WHO保健システム評価手法の妥当性及びその活用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300135A
報告書区分
総括
研究課題名
WHO保健システム評価手法の妥当性及びその活用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤敏彦(北里大学)
  • 平尾智弘(香川大学)
  • 坂巻弘之(財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構)
  • 近藤正英(筑波大学)
  • 松本邦愛(国立保健医療科学院)
  • 池田奈由(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,326,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
WHOによる保健医療システム評価に関して、批判・反批判レビューと日本的視点からの再評価を行い、新概念による日本の現状の評価を行う。システム評価を通じて日本の保健医療制度改革の方向性を明らかにし、日本の公衆衛生領域が新国際的潮流に参加することに資することを目的とする。
研究方法
1.異文化間の主観的健康度比較―研究は関連資料の吟味及び担当者、有識者へのインタビューにより行った。分析は、概念の定義、SPRG等によるWHOに対するコメント、WHOの反応について整理を行い、その妥当性を評価し、わが国への応用可能性について考察を行った。2.保健医療財機能に関する検討―研究は関連資料の吟味及び担当者、有識者へのインタビューにより行った。分析は、概念の定義、SPRG等によるWHOに対するコメント、WHOの反応について整理を行い、その妥当性を評価し、わが国への応用可能性について考察を行った。3.保健医療支出(NHA)に関する研究―NHA推計手法とその批判に関する論文をレビューし、提起された問題点を列挙する。SHAマニュアル第1版をもとに2000年のNHAを推計した。推計は、平成12年度「国民医療費」ならびに各種衛生関係公表資料を用い、1998年度NHA推計のために確立した手法 を基に実施した。
4.普及度の日本の健康政策評価への応用と概念の有用性の検討―1980、1990、2000年の循環器疾患基礎調査個票データ(30歳以上男女)を用いて、高血圧と高脂血症の普及度を算出し、提供普及度、近接普及度、接近普及度、有効普及度の4つの概念を応用し、その有用性を検討した。5.FFCに関する文献レビューと分析―FFCに対する批判・反批判の文献レビューをWEB上に掲載された論文を中心に実施した。更にWHOが作成したFFCの新たな測定方法についてWHOの報告書等を検討することでまとめた。また、日本に関して、1999年の『全国消費実態調査』の個票を用いた分析をおこなった。6.Stewardshipに関する分析―政治経済分野における政府の役割一般を理論的にレビューし、また保健医療セクターにおける政府の役割を世界銀行やアジア開発銀行、国連人間開発機構等の文献を評価することによって、stewardshipの意義を分析し、日本への応用可能性を検討した。7.わが国における世界健康調査(WHS)の実施―WHOが開発したWHS調査票を日本語訳し調査票として用いた。日本語訳では数回の検討を重ね、逆翻訳を行い最終版とした。国立保健医療科学院研究倫理審査委員会より承認を得た。青森、栃木、静岡、岡山、沖縄の5県、18地域の各地域で18歳以上の男女計150名~400名を対象に無作為抽出法による訪問面接調査を実施した。回答候補者には予め協力依頼文を送付、個人的情報に関する項目は郵送記入法とし、同意書に署名を得た者にのみ実施した。
結果と考察
1.HSPAの他指標と比べ、HOPITとビニエットに対しては好意的なコメントが多く、今後の課題の一つとして、健康度や応需性を複数のドメインに分割しているが、個々のドメインが独立か否かの検証が必要である。WHOはWHSの中でHOPITとビニエットを取り入れ、HOPITの改良モデルを開発中である。自記式質問票によって主観的尺度を比較可能にする試みは画期的であり、概念は問題なく、更に確立した手法の完成が期待される。問題点の一つは、質問量が多く調査時間が掛かることである。わが国への応用可能性は充分にあるが、手法の継続的な精緻化が必要である。2.HSPAでは財政機能を、集金、プーリング、サービスの購入の3つのサブ機能に分け、各機能について候補となる指標群を挙げている。財政機能の全体像についての批判は無いが、概念が中心で根拠に基づいていない等のコメントが挙げられている。