深在性真菌症及び輸入真菌症対策に向けた総合的基盤研究

文献情報

文献番号
200300082A
報告書区分
総括
研究課題名
深在性真菌症及び輸入真菌症対策に向けた総合的基盤研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
上原 至雅(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 亀井克彦(千葉大学真菌医学研究センター)
  • 菊池 賢(東京女子医科大学医学部感染症科)
  • 槙村浩一(帝京大学医真菌研究センター)
  • 渋谷 和俊(東邦大学医学部病院病理学研究室)
  • 上 昌広(国立がんセンター中央病院)
  • 杉田 隆(明治薬科大学微生物学教室)
  • 鈴木和男(国立感染症研究所)
  • 新見昌一(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
26,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)我が国のヒストプラスマ症に関する調査、2)コウモリグアノからのHistoplasmaの検出および菌相解析、3)本邦における「ヒストプラスミン皮内反応陽性例の疫学的検討報告」及び「国内感染例と考えられているヒストプラスマ症例報告」に関する文献的検討、4) 輸入真菌症の実態、5)抗H. capsulatum 抗体保有率の検討
研究方法
1)我が国のヒストプラスマ症に関する調査
洞窟25箇所より採取したコウモリグアノをMycosel寒天培地、Sabouraud寒天培地に培養し、菌種同定を行った。アンケート調査はアマチュア洞窟探検家を対象に行い、ヒストプラスマに関する認識、経験年数、入洞数、活動地域、洞窟入洞後の呼吸器症状の有無について尋ねた。洞窟入洞後の呼吸器症状を訴えた3名の抗ヒストプラスマ抗体価を測定した。
2)コウモリグアノからのHistoplasma検出
グアノ60サンプルをBHIブロスで培養、真菌DNAを抽出し、Histoplasma ITS領域のDNA塩基配列を決定した。グアノ44サンプルについても26S rDNA塩基配列を読み菌相解析した。
3)「ヒストプラスミン皮内反応およびヒストプラスマ症例報告」に関する文献的検討
1950年前後から1960年代までの邦文および欧文誌を検索し、関連論文を抽出した。
4)輸入真菌症の実態
報告症例、データベース、血清検査、培養・同定検査、コンサルテーションなどの症例を総合した。コクシジオイデス症に関しては感染症法(4類)に基づく報告と照合した。
5)抗H. capsulatum 抗体保有率の検討
一般人をグループ1(20名)、洞穴に立ち入る探検家・研究者で呼吸器症状などを有する患者をグループ2(4名)、肺結核患者で結核菌の検出されない群をグループ3(2名)、海外渡航歴がなく臨床的にヒストプラスマ症を疑い得る症例をグループ4(1名)とした。抗体の測定にはラテックス凝集法およびImmunodiffusion法を用いた。
結果と考察
1)我が国のヒストプラスマ症に関する調査
国内報告40例の内、17%は国内での感染が疑われている。ヒストプラスマはコウモリの腸管に生息し、洞窟入洞後に呼吸器症状を呈する急性ヒストプラスマ症を海外では「洞窟熱」と称している。そこでコウモリの多い洞窟環境内を対象に調査したが、24箇所の洞窟の62サンプルからはヒストプラスマは検出されなかった。今回の調査はコウモリの冬眠時期に行われ、アンケート調査で入洞後に呼吸器症状を呈したとされる洞窟は対象に入っておらず、ヒストプラスマの検出条件を十分に満たしていなかったからであろう。今後はコウモリが活動し始める春以降、また入洞後に呼吸器症状を呈する人が発生した洞窟についても調査を行う必要がある。抗ヒストプラスマ抗体について、洞窟探検家を対象に症状の有無との関連性を大規模に調査する必要があろう。
2)コウモリグアノ中のTrichosporonの検出
Trichosporonが多数分離された。環境中のTrichosporon分生子を反復吸入すればIII/IV型アレルギーである夏型過敏性肺炎を発症する。Trichosporon spp.は血清学的には4型に大別されるが、グアノから分離された株はII型以外のすべての血清型が含まれていた。入洞後、呼吸器症状を呈した3例のうち2例からIおよびIII型に対する抗Trichosporon特異抗体が検出され、菌相解析の結果と相関した。従って、呼吸器症状の原因にTrichosporonが関与している可能性が考えられる。今後も継続的な血清学および真菌学的な調査が必要である。
3)ヒストプラスミン皮内反応
