「世代とジェンダー」の視点からみた少子高齢社会に関する国際比較研究

文献情報

文献番号
200300057A
報告書区分
総括
研究課題名
「世代とジェンダー」の視点からみた少子高齢社会に関する国際比較研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
西岡 八郎(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 津谷典子(慶應義塾大学)
  • 白波瀬佐和子(筑波大学)
  • 福田亘孝(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における少子高齢化の急激な進行は社会保障制度全般に大きな影響を及ぼしつつあるが、この問題は先進諸国におおむね共通する。少子化の背景, 少子高齢化の影響は広義の家族・家族観と密接に関わっており、少子高齢化問題全体の広がり、深さを知り、適切な政策対応をとるためには、家族・家族観の変化を国際比較を含めた広い視野から検討する必要がある。
この時期に、先進諸国の大部分をカバーする国連ヨーロッパ経済委員会(UNECE)の人口部が、ヨーロッパ諸国の少子高齢化問題と家族・家族観の変化とを、世代とジェンダーという2つの視点から関連づける「世代とジェンダー・プロジェクト(GGP)」を発足させ、幸にも、ヨーロッパ経済委員会域外の主要な先進国である日本にも参加を呼びかけてきた。本研究は、この呼びかけに積極的に応え、GGPプロジェクトの企画・設計段階から参加し、国際比較研究のメリットを享受するとともに、日本からの独自の研究貢献を目指すものである。GGPプロジェクトは、参加国共通の分析フレームに従い、人口・経済・社会・社会保障に関するマクロデータを収集するとともに、共通の調査票を用いた「世代ジェンダー調査(GGS)」を実施する。後者は、パートナー関係, 出生力, 家族ネットワーク, ジェンダー, 高齢者ケア, 家計と社会保障に関する調査項目を含む、家族に関する包括的調査であり、この分野ではおそらく日本では初めての国際比較調査である。
本研究は、日本を含む国際比較的マクロ・ミクロ両データの分析に基づいて、結婚・同棲・LATを含む男女のパートナー関係, 子育て関係, 高齢者扶養問題の先進国間の共通性と日本的特徴を把握し、これによって、日本における未婚化・少子化の要因分析と政策提言、 高齢者の自立と私的・公的扶養のあり方に関する政策提言に資することを目的とする。
研究方法
本研究は、個人を単位とした調査の実施・分析(ミクロデータ)と各国の法制度改革時期や行政統計データを含むマクロデータベースの構築という、大きな2つの柱からなる。前者のミクロデータについてはドイツのマックスプランク人口研究所が中心となり質問検討委員会が構成され、比較可能な共通のフレームで実査を行う。後者は、フランス国立人口研究所が中心となってデータベース委員会が構成され、マクロデータに関する基本方針が決定される。これら2つの委員会の方針に従って、各参加国は調査実施とマクロデータの提供を行う。さらに、ミクロ班で設定されたテーマのもと、ミクロデータ、マクロデータを用いて多層的な国際比較研究を行う。
結果と考察
本年度の活動は、2004年3月、4月実施の国際比較調査に向けて参加国との協調を図りながら作業を進めることが中心的な活動であった。本年度の研究活動の結果概要について述べる。
第1に、国連ヨーロッパ経済委員会、及び、国連人口部から提示されたGGS調査票(案)に関して、本部、各国研究員と意見・情報交換をしながら国際比較調査の日本版調査票の作成を行った。国連人口部から提示された英語版GGS調査票(案)は他記式インタビュー調査を前提とし、(1)親子・世代関係(2)出生(3)夫婦・ジェンダー関係(4)意識構造(5)教育(6)就業状況(7)経済状況(8)世帯構成(9)健康・福祉の9つのセクションから構成され、70ページにも上る膨大なものである。本プロジェクトでは、まず、英語版GGS調査票(案)の質問項目を一つ一つ詳細に吟味し、自記式留置調査にとって適当な分量になるように項目の取捨選択を行った。選択された英語の質問文には日本では不適切な表現や分かりにくい言い回しがあるため、日本の状況を斟酌しながら日本語化し、回答選択肢の修正も行った。
