かかりつけ医の診療プロセスとアウトカムに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300059A
報告書区分
総括
研究課題名
かかりつけ医の診療プロセスとアウトカムに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
福原 俊一(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 平井愛山(千葉東金病院)
  • 松村真司(松村医院)
  • 池田俊也(慶應義塾大学医学部医療政策管理学教室)
  • 筧善行(香川医科大学泌尿器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、21世紀の我が国においてかかりつけ医に求められる新しい役割、新しい役割機能を果たす際に求められる医療の質、その医療の質を評価する指標の開発と検証、指標を用いた評価、そして医療の質を標準化し改善することによってもたらされる国民レベルの健康アウトカムへの影響および医療経済的な節約効果を定量的に分析すること目的としている。
研究方法
1)Vignettesを活用した診療の質測定に関する研究:全国の11病院の研修医を対象とした問題解決能力を中心とした診療の質測定、診療パターンのばらつきの測定、およびこれらに関連する要因の研究を実施した。
全国11の教育病院に所属する、研修医を含む若手医師計367名が、一人につき計6つの臨床シナリオ(4種類の慢性疾患、1種類の急性期疾患、さらに診断推論に関するシナリオ1種)に対して回答した。あらかじめ定められたスコア基準に基づいて回答を採点し、スコアの算出を行った。
2)QIを活用した診療の質測定に関する研究:Assessing Care of Vulnerable Elders(ACOVE)プロジェクトの質指標が現実に本邦の医療に妥当なものであるかの研究を行う第1段階として、海外で診療の質指標とされている分野の診療について、その指標を直接評価目的に当てはめるのではなく、実際の診療を記述することを目的に本研究をおこなった。ACOVEの質指標のうち、高血圧8指標、糖尿病10指標を選び出し、首都圏の病院の協力を得て、電子化された診療録及び診療指示システムに保存されているデータを使用し、その診療項目での診療を記述する。その過程で、診療録及び指示システム内に、評価を行うのに十分な情報が存在するかの検討を研究者および、電子カルテシステム構築者との間で行い、ACOVEのような外的基準をつかった診療評価の適応可能性について考察することを目標とした。
3)患者満足度の開発と検証に関する研究:前年度開発した6因子25項目からなる入院患者用患者満足度評価尺度HPSQを用い、因子構造の改善と質問項目の削減を目標とした再調査を行い、計量心理学的検討を行った。昨年度は既存の外来診療満足度尺度の項目検討と外来診療の満足度尺度の概念を構築した。本年は、23項目の米国内科学会患者満足度質問票ABIM-PSQを土台として、日本語版の開発およびグループインタビューによる改変作業を行った。質指標を用いて、日常診療の内容を検討し、これらの活動を持続的におこなうための技術を教育するための、かかりつけ医を対象にしたワークショップを試験的に行い、ワークショップ開催の実際面での効果や問題点を検討した。
4)ITを用いた糖尿病疾病管理の長期的な費用対効果に関する研究:オンライン服薬指導が実施された患者44名について、服薬指導前後における糖尿病患者の検査値に関するデータ提供を受けた。次に、国内外の糖尿病の疫学調査データをもとに、患者の検査値と長期的な予後を予測するためのシミュレーションを実施した。シミュレーションには、熊本スタディのデータなど用いて作成した予後予測経済評価モデルを用いた。これらをもとに、服薬指導前の検査値に基づく予後予測と、服薬指導後の検査値に基づく予後予測を、各患者に対して実施し、オンライン服薬指導の長期予後ならびに医療費に与える影響を検討した。
5)かかりつけ医を地域リーダーとした排尿障害者に対する医療支援ネットワークの構築に関する研究:
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、訪問看護ステーションを対象に行なった昨年の実態調査の結果を受け、県下の介護老人保健施設6ヶ所において、介護士や看護士を対象としたセミナーを開催した。また泌尿器科専門医ではない地域のかかりつけ医に対して、排尿障害の基礎的知識を教育し、排尿障害の簡便な診断法と治療法を指導するための地域講習会を開催する。
結果と考察
医療のプロセスあるいは質の測定には様々な方法があるが、本研究では、以下のサブプロジェクトに分けて実施した。
1)診療シナリオ(Vignettes)を活用した医師の問題解決能力の測定に関する研究:Vignettesを活用して研修医の問題解決能力の測定を行い、分析を行った。その結果経験した症例数が多いほど、スコア(得点)が高いという結果が認められた。また、指導医が行う研修医評価とスコアの関連を調べたところ、有意な関連は認められなかった。
2)電子カルテ上でQIを活用して診療の質測定に関する研究では、電子カルテを活用して診療の質を評価するための課題として、診断日の正確性、病名の正確性、他医療機関受診の可能性、電子カルテ入力漏れなど、が明らかになった。
3)患者満足度の開発と検証に関する研究:入院患者満足度指標HPSQ-25(Hospitalized Patient Satisfaction Questionnaire) の構成概念再構築として因子分析法による質問項目の弁別を行い、一定のルールを用いて項目削減を行った結果、3因子13項目の尺度(HPSQ-13)が完成した。外来診療満足度評価尺度の開発では、米国の開発段階のABIM-PSQ(American Board of Internal Medicine, Patient satisfaction questionnaire)23項目日本語版の開発を行なった。昨年の調査、および先行の質的研究によって得られた「かかりつけ医にとって重要な要因」に含まれる概念に対応する項目を網羅するように項目が取捨および追加された。最終的に合計32項目からなる質問票が開発された。
4)ITを用いた糖尿病疾病管理の長期的な費用対効果に関する研究:オンライン服薬指導により得られた糖尿病患者における検査改善の短期的効果のデータをもとに、シミュレーションを実施することにより、長期的な予後予測ならびに費用対効果の検討を行った。その結果、オンライン服薬指導の導入は、患者の予後の向上と費用削減をもたらす介入行為であることが確認された。
5)かかりつけ医を地域リーダーとした排尿障害者に対する医療支援ネットワークの構築に関する研究:特別養護老人ホームで、介護士による排泄ケアマニュアルに沿った失禁タイプ分類と排尿管理を試みに実践したところ、要介護度が低ければ痴呆が存在してもおむつはずしが高率に可能であること、おむつはずしが可能となった痴呆患者では夜間徘徊が減少することが判明した。
本研究は我が国で初めて地域レベルにおけるかかりつけ医に期待される新しい役割、かかりつけ医による診療の質評価指標の開発と検証、さらに最終的に期待される国民の健康アウトカムの改善を定量的に分析することを目的として行った。これらの結果は将来のかかりつけ医の新しい役割や貢献を科学的・定量的に測定・評価し、ひいては医療供給体制の再構築や医療費の効率的な配分の政策決定にも大きな影響を与えることが期待される。卒後研修の必修化、診療内容の情報公開が求められる時期にあって、医療のプロセスやアウトカムの科学的な評価方法を確立しておくことは重要であると考えられる。さらに、「測定なくして改善なし」といわれるように、医療の質、診療の質改善のためには、科学的な質の測定が前提となる。
結論
かかりつけ医による診療プロセスやアウトカムを科学的・定量的に測定・評価に関するさまざまな研究を行った。プロセスやアウトカムを測定する指標の開発と検証、実際の測定・評価、またプロセスやアウトカムの改善のための介入の試みも行った。さらに、シミュレーションではあるが、介入の経済評価研究も実施した。これらの結果は、このような研究が可能であること、さらに、大規模で系統的な研究の必要性を示唆した。

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