高齢者における効果的な転倒予防活動事業の推進に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300190A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者における効果的な転倒予防活動事業の推進に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
新野 直明(国立長寿医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 芳賀博(東北文化学園大学)
  • 杉森裕樹(聖マリアンナ医科大学)
  • 江藤真紀(名古屋大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
7,182,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「寝たきり」の大きな原因の一つとなっている高齢者の転倒の減少、予防を目的とした教育、活動を実施する動きが広まりつつある。申請者は、平成11年度から3年間、健康科学総合研究事業新野班として、転倒予防活動事業の実態について全国調査をおこなった。その結果、全国の半数弱の自治体において転倒予防活動事業が実施されておらず、その理由として、プログラムが不明、担当する人材・職種が不明があげられていた。転倒予防活動を推進するには、効果的なプログラムと適切な人材配置が重要なことは明らかである。そこで本研究では、地域の転倒予防活動事業を効率的に実施するにはどのような内容のプログラム、および人材・職種が必要か、さらにその人材にはどの様な資質が求められているかを調べる。具体的には、効果的な転倒予防事業を推進するために必要な情報を収集することを目的として、2つの自治体において、現在行われている転倒予防活動事業の実態と効果、さらにスタッフの特性などを詳しく調べた。また、過去の調査で転倒予防事業を実施していた全国の自治体を対象に、事業の実態、内容、評価、効果などを調べる郵送調査を実施した。さらに転倒予防事業の推進をはかる上で重要な転倒予防プログラムの医療経済効果についても文献学的検討を加えた。
研究方法
愛知県西春日井郡西枇杷島町における転倒予防事業の実態について、事業担当の保健師などから情報を収集した。また、高齢転倒予防推進リーダーを中核とする転倒予防活動プログラムを開発する上で重要なリーダーの特性を検討するために、宮城県米山町の70歳以上高齢者を対象に、複数の基本属性、社会的要因、心理・身体的要因でを調べ推進リーダ希望者と非希望者でこれらの要因に差異があるかを検討した。また、2000年に実施した転倒予防事業の全国調査で転倒予防事業を実施していると回答した260市町村に1. 市町村の特性:総人口など。2. 転倒予防に対する担当者の認識:転倒予防への興味・関心の程度など。3. 転倒予防事業の実施状況:実施の有無。3-1(実施している場合)事業予算、事業内容とスタッフの詳細、実施効果の評価有無、効果の内容など。3-2(実施していない場合)実施しない理由、今後の実施計画の有無。4. 高齢者を対象とする健診・調査活動に含まれる項目に関する調査票を郵送し、転倒予防事業の継続状況、評価、効果などについて調べた。さらに、海外における高い信頼性の研究デザインにもとづく,転倒予防プログラムの医療経済的文献をレビューし,我が国における効果(effectiveness)的かつ効率的(efficiency)な転倒予防プログラムの開発などに繋がる基礎的検討を行った。
結果と考察
地域在住高齢者を対象とした転倒予防事業では、まず対象者自身への意識づけが必要である。西枇杷島町における転倒予防事業はまだ歴史は浅いが、「転倒に対して意識するようになった」、「教室に参加して生活に変化があった」などの意見があり、多少なりとも教室に参加した高齢者の転倒に対する意識付けができたと考えられた。
地域における転倒予防プログラムを推進するために重要な役割を果たす転倒予防推進リーダーの特性としては、最終的に、男性、年齢が若い、知的能動性が高い、健康満足感が高い等の特徴を有する者が転倒予防推進リーダーを希望していることが明らかとなった。転倒予防推進リーダーのような高齢者は、地域の介護予防の担い手としてのマンパワーや参加者自身の健康の維持および増進を目的としてさらに注目されると考えられる。知的能動性は、健康に関する記事や番組に関心を示すことや本や雑誌を読むなどの項目で表されるような人生に対する前向きな態度や姿勢を表しており、これらの姿勢が自己の健康の維持・増進を目的とした転倒予防推進への参加を促したことが考えられた。
転倒予防事業の全国的な実施状況さらに評価、効果について情報を得るために、2000年の時点で転倒予防事業を実施していた全国の市町村を対象に、事業継続の有無、継続している場合には更に詳しい事業の内容を検討した。その結果、80%以上の市町村は事業を継続実施しており、継続割合は高いものであることがわかった。事業の内容は2000年の調査結果とそれほど変わらなかった。しかし、事業の評価については、評価実施割合の高い事業の種類はほぼ同様だが、評価実施割合の数値が今回はかなり高いことが示された。事業評価の重要性が認識されつつある昨今の状況では当然のことであろうが、転倒予防事業が地域の保健事業としてしっかり認知されてきたことの傍証とも考えられた。
転倒予防事業の効果を考える上で重要な転倒予防プログラム医療経済的検討を既存の文献を用いておこなった。一定の効果、費用対効果が見られるとする報告が多かった。いくつかの報告においては,高齢群,ハイリスク群,転倒既往群など、費用対効果の高いsubgroupが見いだされており、今後我が国でもさらなるsubgroup検討が重要と考えられた。
結論
2つの自治体を取り上げて、事業の内容、効果、あるいは、事業のスタッフの特性について明らかにした。また、過去の調査で転倒予防事業を実施していた全国の自治体を対象に、転倒予防事業の継続状況、内容、評価、効果などを調べる郵送調査を実施した。以上の調査から、転倒予防事業を効果的に推進するために必要な情報が得られた。さらに、転倒予防事業の推進をはかる上で重要な転倒予防プログラムの医療経済効果についても文献学的検討を加えた。

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