診療報酬政策における医療の費用とパフォーマンスをケースミックス分類に基づき評価する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300071A
報告書区分
総括
研究課題名
診療報酬政策における医療の費用とパフォーマンスをケースミックス分類に基づき評価する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(京都大学大学院医学研究科医療経済学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 石崎達郎(京都大学大学院医学研究科医療経済学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日常的・継続的に、より妥当な臨床的パフォーマンスと医療の原価を測定するしくみを開発すること、そして、ばらつきの分析などを通じて、医療の質や効率性における改善余地を示すことである。
研究方法
【Ⅰ.虚血性心疾患における医療のパフォーマンスの測定】地域中核の臨床研修指定病院11施設の2001年-2003年3月までのデータを用いた(以下同様)。「主傷病名」の日本語病の「心筋梗塞」またはICD-10コードがI21あるいはI22の症例を、すべて抽出した。このうち、急性心筋梗塞の診療・診断を主たる目的として対象施設に入院した患者を選択した。日本語病名に「疑い」を含む症例は除外し、1906例が得られた。同様に、狭心症(I20)の診療・診断を主たる目的として対象施設に入院した患者6094例が得られ、急性心筋梗塞の分析と同様の分析を行った。
【Ⅱ.子宮筋腫における医療のパフォーマンスの測定】主傷病名が「子宮筋腫」である18歳以上の症例を選択した。妊娠に関連した症例や生殖器の悪性疾患を持つ症例は除外し、1197症例のデータを抽出した。コーディングの内訳は、施設により大きく異なった。例えば、3つの病院では子宮筋腫に対してほぼ単一のコードが使われていてコードの信頼性は低く、サブ・グループ分類は不可能であると判断し、解析は子宮筋腫全体を対象とした。
【Ⅲ.胆石症と大腿骨頚部骨折における手術関連合併症の登録と医療のパフォーマンス測定の基盤】入院後発症疾患は治療続発症の指標になるかもしれず、胆石症・胆嚢炎抽出症例、大腿骨頚部骨折の入院後発症疾患についてもそのの登録状況の解析を行った。「入院後発症疾患」を、①手術処置に関連した疾患、②手術処置に関連して発生した可能性のある疾患、③入院医療に関連して発生した可能性のある疾患、④入院医療に関連して発生したかどうか不明である疾患、⑤入院医療・手術処置に全く関係のない疾患、⑥記載なしの6つに分類した。
【Ⅳ.周術期抗生剤予防投与のパターンの把握とパフォーマンス評価としての可能性】参加病院の消化器(一般)外科・整形外科・産婦人科・眼科・心臓血管外科・脳神経外科に所属する医師を対象とし、研修医は除外した。225人の医師の場合について分析した。診療科別に頻度の高い定型的な手術(胃亜全摘・腹式子宮全摘術・頚部骨折に対する観血的骨接合術・白内障手術・脳動脈瘤破裂に対するクリッピング手術・冠動脈バイパス手術)を受ける患者のシナリオを作成し、その症例に対する剃毛法、周術期抗生剤投与法(抗生剤の種類・投与時期・投与期間)、術創の処置法、胃管や膀胱バルーンの管理法、術後感染の頻度、クリティカル・パスの使用について調査した。
【Ⅴ.原価と診療報酬】現行の診療報酬のしくみを活用して個々の症例別・内訳つき原価計算のシミュレーションならびに実際の計算を行った上で、原価と診療報酬との関係性について理論的に概念・モデルを構築した。
結果と考察
【Ⅰ.虚血性心疾患における医療のパフォーマンスの測定】急性心筋梗塞症例の解析について結果を示す。在院日数(中央値)は全体で16日、施設別にみると、11日から31.5日まで分布した。冠動脈インターベンション(PCI)症例における入院医療費(中央値)は、全体で約217万円、施設別には190万円から271万円まで分布していた。生存退院症例の総医療費(中央値)は、全体で207万円、病院別では160万円から260万円まで分布していた。
手術・処置は、「冠動脈インターベンション(PCI)施行」、「冠動脈バイパス手術(CABG)施行」(合併手術[大動脈瘤手術・弁置換術・心室中隔修復術など]施行の有無で2群に分類)、「PCI・CABG施行」、「検査入院」、「PCI以外の処置(検査を除外)なし」に区別した。施設A以外は、PCI施行症例が全体の70%程度を占めていた。施設Bでは処置のない症例が60%を占めていた。2001年における施設別ステント施行割合は、19%から92%まで分布していた。2001年から2002年までのステント施行割合の変化は、高い施設で横ばい、低い施設で減少の傾向があった。急性心筋梗塞全症例における死亡率は全体で約10%、施設別では6%からその2倍程度のものまで分布していた。
