気管内痰の自動吸引器の実用化研究

文献情報

文献番号
200300188A
報告書区分
総括
研究課題名
気管内痰の自動吸引器の実用化研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
法化図 陽一(大分県立病院)
研究分担者(所属機関)
  • 永松啓爾(永松神経内科・内科クリニック)
  • 瀧上茂(高田中央病院)
  • 山本真(大分協和病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
41,066,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ALS(筋萎縮性側索硬化症)などにより在宅人工呼吸管理を行っている神経難病患者の家族にかかる介護負担は極めて大きい。患者自身が自力で排痰できないため、呼吸状態を安定させるため、常時見守りが必要であるとともに気管内痰の吸引を適宜行わねばならず、介護の拘束性も高い。とりわけ夜間の痰の吸引は、看護職や介護職の支援を得ることが不可能であり、その負担の全てが介護する家族にかかるため、介護家族の睡眠時間の短縮をもたらし、疲労を高めていると考えられる。これら気管内の痰の吸引による介護負担を低下させるために、気管内の痰の排除を自動的に行う技術と器具の開発を試みた。
研究方法
カフ下部吸引孔を有する気管カニューレを試作し、この吸引孔からの吸引ラインに吸引器を接続し、痰の吸引を行った。自動吸引の方法として、一定時間間隔および、気道内圧の10%以上の上昇時に電動式陰圧吸引器を用いて試験吸引を行い、吸引圧の値から痰の有無を判断する間歇的吸引の方法と、チューブポンプを用いた低量持続吸引器を接続し、常時吸引する方法を用いた。臨床試験を8例のTPPV(気管切開下人工呼吸)を行っているALS患者に対して行い、痰の吸引量を測定するとともに、用手吸引回数の比較を、自動吸引の有無で比較することにより、効果の判定を行った。臨床試験は、全て入院の上、酸素飽和度および心拍を監視した状態で行った。臨床試験は、研究班の試作した気管カニューレを装着し、自動吸引を7日間行い、通常の気管カニューレによる同期間の対照期間を設定した。なお、本研究での臨床試験は、大分県立病院の倫理委員会の承認を得た(県病第597号平成15年12月19日付け)。
結果と考察
電動式陰圧吸引器の制御を行う方法により臨床試験を行った1例では、期間中、用手吸引回数が一日平均9.7回から1.6回に減少する効果がみられたが、吸引器の接続によって呼吸回路から換気リークが生じること、および吸引器稼動時に換気量が低下するという問題が生じた。High Volume Ventilationを行っているような換気量の大きな症例では、臨床上の影響をもたらさなかったが、一回換気量が400ml程度の症例である場合には、吸引動作時には有効な換気が行えないことが、気管肺モデルによる実験から判明した。従って吸引動作が短時間で終了できなかったり、誤動作によって吸引動作が停止できないなどの事態が生じた場合は、患者の安全に関わることが予想された。また気道内圧の監視による吸引開始のロジックも、患者に咳反射などが残存していた場合は、有効に作動できず、実用性にも問題があることが判明した。以上の問題より、臨床試験は、2例目以後の全7例は、チューブポンプを用いて15ml~55ml/分の流量による低量持続吸引を行った。低量持続吸引方式による臨床試験7例中4例で、夜間の用手吸引回数の減少が認められ、有効と判定した。なお、うち3例では日中の用手吸引回数の低下傾向もみられた。1例は効果が不安定であり、やや有効と判定し、2例は無効と判定した。これら効果の明らかでなかった3例は、痰が水飴状で粘調度が極めて高いか、痰が少量であるという特徴があった。試作した気管カニューレは、2例にカフ下部吸引ラインの閉塞が生じたが、気管カニューレとしての性能は保たれた。本方式では電動式陰圧吸引器を接続したときに生じた換気リークは生じず、また吸引流量が分時換気量に比べて極めて小さいため、吸引時の換気の低下も発生せず、また常時稼動で制御を用いないため患者の気道内圧の変動などの影響を受けず、安全性と安定性が高いと考えられた。今後、吸引能力の向上や吸引孔の位置やサイズなどについて検討を加
え、吸引効率を高めることができれば、TPPVを行っている神経難病患者の在宅での使用に適した方法であると考えられた。低量持続吸引をカフ下部吸引ラインから行う方法は、PEEP(呼気終末陽圧)などの呼吸管理を受けている重症患者に影響をもたらさずに持続吸引が可能という、これまでに存在しない閉鎖式吸引システムであり、重症患者の管理やSARSなど感染性の高い病原体に侵された患者の管理に有用なシステムに発展する可能性がある。また、今回研究班が試作した気管カニューレの特徴である、カフ下部吸引ラインを用手吸引に用いると、簡便に安全、衛生的かつ苦痛なく気管内の痰の排除が可能であり、在宅TPPV管理だけでなく、全ての気管切開患者において、極めて有用なデバイスになりうると考えられた。自動吸引装置の完成を待つことなく、早急に市場に供給したい医療用具と考えた。
結論
カフ下部吸引ラインを有する気管カニューレを試作し、その吸引ラインにチューブポンプによる低量持続式吸引器を接続する自動吸引システムを作成した。7例のTPPVを行っているALS患者に本システムを用いた臨床試験を行った。7例中4例で、夜間の用手吸引回数の減少がみられ、有効であった。吸引能力やカフ下部吸引孔のサイズや位置などについて検討を加え、吸引効率を上げることができれば、在宅人工呼吸管理を行っている神経難病患者の介護負担を減少させることが可能と考えられた。また、カフ下部吸引ラインは、気管カニューレを用いる全ての患者に対し、有効性が高いと考えられ、早急に市場に供給したい医療用具と考えられた。

公開日・更新日

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