文献情報
文献番号
200300172A
報告書区分
総括
研究課題名
高レムナントリポ蛋白血症に合併する虚血性心疾患および脳梗塞の予防・治療法確立のための大規模臨床研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
久木山 清貴(山梨大学)
研究分担者(所属機関)
- 北徹(京都大学)
- 松澤佑次(住友病院)
- 齊藤康(千葉大学)
- 今泉勉(久留米大学)
- 横山光宏(神戸大学)
- 多田紀夫(東京慈恵会医科大学附属柏病院)
- 田中明(関東学院大学)
- 代田浩之(順天堂大学)
- 山下静也(大阪大学)
- 池脇克則(東京慈恵会医科大学)
- 橋本洋一郎(熊本市民病院)
- 米原敏郎(済生会熊本病院)
- 比江島欣慎(山梨大学)
- 寺田信幸(山梨大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
41,574,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本邦においてはインスリン抵抗性、糖尿病またはメタボリックシンドローム罹患者が急増しており、これらに合併する動脈硬化性心血管病の発症・病態に高コレステロール血症以外の他の脂質代謝異常、特に高レムナントリポ蛋白血症が深く関わっていることが示唆されている。しかしながら、今までの報告は疫学的研究としては小規模であり、その病的意義および治療方法に関しての検討は未だ充分ではない。よって、大規模多施設臨床的治験に基づいたエビデンスを収集し、本邦における動脈硬化性心血管病のリスクとしての高脂血症パターンを特に高レムナントリポ蛋白血症を中心に解析し、これらの高脂血症に合併する心血管病に対する適正な予防・治療手段を確立することが、本研究の目的である。
研究方法
以下の3系統の計画で目的を達成する予定である。1, 血液脂質検査、特にレムナントリポ蛋白血液検査の実施状況に関する全国調査。全国の循環器内科医または内分泌代謝内科医にアンケート式で調査用紙を郵送し、回答を研究事務局まで返送してもらう。対象先は約1000施設、約2000人の医師とし、レムナントリポ蛋白血液検査のレムナントリポ蛋白血液検査の実施状況に関して調べる。2. 脳梗塞の再発における高レムナントリポ蛋白血症の関与を明らかにするための前向き追跡調査。脳梗塞の既往を有する1000例以上の症例を対象として登録し、レムナントリポ蛋白血中濃度値を含むリスクを評価した後2年間前向きに調査し脳梗塞の再発率および再発した脳梗塞の病型を調べ、高レムナントリポ蛋白血症が将来の脳梗塞再発の独立した危険因子であるかどうかを検討する。3-1. 高レムナントリポ蛋白血症に合併する虚血性心疾患の進展・再発予防に関する前向き追跡ランダム化比較試験。高レムナントリポ蛋白血症に合併する心血管病に対し、代表的な脂質低下剤であるHMGCoA還元酵素阻害剤とフィブラート剤のどちらが有効であるかに関して大規模臨床試験にて検討する。高レムナントリポ蛋白血症を有する虚血性心疾患症例を対象とし、HMGCoA還元酵素阻害剤とフィブラート剤を用いた2治療群(各群約2000例)から成り立つ前向きランダム化比較臨床試験で最低2年間追跡調査する。血清脂質値および将来の心血管イベントに対する治療効果の差を比較検討する。3-2. コレステロール以外の高レムナントリポ蛋白血症を含む脂質代謝異常の動脈硬化性心血管病における臨床的意義の解明。高コレステロール血症以外の高レムナントリポ蛋白血症を中心とする脂質代謝異常の動脈硬化性心血管病の病態との関連性を臨床的に明らかにし、それに対する治療方法を検討する。
結果と考察
1. 血液脂質検査、特にレムナントリポ蛋白血液検査の実施状況に関する全国調査。全国の日本循環器学会、日本糖尿病学会、日本動脈硬化学会の会員の中から無作為に抽出した全国約1000施設の約1920名の医師にアンケート用紙を郵送し、750名の医師から回答を収集した(回収率約39%)。解析で判明した主な点は以下のとおりである。レムナントリポ蛋白は全体の医師の32%にて計測されている。レムナントリポ蛋白が動脈硬化性心血管疾患の強いリスクであることを多くの医師(84.9%)が認識しているにもかかわらず、同検査を実施しているのはそのうちの半分以下であ