【Ⅱ.子宮筋腫における医療のパフォーマンスの測定】研究参加病院の大半が圧倒的に腹式子宮全摘術を選択していることが明らかになったが、しかしE病院およびF病院では腹腔鏡下腟式子宮摘出術や腟式子宮摘出術が多く施行されていた。総じて、45歳未満の患者は45歳以上の患者より子宮摘出術を受ける割合が少なかった。この傾向は、40歳未満の患者と40歳以上の患者の比較においてより顕著である。これは若い患者に出産の可能性を残す配慮として理解できるが、子宮摘出術の施行割合には病院間で10~30%といった顕著なばらつきがあった。
【Ⅲ.胆石症と大腿骨頚部骨折における手術関連合併症の登録と医療のパフォーマンス測定の基盤】胆石症・胆嚢炎で手術・処置が施行された症例1,801件において、手術処置に関連した入院後発症疾患を有する症例は、全体の3.3%であった。施設別には、0%から12.9%まで分布していた。大腿骨頚部骨折抽出症例のうち、手術(人工骨頭置換術または観血的整復内固定術)が施行された症例1,451件において、入院後発症疾患の内訳としては、大腿骨頚部骨折で外科手術が施行された抽出症例のうち、2.1%の抽出症例で手術関連合併症が登録されていた。施設間におけるその割合は、0%から7.5%まで分布していた。これらの数値は医療の質というよりデータ登録の質を反映するとみなされ、副病名登録における改善の余地が明らかとなった。
【Ⅳ.周術期抗生剤予防投与のパターンの把握とパフォーマンス評価としての可能性】同じ施設の同じ診療科においてもクリティカルパスの存在について医師の意見が一致しなかった場合があり、11施設のうち、消化器外科で6施設、整形外科で3施設、産婦人科と心臓血管外科が各1施設ずつであった。また、第三世代セフェム剤が白内障手術(50%)と子宮全摘術(43%)で頻繁に使用されていた。予防的投与期間は、施設間あるいは医師間で大きく異なった。整形外科医全員、心臓外科医の93%、腹部外科医の87%、脳神経外科医と産婦人科医79%、眼科医の73%が皮切前の予防的投与を施行していた。CABGでは、クリティカルパス非使用群と比較して、使用群の投与期間が有意に短かった(3.6日対6日、P=0.03)。同じ症例の場合も1~6日などかなり大きく、施設間のばらつきも同様に大きかった。標準的な方法の採用・普及と施設内の標準化という二重のレベルで質改善の余地が認められた。
【Ⅴ.原価と診療報酬】医療の制度・政策の上で、根拠の強いプライシング、原価に見合った診療報酬の設定が医療の効率を向上させる。また、質・安全の確保のために様々な対策を講じ資源を投入する必要がある一方で、医療はやせほそるとその長期的な代償は国民に跳ね返らないとも限らない。医療の原価の構成要素には、人代、もの代、資本代、そして諸経費があるが、価格決めにおいては、医療者の専門技術の高さが評価されるしくみが今後必要となるであろう。また、医療提供システムの存続性(sustainability)を確保する観点からは、質と安全性を確保し高めていくための投資、そして、様様なリスクに備える費用、といった二つの必要資源を診療報酬に反映させるシステムが今後ますます重要となる。
また、診療パフォーマンスと診療報酬とを関係付けた具体的な海外例として、英国NHS、米国CMSならびにIHP、オーストラリアのプライマリケアのプログラムをレビューし、目的、支払い者、医療提供者、評価者、対象者、開始時期、焦点、評価指標、評価方法、動機付け、影響などについて、比較検討を行った。評価指標としては、12から51の指標が使われている。それぞれのプログラムとしては欠落あるが、総体としては、臨床活動のパフォーマンスを構造、過程、結果の観点からカバーするものであり、わが国の参考になる要素のあることが示唆された。
結論
当研究により、医療のパフォーマンスや費用を測定する基盤が示され、実際の測定を通じて質・効率の改善余地が示された。これらの研究成果を、配慮を持って広く社会に適用することにより、以下の社会的貢献が期待される。
(1) 多施設で共通の評価指標をもって参照データベースを構築し、医療者への公開により、医療者において、一層の質・効率の評価・改善活動を促進しうる。
(2) 患者による、第三者による、あるいは支払い者による、病院評価事業への活用も考えられる。
(3) 「原価」と「パフォーマンス」にもとづく診療報酬制度の実現化に活用しうる。
(4) 指標の妥当性を高め公開手法を検討した上で、医療のパフォーマンスや原価の一般への情報公開に活用しうる。
(5) これらの研究成果の活用を通じて、社会における医療の質と効率性の向上のための基盤を構築し、さらに推進力として貢献する。

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