文献情報
文献番号
200300163A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者高血圧における降圧利尿薬の適正使用のための無作為化臨床試験(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
植田 真一郎(琉球大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 瀧下修一(琉球大学医学部)
- 浦江明憲(医療法人相生会)
- 島本和明(札幌医科大学)
- 楽木宏実(大阪大学大学院医学系研究科)
- 檜垣實男(愛媛大学医学部)
- 福井次矢(京都大学大学院医学研究科)
- 島袋充生(琉球大学医学部付属病院)
- 河野雄平(国立循環器センター)
- 松岡秀洋(久留米大学医学部)
- 東幸仁(広島大学大学院医歯薬学総合研究科)
- 津谷喜一郎(東京大学大学院薬学系研究科)
- 安成憲一(大阪市立大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
22,815,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
降圧利尿薬はこれまでの数々の臨床試験により、高齢者高血圧患者の心血管リスクを減少させうることが証明されている。高用量では糖代謝の悪化を来すことが知られているが、現在使用されている低用量ではそのような副作用の発現は多くないことが報告されている。実際高齢者高血圧患者を対象に比較的低用量の降圧利尿薬とプラセボの比較をおこなったSHEP研究では糖尿病の発生に有意差を認めていない。しかし、本邦ではやはり副作用への懸念から、また媒体による宣伝がないこと等から降圧利尿薬の使用は減少している。これまでのエビデンスからは、塩分摂取量を考慮すると日本人高齢高血圧患者の心血管リスク減少に低用量の降圧利尿薬の併用は貢献すると考えられる。しかし、糖尿病の出現は心血管リスクを著しく増加させることや、また欧米人と比較して日本人の糖尿病の易発症性が示唆されることを考えると、安全に使用されるためには日本人において低用量降圧利尿薬投与下の糖尿病の発生を検討することが必要である。さらに降圧利尿薬は安価であり、現在危機に瀕している本邦の医療経済を考慮すると積極的に使用すべきである。しかし、薬剤経済学的分析は薬剤コストのみでは評価できない。基本的には、薬剤以外の直接コストや有害事象発生に伴う費用、労働生産性損失などを含めて算出されるべきである。このような観点から、糖尿病を合併していない日本人の高齢本態性高血圧患者を対象に、少量降圧利尿薬を使用した降圧療法と使用しない降圧療法を比較すると新たな糖尿病の発生が同等であることを検証する。また、副次的に痛風、治療抵抗性の低カリウム血症、心血管系イベント、全死亡の発生、臨床評価項目(降圧効果、耐糖能、脂質代謝、インスリン感受性(HOMA指数)脈波伝導速度(PWV))における比較と費用対効果の検討も行なう。
研究方法
1.エンドポイントPrimary endpoint新たな糖尿病の発生Secondary endpoint 1)下記イベントの発生痛風、治療抵抗性の低カリウム血症、心血管系イベント、全死亡2)下記の臨床評価降圧効果、耐糖能、脂質代謝、インスリン感受性(HOMA指数)脈波伝導速度(PWV)3)費用対効果の評価2.研究デザイン降圧利尿薬使用群、降圧利尿薬非使用群の非盲検無作為化群間比較試験。ランダム化は行なうがプラセボは用いず、イベントの判定は割付治療をマスクして独立した委員会が行なう。割付は、BMI 、糖尿病家族歴、空腹時血糖値および地域を層とした層化割付とする。3.対象患者選択基準(未治療の場合、収縮期血圧150mmHg以上または拡張期血圧90mmHg 以上。降圧薬服用中の場合、140mmHg以上または90mmHg 以上)を満たし、除外基準に抵触しない糖尿病、痛風を合併していない65才以上80歳未満の通院中の本態性高血圧患者。4.介入内容降圧利尿薬使用群は降圧利尿薬(トリクロルメサイアザイドまたはインダパミドで1mg/日に相当)から開始し、降圧不十分な場合、他の降圧薬を併用。降圧利尿薬は担当医師の判断で減量も可能。降圧利尿薬非使用群は降圧利尿薬(カリウム保持性利尿薬を含む)以外いかなる降圧薬も使用可能。降圧目標は年齢に関わらず、収縮期血圧140mmHg未満かつ拡張期血圧90mmHg未満とする。5.経済評価経
