運動・栄養による骨量減少予防効果に関する縦断的疫学研究―骨粗鬆症予防への遺伝子多型別のストラテジー(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300174A
報告書区分
総括
研究課題名
運動・栄養による骨量減少予防効果に関する縦断的疫学研究―骨粗鬆症予防への遺伝子多型別のストラテジー(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
安藤 富士子(国立長寿医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 山田芳司(三重大学生命科学研究支援センター)
  • 下方浩史(国立長寿医療センター)
  • 新野直明(国立長寿医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
16,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特定疾患に関連する遺伝子多型を見出すことは重要ではあるが、その多型を持っていても疾患を発症しない要因を見つけ出すことを同時にしていかなければ予防に結びつかない。骨粗鬆症予防のためには関連する遺伝形質を特定するとともに、運動や食事などの生活要因や環境要因の骨量減少予防効果が遺伝子多型でどのように異なるかについて検討することが重要である。
また実際に中高年者のADL、QOLに影響を与えるのは骨粗鬆症そのものよりもそれに伴う疼痛や転倒後の骨折である。骨粗鬆症性骨折予防のための転倒予防は昨今注目を浴びているが、骨折しやすい転倒の規定要因、特に骨密度と転倒との関連についての研究はいまだ十分に行われていない。
本研究は国立長寿医療センターで平成9年から2年ごとに行われている「老化に関する長期縦断疫学調査(NILS-LSA)」での約2300人規模の詳細な栄養・運動・転倒ならびに老年病関連候補遺伝子多型(SNP)のデータベースを元に中高年の骨粗鬆症予防のための総合的研究を進めることを目的としている。
研究方法
対象は、「国立長寿医療センター研究所・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査参加者2267名である。骨密度は末梢骨骨定量CT(pQCT、Scanco社、Densiscan 1000)を用いて非利き腕の橈骨遠位端骨密度(D50、D100、P100)を測定した。また二重X線吸収装置(DXA、Hologic社、QDR4500)を用いて全身骨、左右大腿骨(頸部、大転子部、ワード三角)、腰椎の骨密度を測定した。栄養調査は秤量法と写真記録法を併用した3日間の食事調査によって、食物摂取量および栄養素摂取量を推定した。運動関連要因としては握力、脚伸展パワー、脚筋力、上体起こし、体前屈、閉眼片足立時間、重心動揺、全身反応時間、10m歩行における歩行速度・歩幅・ピッチ、1週間の万歩計装着による1日平均歩数・運動量・総消費エネルギー、聞き取り調査による日常生活活動度や青年期の定期的運動の有無を検討項目とした。また自記式の調査票により、過去1年間の転倒経験の有無を調べた。
新規の遺伝子多型の測定として本年度はadiponectin遺伝子-11377C-G多型、adiponectin遺伝子G-T多型 (intron 2, SNP-276 )、 androgen receptor遺伝子CAG repeat多型、b2-adrenergic receptor遺伝子79C-G (Gln27Glu)多型、 b3-adrenergic receptor遺伝子190T-C (Trp64Arg)多型、insulin receptor substrate-1遺伝子3494G-A (Gly972Arg)多型、insulin-like growth factor 2 receptor遺伝子5002A-G (Arg1619Gly)多型、Klotho遺伝子-395G-A多型、peroxisome proliferator-activated receptor-g2遺伝子34C-G (Pro12Ala)多型、steroid 5a-reductase type II遺伝子G-C (Val89Leu)多型、Werner helicase遺伝子T-C (Cys1367Arg)多型の10遺伝子11多型について測定した。また、NILS-LSA第1次調査のデータベースからビタミンD受容体(VDR)のexon2におけるT2C多型とプロモーター領域のA-3731G多型を運動・栄養との関連を検討するのに用いた。
