医療保険給付における公平性と削減可能性に関する実証的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300068A
報告書区分
総括
研究課題名
医療保険給付における公平性と削減可能性に関する実証的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 亘(大阪大学大学院国際公共政策研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 八代尚宏(社・日本経済研究センター)
  • 鈴木玲子(社・日本経済研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
2,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、我が国の医療保障・介護保障制度の「公平性」と「費用の削減可能性」を医療経済学の立場から分析し、合わせて研究期間内に進行していた「医療制度改革、介護保険制度見直しの政策評価」を行うことを目的としている。今年度は、研究事業の最終年度である。既に初年度と次年度において、当初計画していたわが国の医療制度の平等性について、数多くの知見を得ることができたが、今年度はその知見に基づいて、具体的な政策提言を行うことを目指した。具体的には、2002年10月及び2003年4月に行われた医療制度改革について、その政策評価や今後の医療制度改革への提言を行ったほか、医療分野への規制緩和策の検討などを中心に研究を実施し、成果を発表した。
研究方法
報告書の3章(八代尚宏・鈴木玲子・鈴木亘「日本の医療改革の展望」)、10章(八代尚宏・鈴木玲子・鈴木亘「Evaluating Japan's Health Care Reform in the 1990s and Major Issues Coping with the Aging of the Population」)の分析には、昨年に完成した日本経済研究センター医療財政予測モデルを用いた分析となっている。これは医療保険財政の将来推計を行う為のシミュレーションモデルを用いた分析である。一方、7章(清水谷諭・鈴木亘・野口晴子「Outsourcing At-home Elderly Care and Female Labor Supply: Micro-level Evidence from Japan's Unique Experience」)の分析は初年度に独自に実施したアンケート調査「高齢者の医療行動調査」を利用している。8章(鈴木亘「レセプトデータを用いたわが国の医療需要の分析と医療制度改革の効果に関する再検証」)については、111組合健保の44ヶ月に亘るレセプトデータを用いて分析をした。6章(周燕飛・鈴木亘「日本の訪問介護市場における市場集中度と効率性、質の関係」)、9章(Zhou,Y and W.Suzuki "Market Concentration, Efficiency and Quality in Japanese Home Help Industry")については、日本銀行と協力して実施した訪問介護業者のアンケート調査を用いた分析である。その他の章は、OECD等によって作成された既存の集計データを解析している。
結果と考察
今年度の成果は、報告書で報告した10章の公表論文に集約される。①八代尚宏・鈴木玲子「医療の質向上を目指した制度改革」鴇田忠彦・近藤健文編『ヘルスリサーチの新展開:保健・医療の質と効率の向上を求めて』東洋経済新報社、②鈴木玲子「他会計からの繰り入れ(補助金)の実態」『病院』Vol.63、No.2、③八代尚宏・鈴木玲子・鈴木亘「日本の医療改革の展望」『日本経済研究』No.49、④鈴木玲子「医療分野の規制改革:混合診療解禁による市場拡大効果」日本経済研究センター「新市場創造への総合戦略」、⑤鈴木亘「介護分野の規制改革― 特別養護老人ホームへの株式会社参入全面解禁に伴う市場拡大効果 ―」日本経済研究センター「新市場創造への総合戦略」、⑥周燕飛・鈴木亘「日本の訪問介護市場における市場集中度と効率性、質の関係」『日本経済研究』No.49、⑦清水谷諭・鈴木亘・野口晴子「Outsourcing At-home Elderly Care and Female Labor Supply: Micro-level Evidence from Japan's Unique Experience」ESRI (内閣府社会経済総合研究所)Discussion Paper No.93、⑧鈴木亘「レセプトデータを用いたわが国の医療需要の分析と医療制度改革の効果に関する再検証」第11回日医総研セミナー「医療費予測 本当のところはどうなんだ―制度改革による医療費縮減効果の検証―」発表論文、⑨周燕飛・鈴木亘「Market Concentration, Efficiency and Quality in Japanese Home Help Industry」 Prepa
red for National Bureau of Economic Research ? Japan Center for Economic Research Conference 、⑩八代尚宏・鈴木玲子・鈴木亘「Evaluating Japan's Health Care Reform in the 1990s and Major Issues Coping with the Aging of the Population」Prepared for National Bureau of Economic Research ? Japan Center for Economic Research Conference 。初年度と次年度の研究において、わが国の医療保険制度は諸外国に比べて類を見ないほどに「平等な」制度であることが示されてきた。特にわが国の皆保険制度や保険範囲の広さが平等さに貢献していることがわかった。この平等性自体は国際的にも大変評価されるべき事であるし、この平等な制度がわが国の健康政策に寄与してきたことは間違いない。しかしながら、高齢化が進み医療費が急速に膨張する中で、「全ての医療行為」を公的保険で賄うというわが国の平等な医療保険制度は、保険財政自体を危機にさらしている。また、既に生命に係わる最低限度の平等な医療は満たしている中で、より選択的な高度医療などにおいて、公的保険が阻害要因となり患者の選択を奪っている現実も明らかに成りつつある。そこで、今年度の研究では、現在、盛んに議論が行われている患者の医療選択権の問題-混合診療や医療の標準化、質を向上させる医療機関の競争・種々の経営体の参入問題を議論した(①、③、④)。その中における基本的なメッセージは、既に極端に平等化が果たされているわが国の医療制度においては、選択的な部分において、混合診療や医療機関の競争を図ることが或る程度許容されるのではないかということである。また、それにより、医療財政の健全化を図ることが可能であることから、わが国の平等な医療制度を結局、維持・保持することに繋がると考えられる。同様の議論は、医療分野に限らずその周辺分野、特に介護市場に適用することが可能である。既に介護分野では、公的介護保険によって訪問介護分野の競争が高まったが、それが不平等かにつながったのか、あるいは質の競争を通じて全体の質を高めたのかどうかといった点を評価した(⑥、⑨)。結論は、概ね当初の目論見通りの結果が得られているということになった。また、介護者の労働供給増などの外部経済も生み出していることが明らかと成った(⑦)。さらに、この結果を踏まえて、在宅介護だけではなく、施設介護分野への規制緩和が注目去れるところであるが、その規制緩和の効果についても計測を行った(⑤)。最後に行ったことは、2002年から始まった医療制度改革の政策評価である。現時点の評価無くして、将来の医療制度を構想することは不可能である。2002年改正は様々な反対が解消されない中で出発したが、財政的な面を考えれば、とりあえずの改革として必要性は高かったと考えられる。問題は、これが抜本的な改革ではなく、一過性の財政的延命措置であるということである(③、⑩)。そのことを広く認知する必要がある。今年度から使用が可能となった健保組合のレセプトデータや、初年度に開発した医療財政シミュレーションモデルを用いて、さらに精緻な医療制度改革の評価を行うことができた。また、最後にわが国の医療制度改革における厚生労働省試算で用いられている「長瀬式」という素朴な経験式の問題を採り上げ、それに変わる医療経済的な推定式の開発も行うことができた(⑧)。
結論
わが国の医療制度は、公平性という観点からは問題が非常に少ないものの、供給サイドには不高率な点が多々見られることから、供給サイドの効率化が今後の医療制度改革の課題である。改革の方針を得るためには、改革が一歩進んでいる介護保険の評価や諸外国の改革の評価が不可欠の作業となろう。

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