蛋白質のフォールディング異常に着目した、分子シャペロンによる神経変性疾患の根本的治療法の開発

文献情報

文献番号
200300167A
報告書区分
総括
研究課題名
蛋白質のフォールディング異常に着目した、分子シャペロンによる神経変性疾患の根本的治療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
水島 徹(岡山大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
6,760,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病などの神経変性疾患の根本的な原因は、蛋白質のフォールディング(高次構造・折り畳み構造)異常である。そこで神経変性疾患を根本的に治療するためには、異常なフォールディングの蛋白質を正常へ戻すことが必要である。分子シャペロンは細胞内で蛋白質が正しいフォールディングをとるのを助けている一群の蛋白質であり、ストレスによってフォールディングが異常になってしまった蛋白質を正常に戻すことが出来る。そこで我々は、分子シャペロンを利用した神経変性疾患の根本的治療法を確立するための研究を提案する。本研究ではまず、分子シャペロンを利用した神経変性疾患の治療法を確立するために必要な研究基盤・研究材料(分子シャペロンのノックアウトマウス、毒性のない分子シャペロン誘導剤など)を整備する。次に、個々の神経変性疾患の研究者と共同で、整備した研究基盤・研究材料を使って、個々の神経変性疾患の治療法を開発する。
研究方法
ゲラニルゲラニルアセトン(GGA)が毒性を示さないのに分子シャペロンを誘導するということは、未だ解明されていない分子シャペロン誘導経路のいずれかの段階にGGAが作用していることを示唆している。従ってGGAが分子シャペロンを誘導するメカニズムを検討した。具体的には、放射標識したGGAを用いて、まずGGA結合蛋白質の検索系を確立した。次に、ヒト細胞粗抽出液中に、GGA結合蛋白質を発見したので、複数のカラムクロマトグラフィーを用いて、その結合蛋白質を精製した。漢方医薬研究振興財団から生薬成分、漢方薬などを供与して頂き、毒性のないシャペロン誘導剤のスクリーニングを行った。具体的には、HSP70,HSP90と結合する物質を検索した。一方、現在使用されている様々な医薬品の中から、分子シャペロンを誘導するものを検索した。
結果と考察
我々はヒト胃粘膜細胞の粗抽出液中にGGAと結合する因子を発見した。そこでこの因子を、イオン交換、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを用いて精製し、そのアミノ酸配列を決定したところ、HSP70、及びHSP90であった。HSP70、及びHSP90は、分子シャペロン誘導に主要な役割を果たしている転写因子HSF1に結合し、それを不活性化することが知られている。そこでGGAは、これら不活性化因子(HSP70、及びHSP90)に結合し阻害することにより、HSF1を活性化し、その結果分子シャペロンを誘導していると考えられる。次に我々は、生薬成分、漢方薬などから、HSP70,HSP90と結合する物質を検索した。その結果、ウワウルシから、HSP90と結合する物質を発見した(構造未決定)。さらにこの物質が毒性を示さない濃度で、分子シャペロン(HSP70)を誘導することを見出した。この物質は本研究の目的である、毒性のない分子シャペロンの候補物質である。一方、現在使用されている様々な医薬品の中から、分子シャペロンを誘導するものを検索したところ、非ステロイド系抗炎症薬が小胞体ストレスシャペロン(GRP78など)を誘導することを見出した。小胞体ストレスシャペロンの誘導には、ATF6, IRE1, PARKという3種の小胞体膜上に存在する受容体が関与することが知られているが、我々はこれらの全てが非ステロイド系抗炎症薬によって活性化されていることを示し、非ステロイド系抗炎症薬による小胞体ストレスシャペロン誘導機構を明らかにした。非ステロイド系抗炎症薬は、抗炎症作用以外にも、抗アルツハイマー病作用が知られているが、そのメカニズムはよく分かっていない。一方GRP78などの小胞体ストレスシャペロンは、アルツハイマー病の原因であるβアミロイドの凝集を防ぐことが知られている。そこで我々は、非ステロイド系抗炎症薬による小胞体ストレス
シャペロン誘導により、非ステロイド系抗炎症薬の抗アルツハイマー病作用が説明出来るのではないかと考えている。
結論
上述のように、研究は順調に進んでおり、1年後には、研究目的(毒性のない分子シャペロン誘導剤の発見)を達成できる。

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研究報告書(紙媒体)

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