医療費の自己負担増による高血圧症患者と糖尿病患者の受診行動の変化(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300072A
報告書区分
総括
研究課題名
医療費の自己負担増による高血圧症患者と糖尿病患者の受診行動の変化(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
畝 博(福岡大学)
研究分担者(所属機関)
  • 馬場園明(九州大学健康科学センター)
  • 津田敏秀(岡山大学大学院)
  • 田中喜代史(日本健康・栄養食品協会)
  • 宮崎元伸(福岡大学)
  • 谷原真一(島根大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はA健康保険組合の被保険者を対象として、2003年4月に導入された被保険者本人に対する定率3割負担の受診行動への影響について分析し、不必要な受診や過剰診療に留まらず、必要な受診さえも抑制している恐れがないか否かを医療経済学的に検討することである。
研究方法
対象は、A健康保険組合に所属している被保険者本人であり、2001年10月から2002年3月まで6ヶ月連続して受診した高血圧症患者と糖尿病患者である。これらの患者のうち、2003年9月まで健康保健組合に所属した高血圧症患者211名と糖尿病患者67名を分析対象とした。
2003年4月の3割負担導入前の2002年4月から2003年3月までの1年間と導入後の2003年4月から2003年9月までの6ヶ月間の受診行動を比較検討した。
対象者の属性は、2002年3月の外来レセプトによって把握した。高血圧症の対象者については、脳血管疾患、腎障害、虚血性心疾患が合併している者を合併症ありとし、糖尿病の対象者については、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経症、虚血性心疾患、脳血管疾患が合併している者を合併症ありとした。
結果と考察
結果=3割負担導入後、糖尿病の合併症のない群において有意な受診行動の変化が認められた。すなわち、糖尿病の合併症のない群では3割負担導入後、受診率と処方月数が有意に低下し、自己負担の3割への増加によって必要な受診にも影響が認められると考えられた。
高血圧患者と糖尿病の合併症のある群では3割負担導入後、有意な受診行動の変化は認められなかった。
考察=今回の研究は時系列で3割の自己負担増の影響を明らかにしたものであるが、本来は政策の評価は無作為化比較研究で行なう事が望ましいと考えられる。しかし、わが国では国民皆保険制度が存在し、定率負担は国の政策として行なわれているので無作為化比較研究を行なう事は不可能であった。今回の研究では合併症のない糖尿病の患者のみに3割の自己負担増の後に処方月数の低下が認められたことは、定率2割から3割への自己負担の増加は、疾病や合併症の有無によって異なっていることを示すものであると考えられる。
合併症のない糖尿病の患者は、自覚症がないために受診の便益を患者は感じにくい。しかしながら、これらの患者は受診が必要であり、自覚症状のない間の治療が合併症を予防できることが明らかにされている。自覚症状に乏しい慢性疾患に関しては、自己負担を上げることは勤労者の健康を損ない、社会のコストが増大してゆく可能性がある。患者が受診の効果を感じにくい慢性疾患においては、職域においても検診の事後指導による受診勧奨、治療中断の予防といった対策が検討されるべきであろう。
しかし、今回の分析は時間的制約のため、3割負担導入後6ヶ月間の受診行動の分析に留まっているPreliminary Reportであり、今後、観察期間を延長して解析する必要がある。
結論
2003年4月に導入された被保険者本人に対する定率3割負担導入により、糖尿病の合併症のない群では受診率と処方月数が有意に低下し、自己負担の3割への増加によって必要な受診にも影響が認められると考えられた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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