妊婦のリスク評価に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
200300124A
報告書区分
総括
研究課題名
妊婦のリスク評価に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
中林 正雄(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会総合母子保健センター愛育病院)
研究分担者(所属機関)
  • 久保隆彦(国立成育医療センター)
  • 中野眞佐男(済生会神奈川病院)
  • 谷津裕子(日赤看護大学看護学部)
  • 潮田千寿子(東京大学医学部附属病院)
  • 野馬利恵子(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会総合母子保健センター愛育病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦では産科領域において一次医療施設(診療所)、二次医療施設(中堅病院産科)、三次医療施設(周産期センター)が存在するが、各施設間の役割分担が明確でなく、また妊婦のリスク評価も十分に行われていないため、周産期医療システムの整備が不十分である。本研究では諸外国の分娩事情および妊婦のリスク評価法について調査し、本邦の現状に適した母児にとって安全な周産期医療システムを普及・推進するための基礎的研究を行う。
研究方法
A.諸外国の分娩事情:調査対象国は日本、米国、英国、オーストラリア、ニュージーランド、フィンランドの合計6カ国である。調査方法は文献や関連資料のレビュー、および現地の分娩事情に詳しい医療従事者へのヒアリング調査によるものである。調査内容は主として以下の6項目である。
1. 産科指標(出生率、乳児死亡率、妊産婦死亡率、合計特殊出生率)
2. マタニティサービスに関する医療保険制度
3. 妊娠時の受診システム
4. 分娩システム
5. 産科医師と助産師の役割分担
6. 産科医療に関する問題点
B.妊婦のリスク評価法:1.妊娠前評価項目、2.妊娠中の評価項目について本邦および諸外国の文献を参照した。参照した妊婦リスク評価法は、Nesbit(1969), Goodwin(1969), Hobel(1973), Wilson(1973), Morris(1979), Edwards(1979), Halliday(1980), Pattison(1990), Humphrey(1990), 竹村(1975), ニュージーランドガイドライン(1995)である。
結果と考察
A.諸外国の分娩事情 
1.産科指標については、今回対象とした5つの外国と本邦とでは大きな差は認められず、いずれも世界でトップレベルの周産期医療を行っていると考えられる。
2.マタニティーサービスに関する医療保険制度については、米国とニュージーランドは国民皆保険ではないが、妊娠・出産に関する費用、援助は国または民間保険が行っている。
3.妊娠時の受診システムは、諸外国では一般医(general physician:GP)が行うことにおおむね統一されている。
4.分娩システムはフィンランドと日本をのぞき、オープンシステムが積極的に導入されており、分娩は病院またはバースセンターで行われる事がほとんどである。
5.産科医師と助産師の役割分担については医師が正常・異常妊娠・分娩の両方の診療にたずさわる“米国型"(米国、ニュージーランド、日本)と、正常な妊娠・分娩は助産師が支援し、異常妊娠・分娩の診療は医師が行う“英国型"(英国、フィンランド、オーストラリア)に大別される。
今後は諸外国の分娩システムや医師と助産師の役割分担および連携などについて、本邦との差違を明確にし、本邦の医療事情に即した周産期医療システムの構築が必要である。
B.妊婦のリスク評価法
妊婦のリスク評価法は国により時代により異なっているが、主に妊娠前評価項目と妊娠中の評価項目に分類され、さらに1.基本情報、2.既往歴、3.産婦人科既往歴、4.現病歴に分けて検討されている。
1.基本情報としては、年齢(若年、高年)、経産回数、結婚歴、人種、身長(低身長)、体重(BMI、肥満)、経済的事情、家族歴などがあげられる。
2.既往歴としては、高血圧、心疾患、内分泌疾患、糖尿病、腎臓病、てんかん、神経学的異常、婦人科手術、STD、呼吸器疾患、自己免疫疾患、肝炎、血液疾患、タバコ・アルコール・麻薬常用などがあげられる。
3.産婦人科既往歴としては、常位胎盤早期剥離、死産、新生児死亡、早産、産褥出血、妊娠中毒症、吸引・鉗子分娩、帝王切開術、大奇形児、巨大児、IUGR児、反後・習慣流産、不妊症治療、頸管無力症などがあげられる。
4.現病歴としては、染色体異常疑、性感染症、切迫流産、切迫早産、前期破水、妊娠20週以後の出血、妊娠28週までの妊婦健診回数、妊娠中毒症、羊水量異常、多胎妊娠、耐糖能異常、34週以降の骨盤位、CPD疑、前置胎盤、などがあげられる。
これらの項目について、本邦の実情にあったスコアリング、重みづけを行い、妊婦の適正なリスク評価を行うことが必要である。こうして作成された妊婦リスク評価法の有用性について、多数例について検討することが必要である。
結論
諸外国における分娩事情の基本は以下の通りである。
1. 妊婦健診は一般医(GP)また助産師が行うことが多く、分娩のほとんどが病院またはバースセンターで行われている。
2. 妊婦のリスク評価に応じて一般医(GP)または助産師から、産科専門へ紹介されるシステムが一般的である。
このような周産期医療システムによって、妊娠・出産が安全かつ経済的に管理されている。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-