高齢者の終末期ケアを支える地域ケアシステムの構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300179A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の終末期ケアを支える地域ケアシステムの構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
村嶋 幸代(東京大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 川越博美(聖路加看護大学)
  • 高橋龍太郎(東京都老人総合研究所)
  • 山本則子(TBIリハビリテーションセンター)
  • 永田智子(東京大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
6,760,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者のターミナルにおいては、急性期病院へは入院しにくく、療養を主目的とした施設や在宅では医療処置や病状の急変への対応が困難などの理由から、療養場所の確保が難しい。高齢者の希望や、療養場所移動に伴う負担軽減を鑑みると、自宅や療養施設でのターミナルケアを、希望に応じて受けられることが望ましいと考えられるが、現在のところ、そのためのケアシステム作りに向けた研究は殆ど行われていない。そこで、本研究では、在宅および療養施設における高齢者のターミナルケアの現状と今後の課題について多方面から検討を行い、ケアシステム構築に向けた提言を行うことを目的とした。
研究方法
【文献検討】海外での研究に関しては、Medline (OVID)を用いて、「AGED」*「Terminal care 」をメインの検索タームとして、2000年以降の文献を検索した。国内での研究に関しては、医学中央雑誌を用いて、「高齢者」*「ターミナル(ケア)」をメインの検索タームとして1999年以降の文献を検索した。また、関連する報告書の収集も行った。【訪問看護ステーション全国調査】対象は、全国訪問看護事業協会の会員である3,013箇所のステーションの管理者であった。調査期間は2003年8-9月であり、自記式調査票を郵送にて配布・回収した。調査内容は、ステーションの概要、平成15年7月1か月間にステーションで行った在宅での看取り、および、入院2週間以内の死亡ケースの状況、在宅での看取りを含めた医療処置の実施可能性および実施の有無などであった。なお、本研究は東京大学大学院医学系研究科倫理審査委員会より承認を得た。【グループホーム管理者へのインタビュー調査】ターミナルケア実施経験のあるGHの管理者1名にインタビューした。インタビューはテープに録音し、逐語録を作成してデータとした。継続的比較分析を中心とした質的分析を行い、インタビュー内容を整理した。
結果と考察
【文献検討】:海外文献では、病院、ナーシングホームなどでのターミナルケアを扱っている物が多く、一部に在宅での取り組みや一般高齢者への意識調査などが見られた。内容は、高齢者自身の意思決定、延命治療の実施の是非、ナーシングホームでのケアの質など、倫理的課題を扱っているものが多かった。国内での研究に関しては、病院及び在宅をテーマとした物が多く、高齢者施設を対象とした研究は少なかった。内容は、意識調査が多く、次いで実態調査が見られるが、プログラム評価などの実証研究は少なかった。国内外共に、介入研究・プログラム評価などの研究は少なかったことから、今後の課題と考えられた。一方、研究報告書についてみると、高齢者施設を対象とした全国調査が複数行われていた。【訪問看護ステーションの全国調査】:1か月間に在宅死を経験したステーションは31.4%で、65歳未満の看取りを経験したのは3%前後だが、65~84歳・85歳以上では、それぞれ約17%が経験していた。また、入院して2週間以内の死亡の割合と比較すると、他の年代に比べて85歳以上では在宅での看取りが多かった。また、85歳以上では悪性新生物による死亡よりもその他の疾患の方が多かった。以上より、高齢者のターミナルケアについて取り上げることの意義が改めて示された。在宅での看取りが実施可能と答えたステーションは1772箇所(93.7%)と多かった。設立年度、地域区分、開設主体、同一法人内の入院施設の有無は、在宅での看取りの実施可能性や実施の有無と関連していた。また、緊急時訪問看護加算などの届出がある方が実施可能
性、実施共に多かった。計画的訪問については、「日曜日昼間」と「準夜帯」の実施が実施可能性・実施共に有意な関連を示した。これらの要因は、先行研究の結果とほぼ一致していた。看取りを行ったステーションのうち50%弱がターミナルケア加算(療養費)を算定しておらず、算定基準に制限があることも一因と考えられた。【グループホーム管理者へのインタビュー調査】:GHでのターミナルケアを可能にする要素には、a.ターミナルケアに焦点を当てた往診医などとの特別な連携体制づくり及びスタッフ教育などGH内部の体制づくり、b.安定した患者の状況、c.看護職がGHにいること、d.ホーム長のターミナルケアに対する特別な熱意、が挙げられた。ホーム長によって望ましいと評価されるターミナルのプロセスには、a.ターミナル期以前の家族との関係形成、b.ターミナルに関する家族中心の意思決定、c.家族のターミナルケアへの参加、d.家庭生活に近い環境づくりのためのケア、といった要素が見出された。
結論
文献検討の結果、海外では、倫理的課題を取り上げた研究、ナーシングホーム入所者を対象とした研究が多かった。一方、国内では、福祉施設・機関におけるターミナルケアを取り上げた論文は少なかったが、報告書レベルでは全国規模の調査が複数行われていた。国内外共に、介入研究・プログラム評価などの研究は少なく、今後の課題と考えられた。全国の訪問看護ステーションにおける調査においては、85歳以上の超高齢者では、入院して2週間以内の死亡よりも在宅での看取りが多く、悪性新生物による死亡よりもその他の疾患の方が多かった。設立年度、地域区分、開設主体、同一法人内の入院施設の有無、緊急時訪問看護加算などの届出は、在宅での看取りの実施可能性や実施の有無と関連していた。在宅での看取りを実施するステーションの特徴が改めて示されたと共に、高齢者のターミナルケアについて検討することの意義が示されたと考えられる。痴呆性高齢者グループホームの管理者へのインタビュー調査からは、GHでのターミナルケアを可能にする要素、および、ホーム長によって望ましいと評価されるターミナルのプロセスの要素が見出された。今回抽出された「患者の状況」「看護職の存在」「ホーム長の熱意」等について、本事例とは異なる条件下でターミナルケアを実施した経験を持つGHを対象として、さらにデータ収集と分析をすすめていきたい。また、多角的にGHでのターミナルケアの可能性を検討していく上で、今後は家族やスタッフの視点を把握する必要もあると思われる。

公開日・更新日

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