医療機器関連産業における附帯的サービスの実態調査(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300104A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機器関連産業における附帯的サービスの実態調査(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
松田 晋哉(産業医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療をめぐる経済状況の悪化により、医療費増の抑制が課題となっている。このような状況下、医療材料・医療機器の価格についてもその適正価格についての議論がある。例えば、わが国の医療材料・医療機器の流通については、以前より内外価格差の問題や国内価格の設定方法のあいまいさなどが問題視されてきた。また、卸業におけるコストの主体となる物流コストは製造コストなどに比較して変動費部分が多く、いわゆる管理可能費部分が大きな割合を占めるため、コストマネジメントによる管理が有効である。ところが、医療機器関連産業、特に医療関連卸業(以下、卸業を含めて医療機器関連産業とする)は、中小企業が多いこともあり、これまで科学的な物流コストマネジメントが十分行われていない現状もある。
しかし、その一方で流通加工、SPD(Supply, Processing and Distributing)などの院内物流の代行、医療材料の委託・貸出し、医療機器の保守・管理、廃棄物処理あるいは多額の売掛金の発生など、本来医療施設が持つべきコスト及び財務リスクを医療機器関連産業が附帯業務として代替しているという問題点も指摘されている。さらに、近年、医療施設の要望により多頻度・多品種小口配送や緊急搬送が増加しており、医療機器関連産業のコスト面での負担が増大している。わが国の医療材料及び医療機器に関しては医療機器関連産業がその物流コストや附帯業務のコストを負担することで、医療システム全体におけるコストを下げている面もあると考えられる。
本研究では以上のような問題意識に基づき、わが国の医療機器関連産業における業務、特に附帯的サービスの実態調査を行い、①医療材料・医療機器の適正価格設定、及び②物流効率化のための方策提言のための基礎資料を作成することを目的とした。
研究方法
1)調査票による検討:日医機協加盟企業(主として医器販協加盟企業)を対象として、流通加工や保守管理など、どのような附帯的サービスを行っているかについて調査票を作成し、郵送法によって調査を行った。2)ヒアリングによる検討:上記対象企業のうち、地域別に選択した10社を対象にヒアリング調査を行い、附帯的サービスの実態とそれに関連する諸問題及び今後の課題等について分析を行った。3)日医機協加盟企業(主として医器販協加盟企業)を対象として、流通コストの把握状況に関する調査票を作成し、郵送法によって調査を行った。4)本州で主として業務展開を行っている医療材料・医療機器販売業者の物流センター1箇所をフィールドとしてABCによる物流コスト推計を試みた。活動基準原価計算については中小企業庁の「中小企業のための物流ABC準拠による物流コスト算定・効率化マニュアル」を用いた。
結果と考察
平成15年度の主な研究成果は以下の通りである。
1)業者が行っている附帯的サービスとして多いのは、情報提供、術後・検査後の物品補充、委託・貸し出し、術中・検査の立会い、伝票処理、24時間のバックアップ体制、製品サンプルの提供、術前・検査準備等の補助等であった。2)医療機器・医療材料はその提供されている附帯的サービスの組み合わせの特徴から以下のように分類された。①有償保守点検が主体でその他のサービスはあまり提供されていないもの(CT、MRI)、②24時間バックアップ体制で、立会い及び物流管理(バーコード添付や伝票作成)を含めた院内物流支援サービスが提供されており、さらに期限切れ在庫のリスクの引き受けや製品サンプルの提供など、総合的な附帯的サービスが提供されているもの(PTCAバルーンカテーテル、冠動脈ステントセット、腹部用ステントコイル、PTAバルンカテーテル、人工肺、脳外用ステントコイル)③手術が行われる際の立会い(特に術前・検査準備等)とその後の伝票処理と補充が中心的なサービスとなっているもの(委託・貸し出しも多い)(人工膝関節、人工股関節、脊椎固定システム、骨接合用プレート)、④③で24時間バックアップ体制と機器の有償保守点検が行われているもの(人工心肺装置、自己血回収装置)、⑤③で24時間バックアップ体制と関連計測機器の無償貸与が行われているもの(埋め込み型心臓ペースメーカー)⑥③で機器の有償保守点検が行われているもの(自動腹膜還流装置、外科内視鏡装置(腹腔鏡等)、人工透析装置、内視鏡)⑦物流支援が主体だが、24時間バックアップ体制を必要とせず、立会いも少ないもの(眼内レンズ)。