「在宅介護の質」:評価尺度の開発および介護負担との関連について

文献情報

文献番号
200300185A
報告書区分
総括
研究課題名
「在宅介護の質」:評価尺度の開発および介護負担との関連について
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
荒井 由美子(国立長寿医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 鷲尾昌一(札幌医科大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,070,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
要介護高齢者の在宅生活を推進する上で、在宅介護の質を客観的に評価し、在宅での介護の状況を明らかにすることは、重要である。しかし、在宅介護は極めて私的な事象であるため、家族介護者の自己申告による調査が主体であった。在宅介護の質は、各居宅内における介護環境や、要介護者の在宅における生活状況などの総体として評価する必要があるが、そのような客観的かつ総合的な評価方法は、現在のところ存在していない。そこで、本研究は、在宅介護の質を客観的に評価するために、(1)要介護高齢者の状態、(2)介護者および介護の状況、(3)居宅内の介護環境、以上の3領域の下位尺度より構成され、居宅介護サービススタッフの観察により評価を行う「在宅介護の質」評価尺度の開発を目的とした。尺度の開発にあたっては、単にその測定内容を考慮するだけでなく、尺度の信頼性を検証することが必須である。尺度の信頼性は、test-retest信頼性、検者間における評価の信頼性、尺度を構成している項目の内的整合性によって検討される。本年度は、「在宅介護の質」評価尺度の原案を作成し、その信頼性の検討を行うことを目標とした。
研究方法
本年度における本研究は、以下の順に実施された。
1.評価項目原案の作成
2.原案各項目のtest-retest信頼性および検者間信頼性を検討するための調査
3.尺度を作成し、その内的整合性を検証するための調査
1. 評価項目原案の作成
岡崎市医師会訪問看護ステーション所属の看護師ら、ならびに遠賀中間医師会訪問看護ステーション所属の看護師らと協議し、68項目の評価項目原案が作成された。
2. 評価尺度原案項目のtest-retest信頼性および検者間信頼性検証調査
1) test-retest信頼性検証調査
岡崎市医師会訪問看護ステーションを利用する要介護高齢者とその家族介護者30組を対象とした。対象となった利用者は、女性15名、男性15名、平均年齢82.8歳であった。調査方法は、同一の対象者宅を、同じ評価者(訪問看護師)が、3~4週の間隔を置いて訪問し、評価尺度原案を用いて評価を行い、その2回の評価の一致度を検討した。
2)検者間信頼性検証調査
岡崎市医師会訪問看護ステーションを利用する要介護高齢者とその家族介護者20組を対象とした。対象となった利用者は、女性5名、男性15名、平均年齢75.3歳であった。調査方法は、対象者宅を、同時に2名の評価者(訪問看護師)が訪問し、評価尺度原案を用い、個別に在宅介護の状況を評価し、その一致度を検討した。
3)各項目の信頼性の検討
評価尺度を作成するにあたり尺度を構成する前に、項目ごとにtest-retest信頼性および検者間信頼性を検討した。Cohenのκ係数を算出し、信頼性係数とし、κ係数の算出が不適当である場合は、順序相関係数でもあるKendallのτ(b)の算出を併せて行った。いずれも、一致しない場合0、完全に一致する場合1となる。本研究では、test-retestおよび検者間において、当該項目のκ係数(もしくはKendallのτ(b))が0.4以上であることを、項目採用の条件とした。
3. 評価尺度の作成および作成された評価尺度の内的整合性の検討
1)対象と方法
岡崎市医師会訪問看護ステーションを利用する要介護高齢者とその家族介護者104組を対象に、調査を実施した。対象となった利用者は、女性55名、男性49名、平均年齢は77.8歳であった。調査方法は、各対象者宅に担当の訪問看護師が訪問した際に、68項目の評価尺度原案を用い評価を行った。
2)解析方法
項目中、該当者が極めて少ない項目ならびに信頼性の低い項目を除外し、条件を満たした項目について、因子分析を行い、尺度を構成する項目を探索した。因子抽出には最尤法を用い、バリマックス回転を行った。固有値1以上の因子を採用し、当該因子に0.4以上の因子負荷があり、他の因子に0.4以上の因子負荷が無い項目を、それぞれの因子の尺度項目として採用した。本研究では、10項目前後を投入した解析を複数回行うこととした。次いで、それぞれの尺度の内的整合性を確認するために、Cronbachのα係数を算出した。
