家庭血圧を用いた高齢者高血圧の早期血圧とその変動制の評価と管理法の確立

文献情報

文献番号
200300177A
報告書区分
総括
研究課題名
家庭血圧を用いた高齢者高血圧の早期血圧とその変動制の評価と管理法の確立
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
苅尾 七臣(自治医科大学循環器内科)
研究分担者(所属機関)
  • 島田和幸(自治医科大学循環器内科)
  • 三橋武司(自治医科大学循環器内科)
  • 石川鎮清(自治医科大学循環器内科)
  • 江口和男(自治医科大学循環器内科)
  • 星出 聡(自治医科大学循環器内科)
  • 星出陽子(自治医科大学循環器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
2,661,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、外来血圧よりも自由行動下血圧、特に早朝血圧の管理の重要性が指摘されている。しかし、現状は血圧コントロールが良好な高齢者高血圧患者で、早朝血圧が十分にコントロールされているものは約半数に過ぎない。家庭での早朝血圧に基づく厳重な高血圧管理が望まれるが、一方で、高齢者高血圧では起立性血圧調節障害(起立性低血圧と起立性高血圧)を合併することが多く、ふらつき、転倒、失神を生じ、十分に降圧ができない場合がしばしば生じる。研究初年度は早朝血圧レベルが高い治療中高血圧患者230名を対象に、座位と立位にて家庭血圧モニタリングを行い、早朝血圧と就寝時血圧と高血圧性臓器障害との関連を検討した。
研究方法
外来通院中の高血圧血圧患者の内、以下の基準を満たす230名を臨床研究に登録した。
A.対象者
エントリー基準
1)早朝収縮期血圧レベルが135mmHg以上
2)降圧薬を服用開始後3ヶ月以上
3)内服薬の変更のない安定期高血圧患者 (心血管合併症、糖尿病、腎障害を有する例も含む)
対象者除外基準
心房細動、心不全、症候性起立性低血圧、悪性疾患、痴呆、その他の重篤疾患
B.測定評価項目
1)家庭血圧測定
オムロン社自動血圧測定計を用いて、早朝薬剤服用前と就寝前に、それぞれ2分間の安静後に座位2回と立位2回を連続4回(各測定間隔は1分)、3日間測定した(自己記入式)。
2)高血圧性臓器障害評価
(1) 心疾患: 脳ナトリウム利尿ホルモン(BNP)、心電図左室肥大、心エコー検査
(2) 腎障害: 尿中微量アルブミン(クレアチニン補正)
(3) 大血管障害: 動脈スティフネスの指標として脈波伝導速度(PWV)
augmentation index(AI)
結果と考察
早朝vs 就寝時家庭血圧と高血圧性臓器障害
1) 早朝血圧(収縮期:SBP)はBNPと有意に関連していたが(r=0.204, P=0.004)、就寝時血圧(r=0.074, P=0.301)とBNPには関連がみられなかった。
2) 心電図左室肥大を有する群と有さない群の2群間比較では、診察室血圧に有意差は認めないものの(156.7 vs. 162.5mmHg: P=0.160)、早朝座位平均SBP (151.2 vs. 157.1mmHg: P=0.038), 就寝時座位平均SBP (139.5 vs. 148.0mmHg: P=0.007)と家庭血圧レベルに有意差を認めた。
3) 尿中微量アルブミン量と座位収縮期血圧の相関は、診察室血圧(r=-0.140, P=0.052)、早朝座位血圧(r=0.062, P=0.390)、就寝前血圧で有意 (r=-0.068, P=0.343)ではなかった。しかしな、座位の脈拍数との相関に関しては、診察室脈拍数(r=0.039, P=0.590)や早朝脈拍数(r=0.089,P=0.215)とは有意ではなかったが、就寝前脈拍数とは弱いが有意な正相関を認めた(r=0.186, P=0.009)。そのため、尿中微量アルブミン量によって4分位に分けたところ、最低位4分位(Q1: 7.7~54.8, 平均35.0 mg/gCR)に対して最高位4分位(Q4: 126.0~412.8, 平均174.5 mg/gCR)では有意に就寝前の脈拍数が高値であった(Q1 vs. Q4: 67.0 vs. 72.9 /min, P=0.011)。
4) 大血管ステッフネスの指標である脈波伝導速度は、座位SBPにおいて、診察室、早朝ならびに就寝時共に有意に正相関していたが(p<0.05)、座位拡張期血圧(DBP)においては、有意に負に相関していた(p<0.05)。座位の脈拍数は、診察室、早朝では有意な相関はないものの、就寝前の脈拍数とは有意な相関が見られた(r=0.172, P=0.041)。反射波augmentation index(AI)は、座位SBPにおいて、診察室では有意な相関が見られるものの(r=0.228, P=0.047)、早朝や就寝前では相関はみられなかった。また、AIは座位のDBPとは相関が見られなかったが、脈拍数に関して、診察室(r=-0.579, P<0.001)、早朝(r=‐0.364, P=0.001)、就寝前(r=‐0.264, P=0.020)において有意な負の相関を認めた。