る(37%)。その理由として医療保険上のしばりや不足しているエビデンス(不明確な測定意義)などが多かった。2. 脳梗塞の再発における高レムナントリポ蛋白血症の関与を明らかにするための前向き追跡調査。平成15年度から平成17年度までの複数年の研究期間の予定で遂行中である。約300例の脳梗塞例の登録を平成15年2月末までに行い、さらに今後増やし平成16年度末までに約1000例の登録を予定している。平成15年度はその準備的な調査として、橋本および米原らは、約2000例の急性期脳梗塞症例を検討した。その結果、脳梗塞の病型の中で、高脂血症がリスクとなる可能性が高いアテローム性血栓性脳梗塞は約20%の頻度であった。半年後の転帰として要介護および死亡が対象例の約40%の頻度であった。このように脳梗塞は疾患として重度であり高齢者のQOLを著しく低下させるために、強力な予防対策を早急に確立する必要があることが判明した。3-1. 高レムナントリポ蛋白血症に合併する虚血性心疾患の進展・再発予防に関する前向き追跡ランダム化比較試験。研究計画第1年目の平成15年度はプロトコールの作成、研究参加施設の組織化、登録および追跡調査のためのホームページの開設を行い、症例登録を開始した。平成16年2月末までに全国64施設において試験参加・症例登録のための各施設内倫理委員会への申請手続きが開始され、既に症例登録が始まっている。今後さらに参加施設の拡大を進め平成16年度中に目標登録症例数を確保する。3-2. コレステロール以外の高レムナントリポ蛋白血症を含む脂質代謝異常の動脈硬化性心血管病における臨床的意義の解明。本邦においては欧米人と異なりコレステロール以外の脂質代謝異常が動脈硬化性心血管病の病態に深く関わっていること、そしてそれらに対して有用な治療手段を見出した。これらの知見は研究3-1の高レムナントリポ蛋白血症に合併する虚血性心疾患の進展・再発予防に関する前向き追跡ランダム化比較試験のプロトコールが適正であることを示しており、今回の前向き追跡ランダム化比較試験から有用な結果が得られることを裏付けた。また、レムンナントリポ蛋白血中濃度が動脈硬化促進作用を有する血中の様々な成長因子およびサイトカインの濃度と相関することが判明した。レムナントリポ蛋白は強力な動脈硬化因子であることが知られていた。1990年代に本邦で開発されたレムナント様リポ蛋白(Remnant-like lipoprotein particles; RLP)測定法は簡便で信頼性が高く、保険診療に収載され米国FDAにも承認され急速に普及した。本法を応用した検討で、高レムナントリポ蛋白血症は虚血性心疾患例の約40%に併発する高頻度の高脂血症で、虚血性心疾患発症のリスクは約5倍となることが明らかとなった。よって高コレステロール血症と比較してもその罹患率および虚血性心疾患発症のリスクは同等かそれ以上である。しかしながら、本邦における一般実地医家にとって、高レムナントリポ蛋白血症に対する認識度、レムナント関連の血液検査の実施状況および頻度は全く不明であった。今回のアンケート調査研究にて、実地医家におけるレムナントリポ蛋白血液検査の実施状況がおおよそ把握できたが、今後、他の高脂血症検査に比べて、レムナントリポ蛋白血液検査を行うことで患者にどのくらいメリットがあるのか医療費効果を含めて、検討していく必要がある。そのためには、前向き疫学的調査および介入試験を多施設が参加する大規模な研究で行い臨床的意義に関するエビデンスを蓄積することが重要である。高脂血症は脳血管障害の病態には関与しないとされていたが、我々は高レムナントリポ蛋白血症が頸動脈の不安定粥腫のリスクでありアテローム性血栓性脳梗塞の発症に関与することを報告した。今回の研究にて遂行中の脳梗塞の再発における高レムナントリポ蛋白血症の関与を明らかにするための前向き追跡調査によって、これらの仮説が調査される。しかしながら、高レムナントリポ蛋白血症に合併する動脈硬化性心血管病に対し、どの脂質低下薬が最も有用であるかに関しての大規模臨床試験に基づいたエビデンスは国内外を含めて皆無である。
現在、研究班全体として「高レムナントリポ蛋白血症に合併する虚血性心疾患の進展・再発予防に関する前向き追跡ランダム化比較試験」を実施中である。この臨床試験は、高レムナントリポ蛋白血症に対する国内外を含めて初めての介入試験である。この介入試験によって、高レムナントリポ蛋白血症を治療することで心血管病の進展・予防が可能になるのか、また治療薬としては何が最適であるかということが明らかになる。