結果と考察
1. 評価項目原案
全68項目の評価項目原案を作成した。その内訳は、評価時に認められた要介護高齢者の症状7項目、認知機能に関する項目6項目、感覚知覚や麻痺に関する項目8項目、ADLの自立に関する項目14項目、寝たきり状態に関する粗大運動についての5項目、介護者および介護の状態に関する項目18項目、居室のバリアフリー化など10項目、であった。評価形式は、有無の2件法および3~5段階の選択法とした。なお、要介護高齢者の症状に関する項目については、合計得点を算出する形の尺度とせず、個別の項目として用いることとした。
2. 評価尺度原案項目のtest-retest信頼性および検者間信頼性検証
test-retestおよび検者間いずれかにおいて、信頼性係数が0.4より低かった項目が14項目あった。このうち、κ係数が0.4に満たないものの統計的に有意であり、評価内容として重要であった1項目は、除外せず、また、評価結果が集中し係数が算出できなかった項目についても、除外しないこととした。
3. 評価尺度の作成および作成された評価尺度の内的整合性の検討
評価項目原案68項目から、症状に関する9項目および、信頼性により不採用とした13項目、評価項目の該当者が対象者の約3割であった2項目を除外した残りの43項目について、項目作成時に想定した分類に従い、5回に分けて因子分析を行った。視聴覚に関する2項目については、因子分析を行わず、内的整合性のみ確認した。
認知機能および感覚知覚や麻痺に関する項目の因子分析の結果、3つの因子が抽出され、第1因子は認知機能に関する項目の負荷が高く、因子名を「認知」とし、第2因子に負荷の高い項目は麻痺と拘縮であったため、因子名を「麻痺」とした。第1、第3因子ともに0.4を超える因子負荷があった1項目は、尺度より除外した。第3因子に負荷の高い項目は、除外された項目と合わせ2つであり、固有値も除外基準との境界であったため、尺度として採用しなかった。
ADLの自立に関連した項目の因子分析では、2因子が抽出されたが、項目の因子負荷が相互に高いため、一つの尺度として用いることとし、因子名を「ADL」とした。寝たきり状態に関する粗大運動についての項目においては、1因子のみ抽出され、因子名を「粗大運動」とした。
介護者および介護の状態に関する項目の因子分析の結果、3つの因子が抽出され、第1因子は、身体的拘束など不適切処遇に関する項目の負荷が高く、因子名を「不適切」とした。第2因子は、着衣に関する項目の負荷が高く、因子名を「着衣」とした。第3因子は、介護者の介助の手際などに関する項目の負荷が高かったため、因子名を「介助」とした。いずれの因子に対しても負荷が低く、共通性も極めて低かった1項目は、尺度より除外した。
バリアフリー化などに関する項目の因子分析の結果、第1因子には、段差に関する項目の負荷が高く、因子名を「段差」とした。第2因子は、室内の改修などに関する項目の負荷が高く、因子名を「設備」とした。いずれの因子に対しても負荷が低く、共通性も極めて低かった1項目は、尺度より除外した。
以上により、「在宅介護の質」評価尺度の10の下位尺度および、その項目が選定された。各下位尺度の項目数は2~10、Cronbachのαは、0.6~0.9であった。各下位尺度の得点は、各項目の得点(0~4)を単純に加算することとした。
本研究は、「在宅介護の質」評価尺度の原案を作成し、その信頼性の検討を行ったものである。尺度に採用した各項目の、test-retest信頼性および検者間信頼性は、許容範囲であると考えられた。
作成された「在宅介護の質」評価尺度の下位尺度の内的整合性について、「認知」「ADL」「粗大運動」においては、極めて高い内的整合性を示したが、「介助」における内的整合性は、許容される下限に近い結果であった。
要介護者の症状およびADL等の尺度化したアウトカム指標について、継続調査により、その妥当性を検証する。
本研究により作成された「在宅介護の質」評価尺度により、在宅介護の客観的評価への端緒が開けたものと考える。次年度は、本尺度の改善を行い、妥当性の検証を実施することにより、尺度として広く一般に利用可能とすることを目標としている。
結論
「在宅介護の質」評価尺度を作成し、その信頼性を確認した。尺度を構成する各項目のtest-retest並びに検者間信頼性については、原則的にκ係数0.4以上であり、作成された10の下位尺度について、その内的整合性は0.6~0.9であった。以上により「在宅介護の質」評価尺度の信頼性は確認された。尺度の更なる改善と妥当性の検証が、今後の課題である。
関連研究においては、介護負担軽減のためには、サービスの利便性の向上、および介護者の言語コミュニケーション満足度を高める必要があることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-