薬剤経済学の手法を利用した薬価算定に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300069A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤経済学の手法を利用した薬価算定に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
白神 誠(日本大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 池田俊也(慶応大学医学部)
  • 亀井美和子(日本大学薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬剤経済学は、ある医薬品の費用対効果を代替する治療薬(法)あるいは何もしない場合と比較して、その費用対効果の程度を研究するものであるが、この薬剤経済学の手法を医薬品の薬価算定へ適用することの可能性を研究する。そのために、①対照治療薬(法)をどう設定するか、②何を費用として取り上げるか。またそれらの費用をどう算定するか、③効果をどう測定するか。患者のQOLを考慮に入れるべきかどうか等を明らかにする。これらを踏まえ、薬価収載を希望する申請者に対する薬剤経済学分析の実施に関するガイドライン案の策定を検討する。
研究方法
医療制度および薬価政策に関する情報を、文献および韓国の研究者への質問等により収集し、記載内容および回答内容を総合して検討した。
2003年の国際薬剤経済学会に出席し、増分費用/生存年比および増分費用/質調整生存年比について、具体的な閾値が設定されているかどうかに関する情報収集を行った。さらに、インターネットによる情報収集、関連文献の調査を追加した。
諸外国でこれまでに作成された公的な研究ガイドラインの項目や内容を参考として、わが国において薬剤経済学研究を薬価算定の際の参考資料として用いるための「学問的な見地から理想的な」ガイドライン案を検討した。
これまでの研究で得られた成果を踏まえ、現時点で採用可能と思われる現実的な薬剤経済分析ガイドライン案を作成し、利用する立場の製薬企業等の意見を聴取し、今後の課題等を併記する形でガイドライン案を提案した。
結果と考察
韓国では、薬剤費の割合は約30%と高く、3年に1度ずつ薬価を再評価することとされている。一方で薬価の決定方法そのものを見直す必要性に迫られている。画期的新薬として分類された製品は、米国、英国、フランス、イタリア、スイス、日本、ドイツの7カ国の外国価格を平均した値段(以下)が薬価とされる。また、それ以外の新薬の薬価は、相対比較価格が適応され、同一あるいは類似の効能を持った製品間の相対的価格比に基づいて算出される。
2001年12月に、給付対象とする新技術の費用対効果を検討することが明示されたが、まだ経済性評価は取り入れられていない。韓国においても、国の実情に見合う独自のガイドラインを作成することが望まれており、現在、健康保険審査評価院で作成準備をすすめている段階である。
医療技術の経済評価研究の増分費用/効果比について具体的な閾値を提案している3論文が収集された。このうち1992年にLaupacisらが提案した基準は欧米の経済評価論文において頻繁に引用されている。最近の米国の医学論文では、1質調整生存年あたり費用の閾値を50,000ドルに設定しているものが多かった。Azimiらは、1990年~1996年の費用-効果分析と費用-効用分析を収集し、医療技術に対する追加投資を妥当と結論付けた増分費用/生存年や増分費用/質調整生存年は400ドルから166,000ドルの範囲であったと報告している。Hirthらは42の価値付け研究を比較検討し、その値が人的資源法による測定値の中央値は24,777ドル、revealed preference/job risk法では428,286ドルと、評価手法により大きな開きがあった。オーストラリアでは、増分費用/効果比の値と、償還可否や薬価設定の判断に関連があると考えられた。イギリスでは30,000ポンド/QALYが医療技術の効率性に関する一つの目安になっているのではないかと推測されている。しかし、医療技術を推奨するか否かの判断に際しては、経済的根拠以外の様々な要素が考慮されているものと考えられる。ニュージーランドではフォーミュラリに新規薬剤を収載するか否かの判断は、当該年度の財政状況に依存しているため、これまでの収載状況から閾値を推測することは難しいといわれている。
経済評価ガイドラインの国際比較研究をもとに、各国のガイドラインで共通して扱われている項目について、わが国で薬価算定の際の参考資料として用いるための「学問的な見地から理想的な」ガイドライン案を作成した。
これまでの研究で得られた成果をふまえ現行の薬価算定ルールを念頭に置き、現時点で採用可能と思われる現実的な「新医薬品薬価算定のための薬剤経済分析ガイドライン案」を作成した。このガイドライン案を利用する立場の製薬企業の代表に示し意見を聴取し、これらを踏まえガイドライン案を修正した。
結論
韓国の現行の薬価算定方法では経済性評価を導入しようとしている動きに反する価格決定構造であると思われ、すべての新薬の価格決定方式を費用対効果に基づく基準で統一することが必要と考えられた。韓国国内の経済性評価の専門家の不足、韓国国内企業の経済性評価の経験不足及び評価費用の負担が問題となることが予想され、韓国における新技術に対する経済性評価の導入は決まっているものの、障害となる問題をどう解決するかという方向性は決まっていない。活用の時期、対象となる新技術、評価方法などが具体化するまでには、まだ時間を要すると思われた。
薬剤経済分析は、先進諸国において薬価設定や保険償還の可否の判断等の政策決定に利用されてきている。この際、判断基準を明確にしておくことが必要であることから、各国では、費用対効果を良好と考える「閾値」が独自に設定しているものと考えられた。
わが国では、医療技術の経済評価研究が立ち遅れており、現状で保険収載されている医療技術の費用対効果の水準は必ずしも明らかではない。費用対効果を参考に薬価算定等の政策立案を行う場合には、費用対効果比の閾値を適切に設定するために、現状で保険収載されている医療技術の費用対効果について検討を進める必要があると考えられる。
諸外国でこれまでに作成された公的な研究ガイドラインの項目や内容を参考として、わが国において薬剤経済学研究を薬価算定の際の参考資料として用いるための「学問的な見地から理想的な」ガイドライン案を検討した。その結果、分析の立場は社会の立場、分析手法は費用-効果分析、効果指標は生存年または質調整生存年を用いることが望ましいと考えられた。今後、上記研究ガイドライン案に即した薬剤経済学研究を実施可能とするための環境を整備していくことが課題である。
現行の薬価算定ルールは限られた医療財源の下で新薬の導入により医療費が増えない範囲で薬価を決めることを基本としているように思われ、優れた薬であれば結果的に医療費が増えてもかまわないという考えには消極的である。これらの背景や薬事法に基づく製造承認審査の現状を踏まえ、まず薬剤経済分析の考え方が薬価算定の中に取り入れられることが重要だと判断し現行の医療保険の中で採用可能と思われる薬剤経済分析のためのガイドライン案を作成することを試みた。次いで、このガイドライン案について利用する立場の製薬企業から意見を聴取し、それらを踏まえガイドライン案を修正した。

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