以上の成績は家庭血圧モニタリングにおいて、早朝血圧の方が就寝時血圧に比較して、より的確に高血圧性心疾患の進展を評価できることを示している。大血管障害(スティフネスの増加)は、早朝と就寝時の両血圧と関連しており、腎障害(微量アルブミン尿)はいずれの血圧とも関連していなかったことから、高血圧性臓器障害の中で、特に早朝血圧の影響は心疾患に出やすい可能性がある。
早朝高血圧の定義と臓器障害
早朝血圧が高い(早朝座位血圧>135/85mmHg)高血圧対象者230名を早朝収縮期血圧‐就寝前収縮期血圧の差(ME差)が15mmHg以上を「早朝高血圧」、15mmHg未満を「持続性高血圧」に分類した。尿中微量アルブミンは2群間で有意差はなかったが、BNPは早朝高血圧群で持続性高血圧群よりも有意に上昇していた(平均21.4 [SD range: 8.1~57] vs. 平均29.7 [12.4~72] mg/gCR, P=0.017)。この差は、年齢、性別、糖尿病の有無、高脂血症の有無、喫煙、飲酒、冠動脈疾患と脳卒中既往および早朝と就寝時収縮期血圧の平均値で補正した後も明瞭であった(20.8 vs. 30.4 mg/gCR, P=0.005)。
我々の定義した「早朝高血圧」は「持続性高血圧」に比較して、治療中高血圧患者においても、高血圧性心負荷が増大していた。この関連はME平均値とは独立していた。本成績は、我々の最近の成績で、この定義を用いた「早朝高血圧」で脳卒中イベントが「続性高血圧」に比較して3倍増大していることを示す自治医大ABPM研究Wave1の成績を裏づける。
起立性家庭血圧変動と高血圧性臓器障害
1) 診察室での起立後血圧変化(座位SBP‐立位SBP)は、家庭血圧における起立後血圧変化と弱い相関を認めた(r=0.269, P<0.001)。同様に起立後心拍数変化(座位PR‐立位PR)は、家庭早朝の起立後心拍数変化と正相関を認めた(r=0.214, P=0.001)。
2) 座位から立位へのSBP低下は、診察室および早朝においては有意な男女差はなかったが、就寝前において、男性で平均2.3mmHg低下したのに対し、女性では平均1.9mmHg上昇し有意な性差が見られた(P=0.002)。座位から立位への心拍数の変化も同様で、診察室や早朝には男女間に有意な差は見られないものの、就寝前に置いては男性に比べて女性でより心拍数が上昇する傾向が見られた(男性5.5 vs. 女性6.8 /min, P=0.057)。
3) 喫煙者における座位から立位へのSBP低下は、診察室では有意差はないものの、早朝および就寝前において非喫煙者と比べて有意に大きかった(P<0.05)。
4) 非飲酒者においては、座位から立位でSBPが、就寝前に平均1.3mmHg上昇したにも関わらず、飲酒者では平均2.3mmHg低下した(P=0.011)。早朝のSBPの変化は有意差がなかった。
5) 薬剤については、カルシウムチャンネル受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、利尿剤の使用の有無で、座位から立位でのSBPや脈拍数の変化に差はなかった。アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の使用者においては、早朝において座位から立位でSBPが2.0mmHg低下したのに対し、非内服者ではSBPが2.0mmHg上昇し、有意差が見られた(P=0.047)。
6) 一回の血圧測定セッションにおいてBNPと最もよく相関する血圧レベルは、座位1回目収縮期血圧(SBP)(r=0.281, p<0.001)と立位2回目SBP(r=0.276, p<0.001)で、安定期にある座位2回目SBPとの関連はこれらの家庭血圧値に比較して弱かった(r=0.199, p=0.005)。
我々の成績は早朝の起立ストレス負荷時の血圧レベルが高血圧性心疾患のより強い規定因子になる可能性を示唆している。家庭での起立試験と診察室での起立試験における血圧変動は弱い相関がみられたが、家庭で繰り返し測定することにより、より精度の高い「起立性血圧変動異常」の診断が可能となるであろう。
結論
治療中高血圧患者において、早朝の収縮期血圧は高血圧性心疾患と大血管障害の両方の規定因子であることが明らかになった。一方、就寝時血圧は大動脈硬化の規定因子であった。さらに、本研究において白衣効果を除外するため家庭で行った起立テストの再現性は比較的よく、早朝起立時血圧は高血圧性心疾患の進行とより密接に関連していることが明らかになった。また、早朝と就寝時血圧の平均値と差で定義した「早朝高血圧」の高血圧性心負荷リスクは増加している。高血圧診療時に家庭血圧モニタリングを用い、ME平均血圧値に加えてME差を評価し、これを低下させることが有用であろう。

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