(倫理面への配慮)本研究は、国立中部病院における倫理委員会での研究実施の承認を受けた上で実施し、基幹施設調査の対象者全員からインフォームドコンセントを得ている。
結果と考察
平成15年度にはNILS-LSA第一次調査の結果をもとに①新たにタイピングしたSNP11種の骨密度関連候補SNPと骨密度・骨代謝マーカーとの関連を検討し、②第一次調査データを用いて骨密度・骨代謝マーカーと運動、栄養との関連を背景要因を調整して横断的に検討し、③骨密度関連遺伝子多型ごとに骨密度と栄養・運動との関係を評価した。また、④骨折しやすい転倒の規定要因としての骨密度と転倒との関連についても検討した。①検討した多型群の中で、Klotho遺伝子-395GRA多型は女性全体の橈骨遠位部・近位部および腰椎骨密度と有意な関連を示し、Gアリルが低骨密度を呈した。さらに女性を閉経前と閉経後に分けて検討した結果、閉経後女性の橈骨および腰椎骨密度と有意な関連を示した。Androgen receptor遺伝子CAG repeat多型は、男性では<21 repeatsが低骨密度と有意に関連し、特にワード三角で著明であった。閉経前女性では>24 repeatsが低骨密度と有意に関連し、全身骨、腰椎、大腿骨頸部、転子部、ワード三角で顕著であったが、閉経後女性では骨密度との関連は認められなかった。他の遺伝子多型群については骨密度と有意な関連を認めなかった。②骨密度との関連が多く認められた運動関連要因は握力、脚筋力、上体起こし、歩幅、歩行による総消費エネルギー、総余暇活動時間、4.5Mets以上の余暇活動時間、4.5Mets以上の労働時間、青年期の定期的運動(以上骨密度と正の関連)、全身反応時間(負の関連)であった。男性のほうがより多くの運動関連要因と骨密度との有意な関係を認めた。骨密度と食物摂取量との関係では男性で乳製品、野菜、果実類、女性でキノコ類、嗜好飲料類が正の相関を、卵類が骨密度と負の相関を示した。男女ともにエネルギー摂取量は骨密度と強く相関していた。男性ではカルシウム、リン、カリウム、食物繊維、ビタミン類と、女性では脂質およびビタミン類と骨密度が正相関し、女性では炭水化物摂取量が骨密度と負の相関を示した。③運動・栄養の骨密度減少予防効果をSNPに着目して検討した。男性においてT2CのCC型群は多くの運動関連要因でCT/TT型群よりも骨密度との間により強い関連を示した。女性では一定の傾向は得られなかった。A-3731G遺伝子多型別では、男性においてGA/AA型群では多くの運動関連要因でGG型群よりも骨密度との関連がより強かった。女性でも上体起こし、脚筋力、歩行による総消費エネルギー、総余暇活動時間では同様の結果が得られたが、その他の運動関連項目では、一定の傾向は必ずしも認められなかった。カルシウム摂取量の骨塩量への影響が男性ではT2CのCC型がCT/TT型よりも、A-3731G多型ではGA/AA型がGG型よりも強かった。女性ではT2C多型およびA-3731G多型の影響はほとんど認められなかった。④骨密度と転倒との関連を検討した結果60歳未満では、男女ともに、転倒した人と転倒しなかった人の骨密度には有意な差が見られなかった。60歳以上でも男性ではD50以外に転倒歴と骨密度には有意な関係はなかった。しかし、女性では、9個の骨密度測定値の中の5個の測定値において、転倒歴のある人の数値が有意に低かった。
結論
本年度検討した10遺伝子11多型のうち、Klotho遺伝子-395GRA多型が閉経後女性において、Androgen receptor遺伝子CAG repeat多型が男性および閉経前女性において骨密度と有意な関連を示した。骨密度は多くの運動関連要因やカルシウム摂取と関係しており、日常の運動や栄養が骨密度減少予防に寄与している可能性が示された。運動やカルシウム摂取と骨密度との関連は特に男性のVDR SNPのTC2のCC型ならびにA-3731GのGA/AA型で強く、これらの遺伝子多型を持った人では運動・カルシウム摂取による介入効果が上がりやすい可能性が示唆された。転倒経験の有無と骨密度との関係を検討したところ、60歳以上女性において転倒歴のある人に骨密度が低い傾向が見られ、この世代での骨密度減少予防、転倒予防が重要と考えられた。

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