日本人のカドミウム暴露量推計に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300107A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人のカドミウム暴露量推計に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
新田 裕史(独立行政法人 国立環境研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
適正な基準値設定のためには、その科学的根拠となるリスク評価が不可欠であり、リスク評価の重要な柱である曝露評価を行うことが必要である。本研究では、カドミウム曝露において最も重要と考えられる食品経由の摂取について、曝露量推計のための統計的手法を検討し、作成した推計モデルに食品別カドミウム濃度および食品摂取量に関するデータを適用することにより、日本人全体での曝露量分布を推計することを目的とした。
研究方法
食品摂取量については厚生労働省が実施している国民栄養調査のうち平成7年から平成12年までの6年間のデータベースをプールしたものを用い、食品群別に摂取者割合並びに摂取量分布に関するデータを得た。食品中のCd濃度については、農林水産省のカドミウムの実態調査データを用いた。Cd摂取量分布推計および推計に関わる要因についての検討はモンテカルロ法により行った。約100種類の食品群別の摂取量分布とそれらの食品群に農水産物中のCd濃度分布を掛け合わせることによって行った。実際には、摂取の有無、摂取量およびCd濃度について、それぞれの分布に従う乱数を発生させ、それを掛け合わせてCd摂取量を算出する操作を繰り返すことによって、Cd摂取量分布を異なる基準値に基づく7つのシナリオ毎に推計した。シナリオ1はいずれの食品についてもCd基準値を設けないもの、シナリオ2は米のみCd基準値を0.4mg/kgとし、それ以上の濃度を含有する試料を除いたもの、シナリオ3はコーデックス委員会食品添加物・汚染物質部会で提案されているCd基準値案を越える濃度の試料を除いたもの、シナリオ4~7はALARA(As Low as Reasonably Achievable)の原則をカドミウム実態調査の結果に適用して農林水産省が推定した代替基準値案(ただし、シナリオ4~7は米のみ基準値をそれぞれ0.2、0.3、0.4、0.5mg/kgに変え、他は同一)を超える濃度の試料を除いたものである。各シナリオに従ったCd濃度の設定にあたっては、シミュレーション実行時に対数正規分布に従う乱数のうち、設定した基準値を超えるものは除外することによって推計を行った。さらに、モンテカルロシミュレーションの仮定条件が推計結果に与える影響を検討するために、Cd摂取量への寄与が最も大きい米類について以下の通り条件を変更して推計して結果を比較した。
結果と考察
シナリオ毎にモンテカルロ法による推計を行った結果、シナリオ1とシナリオ2を比較すると中央値の違いはわずかであり、90パーセンタイルや95パーセンタイルなど分布の裾でやや差がみられるのみであった。シナリオ3ではシナリオ1および2と比べて、95パータイルでは約1μg/kg・bw/週ほど低い値となっていた。シナリオ4からシナリオ7の違いは米の基準値のみが異なっているが、各シナリオを比較すると、中央値の違いはわずかであり、分布の裾に違いが出ていた。シナリオ1の場合のCd摂取量に対する食品分類別の寄与度をみるとも米類が全体の50%の寄与を示していた。シナリオ6の場合にも米類の寄与度はシナリオ1の場合とほとんど変わらなかった。Cd摂取量に対する寄与が最も大きい米類について、その摂取量およびCd濃度について仮定する分布を変えた場合の影響を調べた。Cd濃度について仮定する分布をガンマ分布やベータ分布に変えた場合には仮定する分布の違いがややみられ、さらに平均値や中央値など分布の中心領域を表す統計量と95パーセンタイルなど分布の裾の統計量ではその影響が異なっていた。米のCd濃度データは約3万7千という多数の試料の分析結果が得られており、そもそも対数正規分布への適合は良好であった。そのため、分析データの標本分布と仮定する理論分布のずれが結果に影響を与えたものと考えられる。また、米のCd濃度の平
均値を減少させた場合にCd摂取量分布全体が低値にシフトしていた。シナリオ別のCd摂取量の推計は、基準値を超える濃度の試料を除くことにより推定を行ったが、実際には、生産者の汚染低減対策の取組により、分布全体がCd濃度低減の方向にシフトすることが想定され、このことがCd摂取量の低減に効果があることが示された。一方、米の摂取量については仮定の分布による違いはそれほど大きくなかった。また、摂取量の平均値を増減させた場合のCd摂取量へ影響は分布全体に及んでいた。例えば、米類の摂取量を10%減少させた場合のCd摂取量は平均値や中央値だけでなく、95パーセンタイルも低下していた。本研究で用いた国民栄養調査データにはいくつかの制約がある。この調査は毎年11月に実施されているために、摂取量の季節変動が大きい食品の場合に過大ないし過小評価となる。平均値ベースでみた場合にCd摂取量に対して寄与が大きいと考えられる米、小麦、大豆類は季節変動がそれほど大きくないと考えられが、魚介類については季節変動が大きいと考えられるものが含まれている。また、本調査は1日調査であるために、対象者の摂取頻度分布や摂取量の個人内変動など個人個人の摂取パタンに関するデータは得られない。本報告の推計に当たっては、対象集団の各食品別の摂取割合を当該食品の(個々人の)摂取確率の推計値としているが、その妥当性について検討が不十分である。特に、Cd濃度が高い食品のうち、集団の摂取割合は低いが多食者(習慣的な摂取者)が存在するものの場合には過小評価となっている。このような多食者の人口割合によっては95パーセンタイルやそれ以上のCd摂取量分布の裾部分の推計に影響を与える可能性がある。
結論
食品摂取量および食品中Cd濃度データにモンテカルロ・シミュレーションの手法を適用して、食品経由のCd曝露量分布の推計する方法を提示し、それによる日本人全体のCd曝露量推計を行った。本推計には種々の不確実性が含まれているが、それらの不確実性がCd曝露量推計結果に与える影響について可能な限り定量的に検討した。

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