地域特性からみた難病に対する医療・介護福祉提供体制に関する研究

文献情報

文献番号
200300063A
報告書区分
総括
研究課題名
地域特性からみた難病に対する医療・介護福祉提供体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 博(国立療養所宮城病院)
研究分担者(所属機関)
  • 辻一郎(東北大学大学院)
  • 小野寺淳一(国立仙台病院)
  • 吉岡 勝(国立療養所西多賀病院)
  • 高田博仁(国立療養所青森病院)
  • 阿部憲男(国立療養所岩手病院)
  • 土肥 守(国立療養所釜石病院)
  • 小林顕(国立療養所道川病院)
  • 久永欣哉(国立療養所宮城病院)
  • 會田隆志(国立療養所翠ケ丘病院)
  • 関晴朗(国立療養所米沢病院)
  • 宮澤幸仁(国立療養所米沢病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
1,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
パーキンソン病をモデル疾患として、主に東北地方における難病患者の医療、福祉サービスならびに介護保険等の利用状況と関連諸問題を調査・解析し、医療・福祉提供体制に関わる問題点ならびにその地域特性を明らかにする。
研究方法
政策医療ネットワークを活用し、班員所属施設、患者友の会および県の協力のもとにパーキンソン病患者(ヤール重症度:III度以上、生活機能障害度 II 度以上)の医学的背景、医療機関利用状況、療養形態、医療・福祉制度・介護保健等の利用等に関わる患者・家族の問題点など約130項目を調査した。研究概要は平成13年に主任研究者施設の倫理委員会にて審議、実施認定を受けた。主介護者の介護負担感の調査にはZarit SH, et al.( 1980 ) による調査票を用いた。目的と概要を患者・家族に文書で説明し、同意をえた。さらにプライバシーに配慮し、個人の特定につながる情報を除く調査結果を主任研究者施設でデータ・ベース化した。地域特性に関する解析には、患者居住地を人口10万人を基準として都市部と町村部の2群に分けた。その他の項目も2~3群に群化して比較した。推計学的評価には t-検定、χ二乗検定を用い、p < 0.05 を有意水準とした。
結果と考察
平成15年7月までに新潟県を含む7県から合計1050名(男性427、女性616、記載なし7、年齢:69±9歳、罹病期間:10±6年、ヤール重症度:III度 676、IV 237、V 137)の調査結果が集積された。主介護者の介護負担感に関する有効回答は648件であった。1)患者の性、年齢に地域差はなかったが、町村部でやや重症者が多かった(p<0.05)。2) 生活状況は独居62名、同居866名(その38%は夫婦2人暮らし)、長期入院・入所102名、全体の45%が過去4年間に平均1.6回(1-10)の入院歴を有し、独居者、2人暮し者で総入院期間が長かった(p<0.01~p<0.001)。患者の84%で家庭年収が600万円以下であった。3) 650名(67%)が受診上、何らかの悩みを有した。主な悩みは「付き添いなどで家族に負担をかけている」44%、「待ち時間が長い」29%(ヤールIII 度群に多い)、「交通費が負担になっている」23%(町村部、年収600万円以下の群で多い)、「近くに適切な病院がない」21%(町村部で多い)などであった。「病院における入院期間の制限が悩み」は9%で、より重症群に多かった。4)介護保険導入前の各種福祉サービスの利用は町村部で低い項目が多かった。導入後は利用者は2~3倍となり、地域差は減少傾向を示したが、専門職の訪問サービス利用は全体に低くかった。5)介護保険理解度は、「良く理解している」15%、「大体理解している」68%、「分からない」17%であった。介護保険利用者は42%で重症群、都市部、高年収群、患者が女性の群で高かった。保険非利用理由では「申請方法などがわからないから」が20%を占めた。介護保険利用者の20%は要介護度の判定に疑問を抱き、15%は保険によるサービスに対して不満、30%が介護負担は不変ないし増加したと回答した。6)主介護者の介護負担感は重症者、男性患者、精神症状・自律神経症状を有する群、息子が主介護者の場合、低年収群等で有意に高かった。7)都市部と町村部で有意差を示した項目は重症度、同居家族数、通院距離・時間、「近くに専門病院がない」、「待ち時間が長い」、福祉サービス利用率、介護保険利用率等であった。
近年、急性期医療体制は整備されつつあるが、神経難病のような慢性進行性疾患に対する医療環境は充分改善されていない。とくに東北地方ではハード面としての医療機関は整備されつつあるが、人材面の充足、とくに医師全般の確保・配置は極めて困難な状況にあり、それに関連した諸問題が顕性化している。今回の調査研究でも、とくに町村部では神経難病に対する専門病院、専門医が少ないなど、従来繰返し指摘されてきた医療提供体制の地域格差が確認された。
公的介護保険制度は平成12年度に導入された。大都市とその近郊では余剰労働力が豊富で利用人口密度も高いため、介護サービス事業も成立しやすい。他方、東北地方のように大都市が少なく、住民の高齢化・過疎化の進む小都市・山村地区の多い地域では、介護サービスに対する需要は大であっても、事業としての効率性はきわめて低い。本研究でも、介護サービスの提供体制(事業所数、人的資源、情報提供等)や利用状況にも地域格差が存在することが示唆された。その背景には人材不足に加え、利用者における自己負担額の問題が関係していると推定される。
我が国では急速に進みつつある少子高齢社会、核家族化のなかで、高齢者に多いパーキンソン病患者にも、独居者や高齢夫婦2人暮し者が多くなってきていると推定される。これらの患者群で入院期間が有意に長く、介護負担感も大であった点等は医療保険制度と介護保険制度の制度上の適応や運用に問題があることを示唆する。一方では、我が国の厳しい国家財政下で、医療ならびに福祉サービスともに効率的運用が要求される。他方、社会保障としての全体的な均等性、公平性も維持されるべきである。数年来、議論されている競争原理や市場原理を重視する政策ではこれらの問題の解決は困難と考えられる。国の政策としては、まず第一に、地域格差解消に向けた医師の育成ならびに公的医療機関への適正配置の促進、さらに利用者の視点を重視した両保険の改訂を講ずるべきである。他方、県をはじめとする地方自治体の政策として、町村部の公的病院における専門診療科、介護福祉施設の整備、地域医療福祉ネットワーク、人的サービス、情報提供法の改善・強化が重要と考えられる。
結論
東北地方と新潟県におけるパーキンソン病重症患者1050名の医学的・家庭的背景、医療・介護福祉サービス利用状況と関連諸問題を調査し、人口10万人を規準とした都市部・町村部の地域比較を含めて解析した。その結果、町村部では神経難病医療機関や専門医が少く、介護・福祉サービスの理解、利用、関連情報提供がまだ不十分であることが確認された。また、医療を受ける上での悩み、福祉制度利用、介護負担感、生活状況や主介護者の介護負担感などの間に注目すべき関係が見い出された。これらの結果から、国の政策として地域格差解消に向けた医師の育成と適正配置の促進、医療ならびに介護保険の改訂には、重症者や高齢者をはじめとする利用者の視点を重視した改訂が重要であり、県をはじめとする地方自治体の政策としては町村部の公的病院における専門診療科や介護福祉施設の整備、さらに地域医療・福祉ネットワークを強化すべきと考えられた。

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