戦後、ヒスプラスマ症がアメリカから持ち込まれたのではないかという危惧のもと全国的なヒストプラスミン感受性試験が行われた。被患者は44,158人であった。皮内反応陽性率は1%弱で、岡山県(特に鉱山地域)、宮城県(駐留軍キャンプ周辺)と、土壌取扱い業者においては2-42%であった。報告は3期に分けられ、第1期(1949-1953)では皮内反応陽性例はほとんど見られず、第2期(1953-1955) は土壌取扱い業者等で有為に高く、本症起因菌の潜在を示唆し、第3期(1959-1965)においては、皮内反応陽性例は交差反応のためと判断され、ヒストプラスマ症の既往を示すものではなかった。今後特異性が高い血清検査法を用いて再検査する必要がある。
本邦1例目の大和症例は、培養、病理組織が行われ、ヒストプラスマ症であったことはほぼ間違いない。その後ヒトまたは動物に報告された「ヒストプラスマ症国内発症例」はすべて病理レベルのみの判断にもとづいており、起因菌が同定されたわけではない。本症とその起因菌が国内に存在するか否かを明らかにするために、国内感染の確定診断例を検討する必要がある。ヒストプラスマ症に対する適切な情報を臨床現場に提供し、真菌学的同定を積極的にサポートする体制を整備し、起因菌の分離/培養/同定を行うことが必要である。
4) 輸入真菌症の実態
・コクシジオイデス症:2002 年と2003年に2例ずつ症例が確認され、総症例数は36例となった。この増加傾向はこれまでと同様であった。年齢は12-55 歳(平均33.7歳)、性別は男性87%女性13%であった。感染地の79%が米国、特にアリゾナ州における感染が目立った。ほぼ全例で健常者に発症していた。死亡率は6.5%で、ヒストプラスマ症に比べ比較的低値であった。海外の流行地ではアリゾナ州で患者が増加していた。感染症法(4類)に基づく報告数と我々の調査との間には隔たりが大きいため、より徹底した普及啓発活動が必要である。
・ヒストプラスマ症:2002年に4例、2003年に2例が確認された。本症は感染症法に含まれていないため全数把握は困難である。総症例数は40例となり、年齢は17-74歳(平均42.5歳)、性別は男性76%女性24%であった。基礎疾患は30.8%に見られ、基礎疾患を有さないコクシジオイデス症患者と対照的であった。感染地は中南米が多かったが、海外渡航歴がないか、渡航歴のある場合でも渡航先が流行地域でない症例が約17%あり、国内で感染した可能性が示唆された。死亡率は、ヒストプラスマ症が31.7%、重篤な基礎疾患を有する場合は61.5%で、コクシジオイデス症よりも高値であった。動物におけるヒストプラスマ症は増加の傾向にあった。動物感染の場合、潜在的感染数は遥かに多いものと推測される。
・パラコクシジオイデス症:2003年に新たな患者が1名認められ、総症例数は18例であった。年齢は34-68(平均49.8歳)、性別は男性89%女性11%であった。大部分はブラジルの長期滞在者であった。予後は比較的良好と思われるが、追跡不能者が多く詳細は不明であった。
5)抗H. capsulatum 抗体保有率の検討 陽性者は確認されなかった。この原因として、対象被検者数が少ない、測定に用いた抗体価が感染後1年から劇的に低下する等の理由が考えられる。対応策として、十分な準備・実施期間を用意し、十分な被検者数を設定する必要性があり、高感度の抗体検出の開発・採用(ELISA法等)や持続性のある検査方法の開発・採用(リンパ球刺激試験)等が考えられるが、後者は検体の保存に難点があり、抗体測定には、交差抗原性による特異度の問題が存在することにも注意を要する。
結論
1)国内洞窟24箇所からヒストプラスマは分離されなかった。この結果から直ちに本邦に本菌が存在しないと結論づけることはできず、継続的な調査が必要である。アンケート調査の結果、呼吸器症状を呈する洞窟探検家は少なくないことが分かり、洞窟環境とヒストプラスマとの関連について引き続き調査が必要と考えられた。
2) コウモリグアノからのTrichosporonの検出および菌相解析。コウモリグアノの主要な構成菌はTrichosporonであった。本菌は夏型過敏性肺炎の原因抗原であることからも、入洞に伴う呼吸器症状との関連性が示唆される。
3) 現在のより特異性が高い血清検査法を用いて、ヒストプラスミン皮内反応高陽性率地域を中心に検査を行い、確実な国内感染例を確認する事が必要になろう。ヒストプラスマ症に関する十分な情報を提供し、本症起因菌の分離/培養/同定のプロセスを積極的にサポートする体制の整備が必要である。
4) 輸入真菌症は病原性でがきわめて強いため、患者の発生は医療制度を始め様々な問題となる。発生総数はコクシジオイデス症36例、ヒストプラスマ症40例、パラコクシジオイデス症18例である。コクシジオイデス症、ヒストプラスマ症は増加を続けている。特にヒストプラスマ症には、国内感染の可能性など問題が多く、実態の把握と届出制度の設定が急務である。
5)抗Histoplasma capsulatum 抗体保有率の検討 ヒト症例や動物感染の実態から、日本国土にH. capsulatum が生着していないとは考えにくく、より徹底した大規模な調査を行う必要がある。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-