異種移植の実施に関する実態調査及び安全性確保に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300102A
報告書区分
総括
研究課題名
異種移植の実施に関する実態調査及び安全性確保に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
吉倉 廣(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 神田忠仁(国立感染症研究所遺伝子解析室長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
異種移植においては、移植に用いる動物細胞、組織又は臓器由来の感染症について予測困難な問題が残されている。我が国では、平成13年度に、異種移植に起因する感染症に関する公衆衛生学の観点から「異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針」を策定し、平成14年7月9日付け医政局研究開発振興課長通知にて周知した。この指針では、異種移植の定義の一つとして、「体外において、ヒト以外の動物に由来する生きた細胞、組織又は臓器に接触したヒトの体液、細胞、組織又は臓器をヒトに移植、埋込み又は注入すること」とされ、マウスの繊維芽由来の細胞をフィーダー細胞として利用している培養皮膚はこの定義に該当している。しかし、培養皮膚は医療技術として定着し、多くの患者に適用されていることから、平成14年度から厚生労働科学研究費特別研究において、培養皮膚に対する異種移植指針の適用について検討して来た。今年度は、フィーダー細胞を使ったヒト組織の培養について、我が国の実施状況を調査し、それに基づいて適切な指針運用について更に検討した。併せて、各医療機関、研究機関における指針の運用上の疑義等を把握し、指針のより一層の周知徹底をはかることを目的とした。
研究方法
1.海外における異種移植の現状と規制状況を把握するために、分担研究者、国立感染症研究所神田忠仁が2033年10月6-9日の4日間、スペインで開催されたWHO主催の「Ethics, Access and Safety in Tissue and Organ Transplantation:Issues of Global Concern」と題する会議に出席した。
2.日本組織工学会会員を対象に、「異種細胞との共培養による再生医療の臨床応用の状況」に関するアンケート調査を行った。この調査では、培養されたヒトの組織に関する情報(組織名、試料としての保存状況)、用いられた異種細胞に関する情報(細胞株の名称、由来、共培養の方法、品質管理、保存状況)、及び有害事象の発生に関して回答を求めた。
3.京都大学再生医学研究所井上教授、自治医科大学小澤教授、国立感染症研究所神田室長、国立動物衛生研究所清水所長、神戸大学法学研究科丸山教授、主任研究者感染症研究所吉倉所長、厚生労働省医政局研究開発振興課の出席のもとに、皮膚移植に関する公衆衛生上の諸問題に関する討議を行った。
結果と考察
1.「Ethics, Access and Safety in Tissue and Organ Transplantation:Issues of Global Concern」会議では、異種移植の実施における公衆衛生上の懸念は、国際的に共有されるべきものであるとされ、全ての国において、適切な安全性確保の枠組みなしにヒトへの異種移植を行ってはならないこと、及び、患者の追跡調査を行うネットワークの整備をはじめとする国際的枠組みの必要性が確認された(別添1資料4)。
2.異種細胞との共培養による再生医療の臨床応用の状況調査票を545名の日本組織工学会会員に送付し、93名から回答を得た(回答率17%)。8施設において、皮膚、角膜、口腔粘膜がマウス由来3T3-J2株ないしNIH-3T3株と共培養され、治療に使われていた。これまで有害事象の発生があったとする回答は無かった。大部分の施設で、患者に異種移植に関する事項を説明し、インフォームドコンセントを得ていた(別添1資料3-1、3-2、3-3)。
3.上記調査結果を踏まえ、マウス細胞と共培養されたヒト上皮系組織を使う医療における感染症問題について、適切なインフォームドコンセント、マウス細胞の品質管理、及び、試料の保存に関する事項を中心に検討委員会によって議論された(別添1)。最終文書として「再生医療分野における異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針」に基づく3T3-J2株及び3T3NIH株をフィーダー細胞として利用する上皮系再生医療への指針をまとめた(別添2及び3)。特に、マウス3T3細胞には、Todaro博士とGreen博士が樹立した3T3-J2株(Swiss albinoマウス胎児由来、約3倍体細胞)とAaronson博士が樹立したNIH3T3株(Swissマウス胎児由来、2倍体細胞)があるので、注意を要することが明らかにされた(別添1資料4)。
4. 異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針」に基づき、異種移植の実施を厚生労働省医政局研究開発振興課へ報告に用いる様式を定めた(別添4)。
取り纏めた文書を今後、医療現場に周知させる。今後の上皮系培養組織の移植に際して具体的な指針となると思われる。
結論

公開日・更新日

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