医療安全における患者参加の課題整理と促進方策についての検討(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300121A
報告書区分
総括
研究課題名
医療安全における患者参加の課題整理と促進方策についての検討(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 廸生(横浜市立大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、医療事故・医療安全への市民・マスコミの関心が高まり、医療機関の医療事故対策への取り組みも多くの組織で恒常的に行われつつある。従来の医療安全対策は、医療機関が組織として事故防止対策を検討するいわゆるリスクマネジメントの取り組みが主である。一方、市民・患者の側では自己防衛的な発想から、医療事故に遭わないための対処法が所所で語られている。医療機関・医療従事者が事故を引き起こし、患者がそこから身を守るという対立関係にしばしばこの両者は位置づけられるが、そもそも医療は、患者と医療従事者の相互的な営みであり、医療機関・医療従事者と患者の協同的な取り組みによって、より安全な医療が確保されることは自明である。
そこで、本研究では、医療安全における患者参加の課題整理と促進方策について、多方面の研究者の協力を得て多角的に検討した。まず、文献や諸外国における実践において、医療安全に対する患者参加の現状や、また、患者参加が医療安全においてどのような有効性を持つのか、効果や課題について検討した。次に、病院における治療・検査・ケアの安全性を高めるためにどのような患者参加が有効か、臨床経験のある看護研究者で集団討議を行い検討した。また、患者参加の基盤となる教育等の支援技術(IT技術を応用したもの)の探索とその可能性を検討した。実践面では、患者参加型クリティカルパスの作成を試みた。以上の成果などを参考に、「医療および医療安全における患者参加の課題整理・促進方策の検討」を行うために、「患者と協働する医療を築く:安全の向上を目指して」と題して、シンポジウムを行った。 
研究方法
本研究では、まず、文献や諸外国における実践において、医療安全に対する患者参加の現状や、また、患者参加が医療安全においてどのような有効性を持つのか、効果や課題について検討した。次に、病院における治療・検査・ケアの安全性を高めるためにどのような患者参加が有効か、研究者および、臨床家の集団討議を行い検討した。また、患者参加の基盤となる教育等の支援技術(IT技術を応用したもの)の探索とその可能性について専門家による検討を行った。
また、実践的には、医療の質と効率性の向上効果および、医療の安全性も向上するであろう、患者参加型クリティカルパスを開発し検討を行った。
これらの研究成果をもとに、医療および医療安全における患者参加の課題整理・促進方策の検討を目的に、「患者と協働する医療を築く:安全の向上を目指して」と題して、シンポジウムを行った。
結果と考察
本研究では、医療安全における患者参加の課題整理と促進方策の検討を行った。まず、文献や諸外国における実践において、医療安全に対する患者参加の現状や、また、患者参加が医療安全においてどのような有効性を持つのか、効果や課題について検討した。JCAHOが公的医療保険を管理するCMSと共同して 2002年に発表した“Speak Up"プログラムについて概観した。“Speak Up"プログラムは、それ以前からの医療安全における患者参加に関するAHRQの取り組み等の流れを汲んだものであるが、患者が医療チームの中心であることをより明確に宣言し、患者に事故防止への積極的な参加を呼びかけている点が特徴的である。精神領域、一般病棟、長期療養病棟などで使用される“Speak Up"プログラムを看護業務に読替えた内容を試案した。わが国の医療全体への“Speak Up"プログラムの導入には多くの困難が考えられる。しかし、医療の質保証のための患者参加が確立されつつある、クリティカルパスの分野などで、それも特に患者と直接的に関わる機会が多く、医療事故の最終防衛ラインである看護業務に特化した“Speak Up"プログラムの一部導入は有効である可能性が示唆された。
次に、病院における治療・検査・ケアの安全性を高めるためにどのような患者参加が有効か、臨床経験のある看護研究者4名、臨床看護師1名の計5名で集団討議を行い検討した。その結果、「Ⅰ.自分に関する情報をとりまとめ医療従事者と共有する」、「Ⅱ.適切な検査・治療・ケア計画に必要な情報を提供する」、「Ⅲ.安全で正確な治療・検査・ケアの実施に協力する」、「Ⅳ.安全で適切な自己管理を行う」、「Ⅴ.安全な環境をつくる」、「Ⅵ.非常事態に備える」、「Ⅶ.患者としての経験や判断を伝える」の7つが重要な患者参加活動として挙げられた。
また、患者参加の基盤となる教育等の支援技術(IT技術を応用したもの)の探索とその可能性を検討した。医療安全における患者参加の重要性は強調されているが、その障害の一因として患者側と医療者側との持っている情報の格差が考えられる。疾病および治療方法について治療の副作用なども含め知識を持っていることは安全性の向上に有効であり、治療に参画するために知識が必要なこともまた確かである。検討内容としては、実際の病院での患者参加の視点からのIT利用の実状の調査、先進的な病院で行われている先進事例の検索、インターネット上で利用可能な技術の転用の可能性についてである。また、医療者でなく一般の患者側からの疾病に関するホームページなどを調査し、現時点での医療関係者でない方の医療情報の入手の実状について検討した。
実践的には、患者参加型クリティカルパスの作成を試みた。クリティカルパスは、その活用により医療の質と効率性の向上効果が得られ、医療の安全性も向上する。パスによる安全性の向上は、医療者用パスによる医療の標準化、統一化と医療者間の情報の共有化の結果である。患者用パスは医療内容の概略しか記載されていないため、安全性向上への寄与は少ない。患者用パスを医療者用パスと同じにすれば更なる安全性の向上が期待できる。本研究では、共に医療行為、観察項目をチェック可能な患者医療者共通の化学療法パスを開発した。
以上の成果などを参考に、「医療および医療安全における患者参加の課題整理・促進方策の検討」を行うために、「患者と協働する医療を築く:安全の向上を目指して」と題して、シンポジウムを行った。
60数人の参加者を得て、熱心な討論が行われた。医療における患者の役割の増大は必然であり、医療における安全は患者の参加がなければ確保できないこと、しかし患者の参加は医療側からの働きかけがなければならないことなどが報告された。また、患者の参加の形態として、「lay expert」という概念が紹介された。これは、医療利用者である患者・市民が消費者として医療セクターと対等な力を保持しようとする従来の消費者運動という関係にとどまらず、むしろ専門的なサービス領域での活動主体となることを意味しており、新たな展開として注目される。一方で、上述のいわば組織化された患者の活動ではない、個としての患者=当事者の活動としての患者参加の視点も今後整理される必要のあることが示唆された。
結論
本研究では、まず、文献や諸外国における実践において、医療安全に対する患者参加の現状や、また、患者参加が医療安全においてどのような有効性を持つのか、効果や課題について検討した。わが国においても、医療事故の最終防衛ラインである看護業務に特化した“Speak Up"プログラムの一部導入は有効である可能性が示唆された。また、実践的には、医療の安全性向上をねらった、患者参加型クリティカルパスを開発した。さらに汎用性を高めたパスの開発をはかりたい。

公開日・更新日

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