文献情報
文献番号
200300133A
報告書区分
総括
研究課題名
多国間協力事業の進捗管理及び評価(Monitoring & Evaluation)手法のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
黒岩 宙司(東京大学大学院医学系研究科国際保健計画学教室)
研究分担者(所属機関)
- 奥村順子(東京大学大学院医学系研究科国際保健計画学教室)
- 駒澤牧子(株式会社 アース アンド ヒューマン コーポレーション)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
90年代以降、開発協力の世界において、多国間協力や複数の援助機関による援助協調、パートナーシップの重要性が増しさまざまな試みが行われてきている。わが国のODAにおいても、この世界的な流れを受けて、援助形態において多国間や複数の援助機関との連携強化に取り組み、現在ではさまざまな援助モダリティが開発・実施されており、金額的にもかなりの比重を占めるに至っている。特に、貧困削減というグローバルイシューに対して重要な役割を担う保健分野において、この傾向は顕著であり、ますます援助のマルチドナー化は進むことが予想される。しかしながら、これまでマルチドナーによる新しい援助モダリティに関するモニタリングや評価方法について、日本国内で十分に議論されてきたとはいえない。本稿では、次々と新しい潮流が生じる多国間や複数の援助機関における連携を「多国間協力」と総称し、日本のODAの保健分野における動向を把握し、主な形態を類型化する。次に、それぞれの形態のモニタリング・評価(M&E)方法の現状を概観する。最後に、それらの状況を踏まえて、今後わが国が多国間協力を行う場合の、モニタリング・評価方法のあり方について考察する。
研究方法
(1)文献検索、関係者のインタビュー:駒澤、相賀ほか(2)現地調査:ネパール、
2003年5月(奥村)。ラオス2003年12月(黒岩)(3)現地からの報告:エイズ対策日本信託基金の英国本部元オフィサーからのM&Eの事例、米国のUSAID日米連携アドバイザーからの米国のM&Eから日本の援助に取り入れるべき課題、米国ジョージワシントン大学客員助教授からの保健医療人材についての考察、またタンザニア保健分野におけるSWAPの現場からの報告。(4)研究期間:2003年4月~2004年3月
2003年5月(奥村)。ラオス2003年12月(黒岩)(3)現地からの報告:エイズ対策日本信託基金の英国本部元オフィサーからのM&Eの事例、米国のUSAID日米連携アドバイザーからの米国のM&Eから日本の援助に取り入れるべき課題、米国ジョージワシントン大学客員助教授からの保健医療人材についての考察、またタンザニア保健分野におけるSWAPの現場からの報告。(4)研究期間:2003年4月~2004年3月
結果と考察
世銀、IMFと連動して米国が主導する「グローバリゼーション」は「貧困削減」をスローガンに「経済重視」の保健政策を恣意的に作っている観もあり、日米同盟、国連中心主義を外交方針とする日本にとって「多国間協力」は避けがたい。WHO、UNICEFとの多国間協力のポリオ根絶事業ではICC、TAG会議などを介して質の高いモニタリングを行うことが可能になり、目標の地域根絶を達成したが、モニタリングは感染症対策を目標とするGFATM、GAVIとも大差はない。多国間協力形態の類型化とモニタリング・評価の潮流:日本の保健分野における多国間協力はUNICEFとのマルチ・バイ協力、日米コモンアジェンダ、GII、沖縄感染症イニシアティブ、世界的にはGFATM、SWAPがあるが、基金系、技術協力系(マルチドナー系、日本政府と国際機関、2国間協力)などに分けられる。GFATMは予算の5~7%をM&Eに費やし、資金の適正な配分と成果のアカウンタビリティを重要視している。しかし日本は多額の拠出をしていながら基金系に対して把握をしていない。USAIDは指標を設定して評価するパフォーマンスメジャーメント方式を採用し、成果重視とし、米国議会や国民へのアカウンタビリティを果たしているが、日本はODAが何のために必要か、という本質的な議論、評価文化が未熟なため同様の方法で世論に答えられるかは疑問で、また数値指標の進捗のみではプロセス段階での本質的な問題が見えない欠点もある。