社会福祉士専門職教育における現場実習教育に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300058A
報告書区分
総括
研究課題名
社会福祉士専門職教育における現場実習教育に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
(社) 日本社会福祉士養成校協会
研究分担者(所属機関)
  • 米本秀仁(北星学園大学)
  • 川上富雄(川崎医療福祉大学)
  • 岡田まり(立命館大学)
  • 北本佳子(城西国際大学)
  • 高山直樹(東洋大学)
  • 中島修(日本社会事業大学)
  • 西原香保里(愛知みずほ大学)
  • 藤林慶子(東洋大学)
  • 宮城孝(法政大学)
  • 湯浅典人(文京学院大学)
  • 横山豊治(新潟国際医療福祉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
3,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、社会福祉士養成校における社会福祉援助技術現場実習の実習事前教育、巡回指導、事後教育の内容について現状を調査・分析し、これまでの教授法やスーパービジョン等のスキルを整理し、これを踏まえながら、時代の要請に応えるわが国の状況に合致した社会福祉士養成の実習教育体制の在り方を検討し、社会福祉士養成校における新たな学生に対する実習前後のスーパービジョン・システムを構築することである。社会福祉士は、福祉専門職の基幹として、国民生活と社会福祉に欠くことのできない職種となりつつあることから、資格取得後に人権尊重、権利擁護、自立支援の実践の推進者としての役割と機能を円滑に果たせる教育カリキュラムをその研究の目標としている。本研究により、実習教育担当教員のための研修プログラムの開発、現場実習の標準化をおこなうことが可能となり、実習指導の教育カリキュラムの内容充実が可能となる。さらに社会福祉士制度が福祉専門職の基幹であることから、その研究成果は、他の福祉専門職における実習教育の改善にも寄与できるものと考えられる。
研究方法
本研究は、主任研究者の総括により社団法人日本社会福祉士養成校協会実習委員会、同協会加盟校教員が中心となって研究を行った。本研究は、研究班会議を招集し、①養成校におけるスーパービジョン教育における学校が行う学生評価(コンピテンシー)、②実習教育におけるスーパービジョンのあり方の2点について、担当分担研究者・研究協力者により研究を実施した。
第二年度である今年度は、コンピテンシー班では前年度の研究結果から、コンピテンシー調査項目案を作成し、①養成校学生(調査回答者 10校、643人)、②養成校等教員(調査回答者 38人)、③社会福祉施設実習指導者(調査回答者 18人)に対する調査を実施した。スーパービジョン班では、養成校実習担当者に対する実習のミニマム・スタンダードに関する調査(調査回答者 55人)を実施した。
結果と考察
コンピテンシー班では、①現在検討中のコンピテンシー項目の多くは、そのまま使用可能ではあるが、今後更なる検討が必要であること、②コンピテンシー調査により、学生自身の自己評価、実習前後評価の比較が可能あること、③養成校間の比較が可能であり、それによって養成校ごとの課題等の明確化が可能であること、等が明らかとなった。スーパービジョン班では、①ミニマム・スタンダード設定自体への賛否があったこと、② 実習スーパービジョンの対象は実習学生であり、実習展開の前・中・後においては展開の性質が異なることからスーパービジョン内容も当然に異なるが、試案として設定された項目内容は、実習担当教員調査からおおよそ支持されたこと、③ ミニマム・スタンダードの設定という作業は、ミニマム・スタンダードを実施できる訓練と平行する必要があること、等が明らかとなった。
結論
社会福祉士の資質については国家試験により担保されているが、筆記試験という性格上、福祉現場における実践的能力については養成校での現場実習教育等に委ねられている。そこで本研究では、社会福祉援助技術現場実習指導の質の向上と実習担当教員の養成力の強化を図り、それにより社会福祉士養成教育の実践のスキルの質を確保し、全体の社会福祉士養成教育の質の向上を企図するものである。結果的に、適切な福祉サービスを提供することとなり、国民の生活に反映されるものである。養成校での教育は、社会福祉士資格取得のみを目的としてはいないが、より実践的な教育内容とすることで国民の期待に応える社会福祉従事者の養成が促進され、福祉人材の資質向上を図ることができる。本年度の研究成果により、以下のことが今後の活用として考えられる。① 社会福祉士実習教育におけるコンピテンシーに関する調査によりその基礎資料を得たので、協会のホームページ上の公開し、各養成校で使用可能な汎用化を図る、② スーパービジョンの研究により、社会福祉士養成に必要なアクレディテーションの提示が可能であることが確認でき、今後の社会福祉士の質の向上に寄与した。
社会福祉実習関係3者は、いずれも格差が大きいという共通の問題を有していた。今回のコンピテンシー項目と実習スーパービジョン項目はいずれもミニマム・スタンダードの性格を有している。これは、明らかに最低限での格差の是正という目標を持つものである。実習関係3者はいずれもミニマム・スタンダードをクリアしているということを社会的に証明する責任をもっている。従って、実習関係3者それぞれのミニマム・スタンダードとは何かを明らかにしつつ、その測定と訓練の方策を策定していかなければならないことが大きな課題である。しかも、基本認識は、ミニマム・スタンダードは教育機関や現場実践の個性 (自由度) を束縛するものではない、むしろ、自由を展開する基礎条件となると考えるべきである、ということである。
さらに、今回のコンピテンシー項目が実習スーパービジョン項目とどのように関連しているかを明らかにし、この成果を基に関係3者のミニマム・スタンダード項目の相互関連を明らかにしていく必要があろう。同時に研究で明らかにされたことは、研究方法の課題が多々あるということである。コンピテンシー項目策定手順は一定の妥当性が明示されたが、しかし、依然として、項目領域や細項目の設定には議論が残る。且つ、それらの妥当性や測定の信頼性 (評価基準の設定とその明示性) の確定の手順、項目設定後の調査法、成果 (効果・変容) 測定法等が課題として残っている。
実習教育は、実習教育科目だけでは完結しない。専門職養成という目標に向けて、養成校修了時でどのような資質と能力を有した者として描くか (これには、現場側の見解も充分に取り入れられる必要がある) を基本にして、各構成教育科目がどのようにそれぞれの位置と役割を期待されるかが明示され、一つの強力なシステムとして展開される必要がある。現場実習のフルネームが「社会福祉援助技術現場実習」であることに留意するならば、専門職としての技術 (それを支える理論) がどのようなものであるかが、教育伝達可能な形で操作化される必要がある。
この操作化が充分になされる一方で、教員及び実習指導者への研修システムが考案される必要がある。教育法・指導法 (それらが実習場面に集約されるとスーパービジョン法ということになる) の分析と体系化が要請されるのであり、またこれを実施していく教育・研修の場の設定が重要な課題となろう。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-