紛争後の復興開発と平和構築に対する保健医療活動の役割(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300136A
報告書区分
総括
研究課題名
紛争後の復興開発と平和構築に対する保健医療活動の役割(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
青山 温子(名古屋大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 喜多 悦子日本赤十字九州国際看護大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究全体の目的は、地域紛争後の開発途上国で実施されている保健医療分野の援助活動を平和構築の観点から分析・評価して、復興開発と平和構築支援として効果的な保健医療活動モデルを提案することである。平成15年度(第2年度)は、主に、カンボディアを対象として、これまでに実施された保健医療活動が復興開発にはたした役割と問題点を調査し、今後の方向性と他の紛争後国への応用可能性について検討することを目的とした。加えて、中東、アフリカ、アジアの紛争後地域と紛争後類似状況にある国についても検討した。
研究方法
(1) 海外調査
①カンボディア: 2003年11月、カンボディアを訪問、首都プノンペン、コンポンチャム県、カンダール県、タケオ県にて、政府保健省、国際機関、NGO等の活動現場を訪問、保健医療活動の状況などについて調査し、資料を入手した。
②米国: 2004年1月、米国のボストン、ワシントンを訪問、ハーバード大学、Management Sciences for Health (MSH)、世界銀行の専門家から情報収集し、パレスティナの専門家とビデオカンファランスにより直接討論した。また、日本人開発専門家を対象に講演し平和構築に関して意見交換した。
③その他: 学術振興会科学研究費などにより、ケニア、アンゴラ、ミャンマーを訪問した。 ケニアでは、コンゴ民主共和国(DRC)の研究協力者と同国の状況を検討、国際機関やNGOから情報を収集し、難民キャンプ (カクマ・ダダブ) を実地調査した。アンゴラでは首都ルアンダの状況、ミャンマーでは、国境地域少数民族自治区コーカン地区などを調査した。
(2) シンポジウム
2004年2月9日、日本赤十字九州国際看護大学において、シンポジウム「保健医療分野における国連の役割」、及び討論会「紛争時・紛争後復興における保健医療の役割」を開催した。
(3) 文献・資料調査
カンボディアの保健医療の全体的状況、社会背景と歴史的経緯等を分析するために、日本国内及び現地で、政府機関・国際機関・NGO等の資料や研究論文などを収集した。サブサハラアフリカや中東についても、資料を収集した。
(4) 研究協力
紛争後地域の保健医療に関する国際的専門家、国内の関連領域専門家、国際機関関係者から研究協力を得た。カンボディアの現地専門家からも、現地情報などに関する研究協力を得た。
結果と考察
(1) カンボディア
カンボディアでは、1970年代末のポルポト政権時代に、それまでの保健医療システムが完全に崩壊し、医師など知識人をはじめ多くの人々が虐殺され、保健医療を担う人材の大部分が失われた。
[緊急期] 1980年代は、国内の一部で紛争が続いており国際社会からは孤立していた。保健医療施設・従事者の圧倒的不足状態に対処するために、質的に充実させる余裕のないままに、量的増加が図られた。[復興期] 1990年代になって、国際社会からの本格的援助が始まった。保健医療施設の再建や人材養成が実施され、保健医療システムの復旧復興が進められた。
[再編期] 1996年に医療費有料化、保健医療施設の再編、地方分権などを含む保健医療計画 が制定され、保健医療システム再編が始められた。復興期から長期開発期に移行する中で、持続可能なシステムを形成する動きと考えられ、2003年には新しい保健医療5ヵ年戦略が策定された。しかし、組織・人材・財政基盤はなお脆弱であり、一定の保健医療システムが確立して機能するに至っていない中で改革を進めることになったため、多くの問題点に直面している。
首都と地方の格差は大きく、地方は人材も設備も不十分な場合が多い。郡保健部の管理能力を強化したり、地域住民がヘルスセンター運営に参画したりするなど、新しいシステムを活かす努力がなされていた。現地NGOによるスラム地域でのHIV感染者支援活動や、村や工場などでのHIV予防教育活動によって、相互扶助のグループが作られ、人々をエンパワーメントする効果がみられた。
(2) その他の国・地域
