署に関しては、「在宅介護支援センター単独(以下、在支単独)」が40.6%、「保健部門」20.3%、「福祉部門」6.3%「混合」32.8%であった。具体的な把握経路で多かったものは、順に「本人・家族からの福祉部門への相談」85.9%「本人・家族からの保健部門への相談」84.4%「保健福祉関係住民からの情報・紹介」73.4%であった(複数回答)。この経路は中心部署別で違いが見られた。また中心部署が「混合」の場合が、把握経路が最も多くなっていた。把握経路確立のための基盤について設定した9項目のうち、「できている」との回答が最も多かった項目は「関係住民に対して、介護予防や介護予防が必要な対象についての啓発を行っている」81.3%であった。一方、その割合が少なかった項目は「対象の状態像別の介護予防の基準がある」25.0%、「介護予防に関する定期的な協議の場がある」30.6%であった。また担当者の主観で「介護予防対象者の把握ができているか」の問いについては、「かなりの割合が把握されている」7.8%、「おおよそ把握されている」が40.6%で、中心部署別では「在支単独」の場合が把握されている割合が高かった。またこれと基盤との関連を検討したところ、最も強い関連がみられたのは「介護予防が必要な対象像について、自治体内で合意がある」であった。以上の結果から、介護予防が必要な対象者の把握に関しては「在支」が中心部部署となっている自治体が、そのシステムが整っていることが推察された。これは、在支が介護予防の責任部署として位置づけられている自治体は、在支の歴史の短さから考えて、その地域においての介護予防に関する合意形成の場が持たれた経緯があるためではないかと考えられた。また把握経路から考えると、多機関との結びつきがあることにより、多くの把握経路が生じており、機関や部署間の連携が対象者把握に必要と考えられた。また、介護予防が必要な対象者把握を行ってゆくうえでは、自治体内で介護予防が必要な対象者像について、合意してゆくことから始めることの必要性が示唆された。ヒアリング調査では、系統的なスクリーニング体制を整えようとしている状況と、住民組織等との連携による。地域に密着した活動のあり方について聴取された。
結論
①尺度開発においては(1)要介護状態の危険性を捉えることを目的とした尺度の開発を行った。(2)全28項目(28~112点)からなる尺度が開発され、要介護状態リスク尺度(FRA)と命名した。(3)FRAの信頼性・妥当性の検討を実施した結果、28項目全体を活用する場合の信頼性、妥当性の確認ができた。(4)FRAは要介護状態の危険性を測定する尺度として、地域で実用可能と判断した。②の把握方法に関しては、(1)全般的に在宅介護支援センターが介護予防の中心になっている自治体が、対象把握ができている、という状況が見られた。(2)介護予防必要者の対象像、その対象像に応じたサービス基準の明確化が対象把握の初段階として取り組むべき課題である。(3)ヒアリングからは系統的なスクリーニングと住民組織等と共同した対象把握の2つのタイプの方法がみいだされた。

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