国際家族計画連盟とネパールおよびラオスにおける事例:エイズ対策日本信託基金 (JTF)はM&Eが行われた成功例だが、日本人担当官が、事業実施計画策定段階から関わったことが大きな勝因である。ネパール保健分野における日米パートナーシップで、日本はハード、米国は人と技術を中心とするソフトを支援し、米国の資金を日本が肩代わりしている観は否めず、日本の存在感は薄い。プロジェクト形成段階から日本、米国、ネパールの3者が連携をとり、日本の得意分野を明らかにするべきである。ラオスのGFATMはM&Eに関して手法は定型化し、財政管理面のモニタリングはラオス保健省自身のM&Eに加え、KPMGという監査法人が任にあたり定期的に本部に報告している。多額の資金拠出国である日本は積極的にM&Eに参加すべきだが実質的な実施・推進組織であるCCM(国家調整機関)に日本は参加していない。GAVIのM&Eは厳しいが建設的である。活動の報告はICCを通り、保健省を経て民間の会計監査から本部へ報告される。ICCメンバーであるJICAはポリオ根絶に関わり、マルチ・バイで日本がワクチンを供与しており発言力も大きい。GFATMとの違いがここにありM&Eの要の組織に日本人担当者が加われば日本のプレゼンスも示すことができる。問題は改善が見られなければ援助は打ち切りで、成果に重きを置くあまりに自立発展性は配慮されていないこと。国際家族計画連盟へのエイズ対策日本信託基金のM&E 拠出先機関や事業実施者の定める評価体制のなかでも、この事例のように、日本からの担当者が計画立案時から関わることで、日本政府の戦略の反映、および日本政府の評価への参加が可能である。これが、日本の顔や意思の表明に大きく貢献するもので、そのためには本省担当者・案件実施地域の日本大使館との円滑な連絡体制や参加が期待される。日本の援助へUSAIDの仕組みから取り入れるべき課題:日本のM&Eは投入と成果の因果関係だけを重視する観点と予算の適正な執行という観点からは有効かもしれないが、その案件が問題に対して最適な投入であったかを測定することはできない。MDG、マクロレベルでの成果を知るには米国のように、国レベル、セクターレベルでの成果を測定する必要がある。そのためには案件の計画段階、国
別・セクター別の援助計画を作成する段階から問題分析を行い、他ドナーの投入、日本の比較優位性を総合的に検討したうえで計画、実施、モニタリングのサイクルを組み立てる必要がある。日本一国の投入でマクロな課題を解決することは難しいが、投入の成果の国レベルへの貢献が分かるようにM&Eを開発すべきである。保健医療人材に関するM&E:保健医療人材の量的な計測のみが行われ、人材の質を国際比較する指標は欠落しており、妥当性のある評価を行うことを阻害している。人材の質的な課題は、随時、事例研究として取り上げられるが、それらの課題を集約して指標として纏め上げる努力は不十分であった。その反省をもとに、指標化の試みとして、継続専門教育(Continuing Professional Educationあるいは、In-Service Training)へのアクセスの程度を示す研究も開発されている。タンザニアの保健分野のSWAP:2003年度のDAC相互援助評価ではSWAPに見られるような援助協調の動向が、援助国・被援助国双方にとって活性化の刺激になっているが、多くの問題を抱えていることも事実である。タンザニアにおいて開発援助協調の潮流は、特に財政拠出の統一化という点で進展しているが、タンザニア内外における批判的意見を含めて過渡期にあり、今後もSWAPという援助様式が存続するとは限らない。以下の点が問題:1)会計体制を被援助国の統一した財政システムに投入した点が画期的であるが、会計システムのみの評価では活動そのものの実態が不明確、2)国連機関はSWAP参加に慎重、3)保健計画の地方移譲を目指しているが、地方レベルでの高度なマネージメントには限界がある、4)国家全体計画との乖離、5)援助国、被援助国の国民に対する説明責任の形成の困難さ、などがあり、SWAPにおける新たな援助様式も検討されている。今後のM&Eのあり方として、基金系に関して日本政府にはM&Eの実態はほとんどなく、基金自体の計画運営と個々の案件レベルでのM&Eの2本立てが必要で、グローバルな視点からの対象分野や国の妥当性、基金の運用方法の妥当性を高めることがM&Eの目標である。一般にモニタリング制度は定型化され事業計画にビルトインされ世銀は全案件の1/4の評価を行っている。この方式をとるには質の高いモニタリング体制の確立が前提で、ポリオ根絶では多国間協力で極めてうまく機能したが、概して日本のODAではモニタリングが弱く評価の基礎材料が希薄である。技術系では、さまざまな多国間スキームを横断的に比較し、整理し、日本としての取捨選択を行う作業が必要だが、外務省の政策評価につながるがこの次元での評価はかつてない。