WHOはコメントに対し、テクニカルペーパーを作成し指標群の設定作業を行っている。概念は概ね妥当であり、特に3つのサブ機能は財政機能を理解する助けとなる。プーリング機能やサービス購入機能の更なる精緻化が必要である。わが国への応用可能性はあるが、エビデンスが不明瞭なものも多いため、検証の併行が必要である。3.わが国のNHA推計はSHAを基に精緻化が図られたが、課題としてまずデータが得られないために、定義上存在する分類項目の費用が計上されていない、又は過小推計になっている部分がある。推計に用いたデータは大部分が公表統計資料であり、継続性は確保されていると言えるが、データを十分に得られていない場合がある。SHAにより項目分類の境界が明確にされているとはいえ、各国の項目分類の整合性が全て取れているわけではない。NHAは医療政策における根幹となる情報であり、今後とも医療費支出の多岐に渡る分析を踏まえた医療制度改革の方向性を検討していくため、継続的な研究が望まれる。
4.高血圧については、過去20年間で全ての普及度が改善を見せたが、新定義のもとで特に有効普及度において今後努力して改善すべきギャップの大きさが明らかになった。更に、健康政策の観点から、新定義が適切性に関する検討の必要性が提示された。高コレステロール血症については、診断基準によって現状の疾病管理の評価が異なること、過去10年間の高コレステロール血症管理は普及度の点で改善を示したこと、診断基準値を引き下げて患者数を増やす前に、有効なサービスの普及と実施の改善のために、現実的なガイドラインを作成し、政策と実地臨床の場に反映させることが最重要であることが示唆された。5.今回のFFCの改定の重要点は、従来、家計の支払い能力に占める保健医療に関する支払いの割合(HFC)のばらつきとして求められてきたFFCが、支払い能力に占める自己負担の割合のばらつきへと大きく定義を変えたことである。以前のFFCは複雑で世界各国のデータの推計には無理があるとの指摘が多かったことや、リスク・プールとリスク・シェアリングのうちWHOでは後者を重視すること、食料費は必ずしも生活に必要な最低限度の支払いではないという批判があったことが背景として挙げられる。日本への応用結果の国際的位置は国際データの公表を待たねばならないが、県別では広島県が最高、徳島県が最低であった。6.stewardshipは、1987年のWHOの承認理事会で提案された政府の役割を踏まえ、世界銀行やアジア開発銀行、UNDPによって提案されたガバナンスの概念を取り入れ、stewardshipの諮問委員会では、情報の収集や政策分析等、19の側面が提案されている。WHO/EIPでは、政策形成、影響力行使、情報の収集と使用をstewardshipのマネジメントサイクルと同定し、健康分野のための三つの機能を提案している。更に、具体的には、収入の収集や集積、サービスの購買や提供等、五つの機能に対して追跡、計画、執行の三つのステップを挙げている。フレームとして以下のステップが提案されている。エージェンシー理論とは、五つの側面において異なっていると言えよう。政府の役割は日本国内でも大きく転換しており、WHOの提案は有用で、日本に応用可能と考えられる。7.4県14市町村より計3680名(男性1518名、女性2162名)の回答を得た。調査許諾率は都市部、若年層で低い傾向が認められた。現在の心と体の健康状態について大きな性差は認められず、年齢の低い程若干よい傾向を示した。全体の健康状態との相関は、健康状態の8ドメインのうち可動性が最高、視力が最低であった。既往のある者のうち治療を受けたことがある者の割合は、狭心症82%、喘息88%、うつ病98.%、高血圧87%、糖尿病は血糖降下剤で63%であった。応需性を5段階で評価したところ、悪いとする者は少なく、項目別には迅速性が最も厳しい評価であった。
結論
1.概念の評価:世界健康報告2000年に提案されたWHO/EIPのシステムの概念やstewardship、そしてcoverageについて検討した結果、従来のシステム評価とは異なる新たな方法として有用であることが判明した。特に、stewardship(育成)やcoverage(普及)は、政策の決定や推進に直接関係し、日本での使用が期待される。2.世界健康調査の日本への応用:WHOが提案した新しい手法による健康調査を五つの県で執行した。調査は概ね順調で、日本でも調査可能と考えられる。結果については、初めて医療の満足度を調査する等、新しい結果が判明し、政策に有効と考えられた。

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