ケニアのカクマ・キャンプは、10年以上滞在しているスーダン難民を中心としている。国際NGOが保健医療を担当し、周辺地域住民にも医療サービスを供給している。ダダブ・キャンプは、ほとんどが長期間滞在しているソマリア難民である。緊急人道援助の域をこえない援助がされており、難民たちは旧来の生活様式を維持して生活している。周辺地域社会からは隔絶され、移動の自由はない。近年、成人教育の一環として平和教育が実施され、女性も積極的にグループ討論に参加しているとのことである。
DRCの内戦は終結しつつあるが、東部等で武装集団が依然として活動している。年齢・部族等に関わりなく、女性に対する残虐な性的・身体的暴力が極めて多いが、実態は十分把握されていない。
アンゴラでは、長年のComplex Humanitarian Emergency (CHE) が一応終息、首都ルアンダでは武力統制も行われていない。しかし、首都圏外では著しく治安が悪く、紛争後といえる状況には達していない。
パレスティナでは、2000年の紛争再燃以来、状況は悪化し続けている。頻繁な交通封鎖により、援助関係者を含めて移動が困難になっており、保健医療情報システムに使用する保健省のコンピューター施設なども破壊された。西岸地区に建設中の境界壁に囲まれた地域では、住民の健康被害も認められている。
ミャンマーは、度重なる経済制裁下にあり、紛争後と類似した状況にある。国境地帯少数民族は、避難することも許されず、隠された人道の危機 (Hidden Humanitarian Emergency) の状態にある。国内紛争のリスクにもなっている多数の少数民族を含めての民主化問題を、少数民族に対する「人間の安全保障」の観点から対策を講じるべきである。住民のエンパワーメント、社会の信頼関係創成、価値観・アイデンティティーの創出、アクセスの公平性といった要因に取り組み、自治区の統治体制確立、市民社会の育成、中央政府による社会的弱者への保護体制の整備を進める必要がある。
(3) シンポジウム
シンポジウム「保健医療分野における国連の役割」には、HABITAT、世界食糧計画 (WFP)、国連児童基金 (UNICEF)、国連開発計画/国連ボランティア(UNDP/UNV)、国連人口基金 (UNFPA)から講演者を招聘した。大学、赤十字及びNGO関係者ら約400名が参加し、紛争後地域での国連機関や保健医療関係者の役割について議論した。
考察=カンボディアは、紛争終結後10年以上にわたり、若干の曲折はあるものの一貫して復興開発の途を進んでいる世界でも稀な存在である。カンボディアの経験は、背景要因は異なっているとはいえ、他の紛争後国の参考になると考えられる。人材育成は重点課題であり、緊急期の量的増加から、復興期には質的向上が図られた。復興早期から、一定数の指導層となる人材を、意識的に育成する必要があると考えられる。人材養成研修は、保健医療という共通の関心事を基軸にすることによって、抽象的な平和教育よりも、具体的に対話と和解の手がかりを得ることができる。ヘルスワーカーの活動や、地域住民のヘルスセンター運営への参画のように、保健医療を手がかりにして、地域社会の繋がりを強化することができる。都市スラム地域などでも、保健医療活動を通じてグループとして相互扶助し、エンパワーメントすることが可能である。
紛争後地域の精神保健問題として、心的外傷後ストレス障害 (Post traumatic stress disorders) があげられる。抑欝状態が持続する人々も多く、放置されると、復興開発を遅らせ和解と平和構築の妨げとなる。
一次医療には精神保健を組み込んで適切に加療する必要があるし、伝統的医療や、NGO、地域のヘルスワーカーなども、精神的ケアに貢献できる。
また、復興早期から、長期開発への速やかな移行を見据えた戦略を策定することが重要で、保健政策にも平和構築の視点を入れて、公正、民主化、格差縮小を進めるよう留意することが必要である。
結論
紛争後地域や難民に対する支援は、緊急人道援助から、復興・平和構築、さらに長期的開発援助へと速やかに移行していくことが重要である。そのためには、指導層となる人材を意識的に早期から育成すること、将来的に持続可能な制度を可能な限り早期から導入することが必要であると考えられる。保健医療分野の政策策定においても、緊急時の人道的ニーズを満たすと同時に、民主化を促進し格差を縮小し長期的に持続可能な戦略を立案するべきである。
保健医療分野の人材養成研修は、和解を促進し相互の信頼関係を再構築する具体的ツールと成り得る。地域社会の再構築には、地域住民の保健医療活動への参画が有用である。なお、紛争後地域の人々は精神的外傷を負っており、一次医療に精神保健を効果的に組み込んでいく必要がある。
日本は、軍事力による統治や抑圧ではなく、人々の主体的な能力向上を図り地域社会再建を進めることによる復興開発と平和構築を支援する可能性をもっていると考えられる。

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