老人骨折の発生・治療・予後に関する全国調査(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300164A
報告書区分
総括
研究課題名
老人骨折の発生・治療・予後に関する全国調査(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
萩野 浩(日本整形外科学会,鳥取大学)
研究分担者(所属機関)
  • 阪本桂造(昭和大学)
  • 中村利孝(産業医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
4,225,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者人口の増加に伴って、わが国では骨粗鬆症と骨粗鬆症関連骨折患者数が急増している。骨粗鬆症関連骨折のうちでも大腿骨頚部骨折を初めとする四肢骨折は、患者の日常生活動作(ADL)を著しく制限し、生活の質(QOL)を低下せしめる。また同時に手術的治療や長期間のリハビリテーションが必要となる。しかしながらこれまでこれらの骨折発生の実態や、治療状況について、十分な情報が得られていない。老人四肢骨折の発生状況や、年齢階級別発生率が明らかとされれば、今後わが国で発生する骨粗鬆症関連骨折の発生数予測が可能となる。また骨折治療状況やその費用が判明すれば、現時点から将来にわたっての、わが国における骨粗鬆症関連骨折治療費の概算が可能となる。そこで本研究では大腿骨頚部骨折に関して全国の発生頻度(性別・年齢別)、受傷原因の詳細、治療法の選択、入院期間、機能予後、生命予後を明らかとすることを目的とした。
研究方法
[大腿骨頚部骨折の発生状況および治療状況に関する全国調査]1.調査対象施設:日本整形外科学会より認定された研修施設2,276 および臨床整形外科有床診療所1,466の3,742施設を調査対象とした。2.調査期間および対象骨折:対象の医療機関を受診した患者の中で、平成14年1月1日~12月31日に受傷した大腿骨頚部骨折(大腿骨近位端骨折)の患者を解析対象とした。3.調査項目:調査対象施設に対して、調査用紙を郵送し、全骨折について調査・記載を依頼した。登録された症例は、イニシャル、性別、生年月日、骨折日の情報から、重複登録症例をコンピュータ処理によって削除した。[大腿骨頚部骨折の機能および生命予後に関する研究-全国整形外科施設における前向き研究-]1.調査施設:大腿骨頸部骨折治療を多数行っている施設を全国から158施設選定した。これらの施設において平成13年に発生した大腿骨頚部骨折を対象に、調査を依頼した。2.調査項目:調査は、受傷時の状況(原因、場所、生活など)、治療法(手術術式)、退院先、合併症、骨折の既往などに加えて介護保険のADL判定基準に準じたADL自立度を術前と術後1年で評価した。
結果と考察
[大腿骨頚部骨折の発生状況および治療状況に関する全国調査]【回収率】:日整会認定研修施設では2、276施設中1,252施設(55.0%)から調査票が返送された。また臨床整形外科医会有床診療所1,466施設のうち752施設(51.3%)から調査票が返送された。患者数:認定研修施設より45,133例、臨床整形外科診療所より2,509例、合計47,642例の登録があった。このうち35歳以上の症例は認定研修施設が43,670例、臨床整形外科診療所が2,481例の計46,151例であった。生年月日およびイニシャルに基づいて重複症例547例が削除され、最終的に35歳以上の45,604例が登録された。性別は男性9,547例、女性35,840例(性別記載なし217例)であった。受傷側は右が22,185例、左が23,144例(受傷側記載なし275例)、左右両側骨折例477例であった。【性・年齢階級別発生頻度】性・年齢階級別の患者数では、男性は80-84歳が1,611例と最も多く、次いで75-79歳が1,591例で多かった。女性では85-89歳が8,312例と多く、次いで80-84歳が8,165例と多くを占めていた。【骨折型別および受傷月別患者数】骨折型別では内側骨折が19,959例、外側骨折が25,261例(骨折型不明384例)であった。年齢階級別の患者数は、内側骨折では80-84歳でピークとなっているのに対し、外側骨折は85-89歳で最も患者数が多かった。内側骨折は70歳代前半までは外側骨折患者よりも多いが、70歳代後半からは外側骨折の方が多くなり、高齢になると外側骨折が多くを占めるようになっていた。受傷月別の患者数では1月が4,175例と最