る(37%)。その理由として医療保険上のしばりや不足しているエビデンス(不明確な測定意義)などが多かった。2. 脳梗塞の再発における高レムナントリポ蛋白血症の関与を明らかにするための前向き追跡調査。平成15年度から平成17年度までの複数年の研究期間の予定で遂行中である。約300例の脳梗塞例の登録を平成15年2月末までに行い、さらに今後増やし平成16年度末までに約1000例の登録を予定している。平成15年度はその準備的な調査として、橋本および米原らは、約2000例の急性期脳梗塞症例を検討した。その結果、脳梗塞の病型の中で、高脂血症がリスクとなる可能性が高いアテローム性血栓性脳梗塞は約20%の頻度であった。半年後の転帰として要介護および死亡が対象例の約40%の頻度であった。このように脳梗塞は疾患として重度であり高齢者のQOLを著しく低下させるために、強力な予防対策を早急に確立する必要があることが判明した。3-1. 高レムナントリポ蛋白血症に合併する虚血性心疾患の進展・再発予防に関する前向き追跡ランダム化比較試験。研究計画第1年目の平成15年度はプロトコールの作成、研究参加施設の組織化、登録および追跡調査のためのホームページの開設を行い、症例登録を開始した。平成16年2月末までに全国64施設において試験参加・症例登録のための各施設内倫理委員会への申請手続きが開始され、既に症例登録が始まっている。今後さらに参加施設の拡大を進め平成16年度中に目標登録症例数を確保する。3-2. コレステロール以外の高レムナントリポ蛋白血症を含む脂質代謝異常の動脈硬化性心血管病における臨床的意義の解明。本邦においては欧米人と異なりコレステロール以外の脂質代謝異常が動脈硬化性心血管病の病態に深く関わっていること、そしてそれらに対して有用な治療手段を見出した。これらの知見は研究3-1の高レムナントリポ蛋白血症に合併する虚血性心疾患の進展・再発予防に関する前向き追跡ランダム化比較試験のプロトコールが適正であることを示しており、今回の前向き追跡ランダム化比較試験から有用な結果が得られることを裏付けた。また、レムンナントリポ蛋白血中濃度が動脈硬化促進作用を有する血中の様々な成長因子およびサイトカインの濃度と相関することが判明した。レムナントリポ蛋白は強力な動脈硬化因子であることが知られていた。1990年代に本邦で開発されたレムナント様リポ蛋白(Remnant-like lipoprotein particles; RLP)測定法は簡便で信頼性が高く、保険診療に収載され米国FDAにも承認され急速に普及した。本法を応用した検討で、高レムナントリポ蛋白血症は虚血性心疾患例の約40%に併発する高頻度の高脂血症で、虚血性心疾患発症のリスクは約5倍となることが明らかとなった。よって高コレステロール血症と比較してもその罹患率および虚血性心疾患発症のリスクは同等かそれ以上である。しかしながら、本邦における一般実地医家にとって、高レムナントリポ蛋白血症に対する認識度、レムナント関連の血液検査の実施状況および頻度は全く不明であった。今回のアンケート調査研究にて、実地医家におけるレムナントリポ蛋白血液検査の実施状況がおおよそ把握できたが、今後、他の高脂血症検査に比べて、レムナントリポ蛋白血液検査を行うことで患者にどのくらいメリットがあるのか医療費効果を含めて、検討していく必要がある。そのためには、前向き疫学的調査および介入試験を多施設が参加する大規模な研究で行い臨床的意義に関するエビデンスを蓄積することが重要である。高脂血症は脳血管障害の病態には関与しないとされていたが、我々は高レムナントリポ蛋白血症が頸動脈の不安定粥腫のリスクでありアテローム性血栓性脳梗塞の発症に関与することを報告した。今回の研究にて遂行中の脳梗塞の再発における高レムナントリポ蛋白血症の関与を明らかにするための前向き追跡調査によって、これらの仮説が調査される。しかしながら、高レムナントリポ蛋白血症に合併する動脈硬化性心血管病に対し、どの脂質低下薬が最も有用であるかに関しての大規模臨床試験に基づいたエビデンスは国内外を含めて皆無である。
現在、研究班全体として「高レムナントリポ蛋白血症に合併する虚血性心疾患の進展・再発予防に関する前向き追跡ランダム化比較試験」を実施中である。この臨床試験は、高レムナントリポ蛋白血症に対する国内外を含めて初めての介入試験である。この介入試験によって、高レムナントリポ蛋白血症を治療することで心血管病の進展・予防が可能になるのか、また治療薬としては何が最適であるかということが明らかになる。
結論
研究計画第1年目の平成15年度は、1つのアンケートによる疫学調査を終了し、3ヵ年計画の2つの大規模臨床試験を立ち上げ遂行中である。今回の研究にて、高レムナントリポ蛋白血症の虚血性心疾患および脳梗塞における臨床的意義および適切な治療方法が明らかになるとともに、これらの動脈硬化性血管病の予防・治療に関するガイドラインの作成時に必要なエビデンスとなる。高レムナントリポ蛋白血症の検査・治療のアンケートによる実態調査の結果は、ガイドライン作成時の重要なデータベースとなる。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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