別・セクター別の援助計画を作成する段階から問題分析を行い、他ドナーの投入、日本の比較優位性を総合的に検討したうえで計画、実施、モニタリングのサイクルを組み立てる必要がある。日本一国の投入でマクロな課題を解決することは難しいが、投入の成果の国レベルへの貢献が分かるようにM&Eを開発すべきである。保健医療人材に関するM&E:保健医療人材の量的な計測のみが行われ、人材の質を国際比較する指標は欠落しており、妥当性のある評価を行うことを阻害している。人材の質的な課題は、随時、事例研究として取り上げられるが、それらの課題を集約して指標として纏め上げる努力は不十分であった。その反省をもとに、指標化の試みとして、継続専門教育(Continuing Professional Educationあるいは、In-Service Training)へのアクセスの程度を示す研究も開発されている。タンザニアの保健分野のSWAP:2003年度のDAC相互援助評価ではSWAPに見られるような援助協調の動向が、援助国・被援助国双方にとって活性化の刺激になっているが、多くの問題を抱えていることも事実である。タンザニアにおいて開発援助協調の潮流は、特に財政拠出の統一化という点で進展しているが、タンザニア内外における批判的意見を含めて過渡期にあり、今後もSWAPという援助様式が存続するとは限らない。以下の点が問題:1)会計体制を被援助国の統一した財政システムに投入した点が画期的であるが、会計システムのみの評価では活動そのものの実態が不明確、2)国連機関はSWAP参加に慎重、3)保健計画の地方移譲を目指しているが、地方レベルでの高度なマネージメントには限界がある、4)国家全体計画との乖離、5)援助国、被援助国の国民に対する説明責任の形成の困難さ、などがあり、SWAPにおける新たな援助様式も検討されている。今後のM&Eのあり方として、基金系に関して日本政府にはM&Eの実態はほとんどなく、基金自体の計画運営と個々の案件レベルでのM&Eの2本立てが必要で、グローバルな視点からの対象分野や国の妥当性、基金の運用方法の妥当性を高めることがM&Eの目標である。一般にモニタリング制度は定型化され事業計画にビルトインされ世銀は全案件の1/4の評価を行っている。この方式をとるには質の高いモニタリング体制の確立が前提で、ポリオ根絶では多国間協力で極めてうまく機能したが、概して日本のODAではモニタリングが弱く評価の基礎材料が希薄である。技術系では、さまざまな多国間スキームを横断的に比較し、整理し、日本としての取捨選択を行う作業が必要だが、外務省の政策評価につながるがこの次元での評価はかつてない。
結論
GFATMは予算の5~7%をM&Eに費やし、資金の適正な配分と成果のアカウンタビリティを重要視しているが、日本は多額の拠出をしていながら基金系に対して把握をしていない。USAIDは指標を設定して評価するパフォーマンスメジャーメント方式を採用し、成果重視とし米国議会や国民へのアカウンタビリティを果たしているが、日本はODAが何のために必要か、という本質的な議論、評価文化が未熟なため同様の方法で世論に答えられるかは疑問で、また数値指標の進捗のみではプロセス段階での本質的な問題が見えない欠点もある。有効なM&Eには日本人担当官が事業実施計画策定段階から関わることが重要である。GFATMには、実質的な実施・推進組織であるCCMに日本が参加することで効率的なM&Eが可能になる。GAVIでの活動の報告はICCを通り保健省を経て民間の会計監査から本部へ報告されるが、ラオスでは保健省アドバイザーがメンバーで有効に機能している。現在、援助モダリティは急速な勢いで変貌している。適時に、さまざまな多国間協力スキームを横断的に比較し、メリットやデメリットを整理し、日本としての取捨選択を行うためにも、包括的で横断的な評価が必要である。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-