も多く,次いで10月が4,055で多かった。【受傷の場所・原因】受傷の場所は屋内での受傷が30,925例、屋外が12,245例(不明2,434例)と屋内での受傷が約7割以上を占めていた。前期高齢者(65歳以上75歳未満)では59.6%、後期高齢者(75歳以上)では77.2%が屋内受傷で、さらに90歳以上の超高齢者では86.0%が屋内での受傷例であった。男性に比較して女性で屋内受傷が多かった。受傷の原因は立った高さからの転倒が34,071例と最も多くを占めた。前期高齢者と後期高齢者を比較すると、前者では70.1%、後者では80.2%が軽微な外傷(立った高さからの転倒)が受傷原因となっていた。また90歳以上の超高齢者ではさらに多くの症例が軽微な外傷を原因としていた。介護時に発生するおむつ骨折は、全症例中97例(0.2%)に認められた。【治療法選択と入院期間】観血的治療は全体に93.7%で観血的治療が行われていた。骨折型別では、内側骨折で93.0%、外側骨折で94.2%に手術が行われていた。内側骨折では人工骨頭置換術が69.6%に、骨接合術が29.7%に施行されていた。外側骨折では全症例の94.2%で骨接合術が選択されていた。転院後の症例や再手術症例を除くため、骨折後から入院までの期間が20日以下の症例のみについて入院日数を計算した。その結果、入院期間は1~364日(平均50.5)であった。骨折型別では内側骨折が50.2日、外側骨折が50.6日で、両骨折型の間で入院期間に差はなかった。内側骨折について、手術法別に入院期間を比較すると、保存的治療群が39.1日、人工骨頭置換群が51.0日、骨接合群が51.1日で、保存療法群の入院期間が短かった。年齢群別に入院期間を比較すると、90歳未満が平均50.9日であるのに対して、90歳以上では47.8日で、90歳未満群の入院期間が長かった。【経年的推移】日本整形外科学会でこれまで行ってきた調査結果の経年推移を検討した。登録症例数あ平成10年の35,333例が平成14年には64,151例と増加していた。骨折型の割合(内側骨折/外側骨折)は平成10年0.78が平成14年0.79と内側骨折が外側骨折に比較して少ないが、その割合には変化がなかった。受傷側は左が右より調査期間を通じて多かった。平均入院日数は平成10年が54.8日、11年58.5日、12年55.9日、13年53.4日、14年50.5日であった。このうち平成10年は調査を上半期・下半期に分けて行ったため、他の調査年と入院期間を直接比較が出来ない。したがって、平成11年から平成14年まで経年的に入院期間が短縮していると考えられる。[大腿骨頚部骨折の機能および生命予後に関する研究-全国整形外科施設における前向き研究-]【登録症例】定点観測指定病院158施設に調査票を送り、75施設(47.5%)から回答が得られた。平成13年発症例は4,341例、このうち男性912例、女性3,381例(性別不明48例)であった。平均年齢は80.0歳、平均身長150.4cm、平均体重46.2kgであった。年齢階級別患者数は85-89歳が最多であった。骨折型別では内側骨折が1,847例、外側骨折が2,322例(不明172例)であった。骨折側は左右ほぼ同じで、3/4の症例が転位型であった。術前合併症は高血圧が5.8%、痴呆症が3.9%に認められた。骨折既往は21.5%に認めた。【受傷状況】受傷原因は立った高さからの転倒が74.6%で最多を占めた。骨折時の暮らしでは同居が87.0%で一人暮らしは10.6%であった。受傷場所は自宅が47.3%、施設が26.1%であった。施設の中では一般病院が8.2%と最も多かった。また屋内での受傷が66.6%を占めていた。【治療状況】治療法の選択は不明を除いて手術が95.0%で選択され、保存的治療は5.0%で行われていた。手術法の内訳ではコンプレッションヒップスクリュー(CHS)が最も多く用いられ、次いで人工骨頭が多かった。【退院後の状況】退院先は、48.3%が自宅へ帰り、42.7%が施設入所となっていた。退院時転帰調査では、84.2%が軽快、3.3%が不変、2.9%が死亡であった。【骨折前後のADL自立度の状況】骨折前のADLは「交通機関等を利用して外出する」が29.0%、「隣近所へなら外出する」が23.8%、「介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活する」が16.1%、「外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたり」が17.4%、「車い
すに移動し食事・排泄はベッドから離れて行う」が6.5%、「介助で車いす移動」が4.8%であった。骨折1年後の自立度は「交通機関等を利用して外出する」が15.9%、「隣近所へなら外出する」が13.7%、「介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活する」が11.8%、「外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたり」が9.2%、「車いすに移動し食事・排泄はベッドから離れて行う」が7.3%、「介助で車いす移動」が8.3%であった。【生命予後】1年後時点での死亡例は不明を除けば11.4%であった。受傷時年齢ごとの術後1年生存率は90歳未満では80%以上であるが、90歳以上では低値となっていた。
結論

公開日・更新日

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