済評価としては、降圧利尿薬使用群と降圧利尿薬非使用群とを比較する費用効果分析を行なう。薬物費用を主とし、医療にかかる直接費用を患者負担を含めて算出する。糖尿病やその他の有害事象に係る費用も含まれる。本研究では2群の糖尿病発症率が同等であることが立証された後、費用最小化分析を行なう。基本的に調査票に記載された情報を基にコストデータを算出する。一方、可能な施設からレセプトのコピーを入手し、経済評価小委員会にて診療モデルを作成し解析に用いる。降圧利尿薬使用群と降圧利尿薬非使用群の糖尿病発症率が同等であるという仮説が棄却された場合には、費用最小化分析を実施せず、費用効果分析によって増分費用効果比の算出を行なう。6.予定症例数設定とその根拠本研究では比較的デザインの類似している研究結果を参考に、糖尿病の発症率を降圧利尿薬使用群において4年間で7%、降圧利尿薬非使用群において4年間で4%と見積った。両治療群間の糖尿病発症率の差が4年間で3%以内(平均5.5%)であれば、同等であると考え、両側α=5%、β=10%、Δ=3%として計算した結果、解析に必要な症例数は1群955例となる。20%の脱落を考慮して1群で1194例が必要になる。7.評価項目やサブスタデイに関する検討pulse wave velocity(PWV)の測定,血管内皮機能の測定、高血圧関連遺伝子の検討、高齢者高血圧の臓器合併症の評価などについて検討、予備実験をおこなった。8.倫理面への配慮本試験に関係するすべての研究者はヘルシンキ宣言(エジンバラ改訂 第6版 2000年)および臨床研究に関する倫理指針(平成15年7月16日 厚生労働省告示第255号)を遵守して本試験を実施する。
済評価としては、降圧利尿薬使用群と降圧利尿薬非使用群とを比較する費用効果分析を行なう。薬物費用を主とし、医療にかかる直接費用を患者負担を含めて算出する。糖尿病やその他の有害事象に係る費用も含まれる。本研究では2群の糖尿病発症率が同等であることが立証された後、費用最小化分析を行なう。基本的に調査票に記載された情報を基にコストデータを算出する。一方、可能な施設からレセプトのコピーを入手し、経済評価小委員会にて診療モデルを作成し解析に用いる。降圧利尿薬使用群と降圧利尿薬非使用群の糖尿病発症率が同等であるという仮説が棄却された場合には、費用最小化分析を実施せず、費用効果分析によって増分費用効果比の算出を行なう。6.予定症例数設定とその根拠本研究では比較的デザインの類似している研究結果を参考に、糖尿病の発症率を降圧利尿薬使用群において4年間で7%、降圧利尿薬非使用群において4年間で4%と見積った。両治療群間の糖尿病発症率の差が4年間で3%以内(平均5.5%)であれば、同等であると考え、両側α=5%、β=10%、Δ=3%として計算した結果、解析に必要な症例数は1群955例となる。20%の脱落を考慮して1群で1194例が必要になる。7.評価項目やサブスタデイに関する検討pulse wave velocity(PWV)の測定,血管内皮機能の測定、高血圧関連遺伝子の検討、高齢者高血圧の臓器合併症の評価などについて検討、予備実験をおこなった。8.倫理面への配慮本試験に関係するすべての研究者はヘルシンキ宣言(エジンバラ改訂 第6版 2000年)および臨床研究に関する倫理指針(平成15年7月16日 厚生労働省告示第255号)を遵守して本試験を実施する。
結果と考察
