レセプト情報の利活用と個人情報保護のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300062A
報告書区分
総括
研究課題名
レセプト情報の利活用と個人情報保護のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
小林 廉毅(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本悦司(国立保健医療科学院)
  • 谷原真一(島根大学)
  • 豊川智之(東京大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の健康保険財政の逼迫は深刻さを増しており、医療・社会保障の効率化や保険者機能強化にむけた政策立案が急務となっている。診療報酬請求明細書(レセプト)情報は、医療費の動向や特定の疾患の流行等について全数かつリアルタイムに利用できるという特色を持ち、医療・社会保障政策へ様々な応用が可能な貴重なデータである。レセプト情報は行政通達により利活用が推奨されており、その調査研究体制の整備が必要と考えられる。初年度の報告において、レセプト情報を活用した調査研究の実態と動向について検討した。その結果、医療機関におけるレセプト情報を利用する場合のプライバシー保護対策に関するガイドライン作成の重要性が示唆された。次年度の報告では、わが国の保険者におけるレセプト情報の利活用の現状と展望に加え、調査分析等の外部委託に関する調査を行い、その概況を報告した。また分担研究として、レセプトに記載された複数傷病名の客観的かつ自動的分類法であるPDM(Proportional Disease Magnitude)法の開発、ならびに地域の健康度指標としてのレセプト情報活用に関する研究を併せて行った。最終年度は、昨年度の調査を元に保険者におけるレセプト情報の利活用について詳細な検討を行うとともに、分担研究として、レセプトに記載された複数傷病名について、パソコンを用いた自動分類法であるPDM法第3版(Proportional Disease Magnitude, version 3)の完成ならびにレセプト情報を用いた地域の健康度指標や介護保険とのリンケージの研究を併せて行った。さらに以上の調査結果を総括し、わが国の実状に即した医療・介護に係わるレセプト情報の保護と利活用のあり方と方策について考察を加えた。
研究方法
(1)保険者特性とレセプト情報を用いた分析の現状:調査は一定の調査票を用いて、2003年1月29日より2月28日までの期間に行った。調査対象は国民健康保険(国保)と組合管掌健康保険(健保)の全保険者とした。調査票を送付した5,145保険者のうち2,017保険者より回答があり、回収率は39.2%であった。調査方法の詳細及び調査結果の概要については、前年度の報告書に記載されている。上記の資料を元に保険者特性とレセプトを用いた調査分析の傾向について詳細な検討を加えた。(2)レセプト傷病分類の原理と手法(PDM法)及びレセプト情報の利活用におけるプライバシー保護:レセプトに記載された複数傷病名を客観的かつ自動的に分析する原理(PDM法)を考案し、パソコン上で使用できるプログラムを本研究で開発してきたが、その実用的な完成版(第3版)を作成した。またレセプト情報の利活用におけるプライバシー上の問題点とその対策についても検討した。(3) レセプト情報の利活用の研究:ある自治体における介護保険と医療保険のデータをマッチングさせ、介護保険受給者の医療機関受診状況を分析した。また個人単位の時系列データを用いて特定疾患の医療費の推計を行った。さらに別の自治体国保のレセプトデータから、疾病コード(中分類)が糖尿病、高血圧性疾患、骨折のデータを抽出し、当該地域の健康度指標の可能性について検討した。倫理面への配慮として、本研究でレセプト情報を扱う場合は個人識別情報を削除した上で取り扱うこととした。
結果と考察
(1)保険者特性とレセプト情報を用いた分析の現状:レセプト情報を用いた分析の外部委託の有無別に各保険者特性の割合をみると、加入者規模に大きな差はなかった。老人保健制度加入率は、委託した保険者の方が高齢化しており、加入率30%以上の保険者が50%近くを占めた。他方、委託しなかった保険者では老人保健制度加入率10%未満の保険者が40%を占めた
。保険種別にみると、委託した保険者では国民健康保険が89%占めたが、委託しなかった保険者では国民健康保険(57%)と健康保険(43%)との差は小さかった。所在地については、委託した保険者は東海・甲信越・北陸(24%)が多く、委託しなかった保険者は関東(28%)が多かった。保険者特性別にみた委託有無のオッズ比から、10万人以上の加入者のいる保険者では委託割合が低く(27%)、それ以外の規模の保険者では委託割合が高かった(40%前後)。また、老人保健の加入率が高いと委託する傾向が見られた。保険の種類では健康保険で委託しない保険者が有意に多く(84%)、所在地別では関東と近畿で委託しない保険者が多かった。(2)レセプト傷病分類の原理と手法(PDM法)及びレセプト情報の利活用におけるプライバシー保護:PDM法を十分な妥当性をもって一般使用に供するレベルにまで完成させることができた(作成されたプログラムは既にフリーウェアとして提供済であり、Web上にも詳細を記した)。プライバシー保護の観点からは、レセプトの法的性質を各種研究倫理指針、行政通達そして個人情報保護法に照らして検討し、レセプト情報を活用すべき諸条件ならびに現行医療保険関連法規の改善点等を明らかにした。(3)レセプト情報の利活用の研究:介護保険受給者に占める医療受診者の割合は全体で80.2%であり、要介護度が高くなるにつれて低下していった。また、糖尿病などで受診経験を有する者について、一人当たり医療費を求めた結果、60~64歳の年齢階級がもっとも一人当たり医療費が低くなる傾向が認められた。介護保険と医療保険のデータをリンケージすることはレセプト単独の情報を分析するよりも保健事業の評価や住民の健康度を測定するための指標として有効と考えられた。疾病コードを用いた分析では骨折での受診者において、男女で年齢分布に大きな格差が存在しており、高齢者の骨粗鬆症の大半が女性であるということと一致する結果であった。また、糖尿病および高血圧性疾患のような慢性疾患と骨折のような急性疾患で、同一医療機関を継続して受診する状況に違いが認められた。レセプトに記載された情報を断面的に分析するだけではなく、特定の情報について時系列分析することによって、重要な知見が得られる可能性を示すことができた。また、基本健康診査などの各種保健事業から得られる情報との統合によりさらに有用な知見が得られると考えられた。
結論
本研究により、保険者の規模、健康保険と国民健康保険の違い、所在地によってレセプト情報分析の傾向の違いが示唆された。保険者におけるレセプト情報の分析を推進するためには、規模の小さい保険者について分析に関する支援を行うとともに、全国的な関心を高めるようなネットワークの構築などが重要と思われた。また、プライバシー保護の観点と、レセプト情報の利活用に関する法・制度面の分析を通じて、レセプト情報活用と個人情報保護は十分両立可能であることを、技術的制度的裏付けとともに示した。目下急速に進展しているレセプト情報の電子化と本研究の成果を組み合わせることにより、レセプト情報を医療政策や公衆衛生目的に有効活用することが将来、可能になると思われる。さらに、医療保険のレセプトデータを介護保険など他のデータとリンケージすることによって、医療保険レセプト単独の情報を分析するよりも保健事業の評価や住民の健康度を測定するための指標として有効であることが示唆された。

公開日・更新日

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