3)PTCAバルーンカテーテルや冠動脈ステントセットのような循環器系の医療機器については納入数の少ない施設で術中・検査の立会いが行われているのに対し、人工膝関節や人工股関節などの整形外科系では納入数に関係なく立会いが行われていた。この理由として、整形外科領域の手術では器械出し作業が複雑なため、病院側スタッフのみでは対応が難しいことが指摘された。医療機関と卸業者及び医療機器メーカーとの取引契約の中に、当該医療材料や医療機器の適正な使用を補助する観点から、立会い等の専門的サービスを提供することも含まれていると解釈できることから、法的には問題はないのかもしれない。しかしながら、患者の個人情報を知りうる臨床の現場で第三者がサービスを提供していることには倫理的な問題及び個人情報保護法との関連から問題となりうる。従って、今後の重要な検討課題である。この問題を解決するためには、例えば、器械出しを行える病院側のスタッフ(手術室看護師や臨床工学技士)の配置を公的保険制度の枠組みで保証する等の対策が必要であろう。4)ヒアリングによる詳細調査の結果、上記の附帯的サービスは、SPDなどを除くとサービスの対価としての価格設定は行われておらず、各社とも全体の利益の中で吸収していた。5)福岡県内の医療廃棄物処理施設及び医療機関を対象に、感染性廃棄物の処理の現状についてヒアリングを行った結果、マニフェスト制度はよく運用されているが、医療施設内における分別・移動・保管及び委託業者における運送などの点で改善点が多いと考えられた。安全性及び効率性の向上のためにもICタグなどを活用した電子マニフェスト制度の一般化が必要であると考えられた。6)物流コストの把握に関する実態調査の結果、物流費の把握を自社物流費も含めて行っているのは34.5%の企業で、さらにそのうち活動基準原価計算を行っているのは5.8%の企業に過ぎなかった。7)現在物流費を把握していない会社の約半数はその把握は必要と考えていた。また、「計画がある」、「具体的な計画はないが関心はある」の2つをあわせると80%の会社が物流費の把握に何らかの関心を示している。8)活動基準原価計算の実地調査を行った物流センターにおけるアクティビティ原価をみると「管理業務・その他」が6,080,040円(40.3%)と最も高く、ついで出荷(3,864,145円:25.6%)、保管(2,777,768円:17.8%)、入荷(1,275,677円:8.4%)、返品(948,942円:6.3%)、情報処理(248,092円:1.6%)となっていた。物流コストで問題となるケース単位
の処理とピース単位での処理のアクティビティ単価をみると、荷受け・検品ではケースが18.3円、ピースが206.3円、ピッキング・目視・検品ではケースが100.2円、ピースが33.1円となっている。このことは多品種・他頻度・小口配送の増加が医療材料・医療機器の流通コストを高めていることを傍証する結果である。
結論
本研究の結論は以下のとおりである。1)業者が行っている附帯的サービスとして多いのは、情報提供、術後・検査後の物品補充、委託・貸し出し、術中・検査の立会い、伝票処理78社、24時間のバックアップ体制、製品サンプルの提供、術前・検査準備等の補助等であった。2)医療機器・材料の種類によって行われている附帯的サービスの種類に特徴がある。3)現在、問題となっている「立会い」に関してはPTCAバルーンカテーテルや冠動脈ステントセットのような循環器系の医療機器については納入数の少ない施設で術中・検査の立会いが行われているのに対し、人工膝関節や人工股関節などの整形外科系では納入数に関係なく立会いが行われていた。この理由として、整形外科領域の手術では器械出し作業が複雑なため、病院側スタッフのみでは対応が難しいことが指摘された。3)附帯的サービスのコストが問題となっているが、そのようなサービスの実際のコストを把握している事業者は少ないのが現状である。仮に、附帯的サービスを経済的に評価するのであれば、活動基準原価計算などを用いてそのコストを科学的に把握することが必要であり、今後の検討課題であると考えられる。

公開日・更新日

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