1.研究計画書および調査票の完成研究計画書は主に懸案であった1)同等性試験としての症例数設定, 2)各エンドポイントの臨床評価(診断基準)3)勃起障害をエンドポイントとするか?4)高尿酸血症や低カリウム血症の取り扱い5)経済評価の具体的な手法6)同意説明文書の見直し 7)解析計画などについて検討し、また後述する独立モニタリング委員会の勧告を受け入れ、改訂した。研究計画書は昨年2月11日のversion1.0を作成したが、今年度の改訂作業により、本年2月6日発行のversion3.0となった。調査票も研究計画書の改訂に伴い、整合性を確認しながら改訂された。特に症例登録票に関しては模擬登録の結果を参考にしながらデザインの改訂等も行った。2.独立モニタリング委員会の開催と試験の承認本研究計画、同意文書、調査票は科学的、倫理的に妥当であるとして承認された。3.登録センターの開設京都大学大学院医学研究科臨床疫学講座内にClinical Research Supporting Unit (CRSU)を開設した。また登録センターにおいて使用される、施設登録および症例登録入力ソフトが開発された。4.研究拠点の設置と臨床試験ネットワークの構築、CRC教育本部事務局を琉球大学大学院医学研究科薬物作用制御学に、モニターやCRC派遣の拠点として大阪にもリサーチアシスタント1名が常駐する試験事務局を設置した。また地域におけるCRC教育、臨床試験ネットワーク構築がすすめられている。5.各地域でのキックオフミーティングの開催各施設へ研究計画、登録、調査票記入などの説明をおこなった。考察エンドポイントの設定は糖尿病発生が心血管リスクを著しく増加させ、もし降圧薬がその糖尿病発生リスクを高めるとすれ降圧によるリスク減少を相殺してしまうこと、厚生労働省の調査でも年々増加しており、日本人の易糖尿病発症性が環境、遺伝双方から強く示唆されることから妥当であると思われる。試験デザインに関しては、厳密な客観性を確保するにはプラセボ使用による二重盲検法を採用すべきであるが、今回はPROBE方式とした。プラセボを使用しないことにより降圧利尿薬の選択は自由になり、試験の実現性が高められる。本研究は降圧利尿薬を含めた降圧治療と含まない降圧治療を現在の臨床現場に近い形で評価することが目的であるため、二次薬は主治医の判断で利尿薬以外のいかなる薬剤も処方可能とした。従って本試験はまた降圧利尿薬と何を併用することが最善であるか?と言う問いには直接答えうるものでは
ないが、後ろ向き解析からある程度の解答は得られる。本研究は所謂心血管イベントを一次エンドポイントに設定していないため、心血管リスクを評価するには適切な代替エンドポイントが必要である。そのため血管内皮機能やPWVの評価項目としての妥当性に関して検討が重ねられた。予備研究の結果から血管内皮機能やPWVのような代替エンドポイントを使用することにより、心血管リスクをある程度推定することが可能であると考えられる。高血圧のようなcommon diseaseの患者で臨床試験を実施するには基幹病院と地域の診療機関とのネットワーク構築が必要になる。ネットワークを通じて多くの患者の登録が可能になり、またイベント発生時の患者のケア、その後のフォローアップが可能になる。さらに基幹施設でCRCやリサーチナースの教育を行い、診療機関に派遣することなども臨床試験のデータの質の保証に重要である。
ないが、後ろ向き解析からある程度の解答は得られる。本研究は所謂心血管イベントを一次エンドポイントに設定していないため、心血管リスクを評価するには適切な代替エンドポイントが必要である。そのため血管内皮機能やPWVの評価項目としての妥当性に関して検討が重ねられた。予備研究の結果から血管内皮機能やPWVのような代替エンドポイントを使用することにより、心血管リスクをある程度推定することが可能であると考えられる。高血圧のようなcommon diseaseの患者で臨床試験を実施するには基幹病院と地域の診療機関とのネットワーク構築が必要になる。ネットワークを通じて多くの患者の登録が可能になり、またイベント発生時の患者のケア、その後のフォローアップが可能になる。さらに基幹施設でCRCやリサーチナースの教育を行い、診療機関に派遣することなども臨床試験のデータの質の保証に重要である。
結論
本試験は降圧利尿薬を含む降圧治療と含まない降圧治療が、新規糖尿病の発生において同等であるという仮説の検証である。本試験におけるエンドポイント設定、治療プロトコル、試験デザイン、経済評価のためのプロトコルは倫理的,科学的にも妥当であると考えられる.構築されつつある研究拠点およびネットワーク、CRCなどスタッフの教育も本試験の実施に貢献するものと考えられる。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-