第2は、こうして作成されたGGS調査日本語調査票(案)に対して、他国と共同歩調をとるために東京、仙台でプリテストを行い、その後に調査員と回答者に対してヒアリングを行った。このヒアリングとプリテストの集計結果に基づいて、GGS日本語調査票(案)の質問文のワーディング、選択肢、レイアウトに関して問題点がないかを再び検討し、調査票のいくつかの部分を修正した上で最終的なGGS調査票日本語版を完成させた。また、ヒアリング結果を用いて、本調査実施上の問題点についても検討を行い調査回収率、調査精度と回答率の向上を図るための検討を行った。また、プリテスト結果については本調査の総合的な分析に役立てるために調査法上の問題点の析出、予備分析などの作業を進めた。
第3に、マクロ・データのデータ・ベース構築のための基礎研究を行った。参加国の会議で(1)社会経済(2)福祉(3)制度の3つの領域についてのマクロ・データをできるだけ共通な形式で時系列に収集することが決定された。本プロジェクトでも、日本のナショナル・レベルのマクロ・データの利用可能性について調査、及びデータの収集を行った。上記の3つの領域について日本で利用可能なデータのタイプ、形式、利用可能な期間などについて調査、整理を行い、こうした日本のデータと他のGGP参加国のデータとを比較検討した。これと平行して、利用可能な時系列データそれぞれについては漸次、収集を行った。さらに、ナショナル・レベルだけでなく、都道府県レベルについても、上記の3つの領域の地域データの利用の可能性について調査した。
第4に、国連ヨーロッパ経済委員会では、情報の共有化を図るため、あるいは各国のGGS調査の総合的広報活動のため、GGPに関するホームページを開設・立ち上げた。日本もこれに協力し、わが国のGGS調査の進捗状況、調査内容などの報告を行った。
第5に、プレテストにおける問題点の析出や最終年度の本格的分析に向けての先行研究のレビュー、プリテスト・データや他の調査データなどを利用して予備分析を行った。具体的な個別研究には、ジェンダーの視点から就業と家事関係・出生水準の関係・意識構造の分析、親子の世代間関係、ジェンダー・世代とソーシャルサポートに関するテーマについての予備分析を行った。こうした先行研究のレビュー、実証的予備分析は本調査結果の分析にも有効なフレームとなる。
結論
・本年度は、参加国と協調・連携しながら日本版調査票を作成し、プレテストを経て本調査実施にこぎつけた。また、マクロ・データのデータ・ベース構築のための基礎的研究では、(1)社会経済(2)福祉(3)制度の3つの領域についてのマクロ・データについて、日本のナショナル・レベルのマクロ・データの利用可能性について調査、及びデータの収集を行った。上記の3つの領域について日本で利用可能なデータのタイプ、形式、利用可能な期間などについて調査、整理を行い、こうした日本のデータと他のGGP参加国のデータとを比較検討した。各国のデータが整備されれば、ミクロ、マクロレベルで共通の分析フレームで国際比較が可能となる。
・国連ヨーロッパ経済委員会では、参加国間の情報の共有化を図るため、あるいは各国のGGS調査の総合的広報活動のため、GGPに関するホームページを開設・立ち上げた。日本もこれに協力し、わが国のGGS調査の進捗状況、調査内容などの報告を行った。こうした情報の公開によって、プロジェクト参加国だけではなく世界各国の情報共有化にも広く貢献できる。
・プレテストにおける問題点の析出や最終年度の本格的分析に向けての先行研究のレビュー、プリテスト・データや他の調査データなどを利用して予備分析を行った。具体的には、ジェンダーの視点から就業と家事関係・出生水準の関係・意識構造の分析、親子の世代間関係、ジェンダー・世代とソーシャルサポートに関するテーマなどについて個別に予備分析を行った。こうした先行研究のレビュー、実証的予備分析は国際比較のフレームで整理、検討した。したがって、今後の分析に向けても有効なフレームとなる。また、最終分析では、日本だけのデータでは明瞭ではない、パラサイトシングル仮説,価値観変動(個人主義化)仮説,ジェンダー観変化仮説, 労働市場柔軟仮説, 子育て費用仮説, 家族政策効果仮説などを検証でき、そこから有効な少子化対策を引き出すことが期待される。また、高齢者扶養問題についても、先進国間における家族・家族観の違いを浮彫りにしたうえで、多様な私的支援ネットワーク(家族,友人,隣人など)と社会保障の給付とニーズとの関係の多様性を明らかにし、そこから、高齢者の生活保障に関わる政策の再構築に向けての指針をひき出すことが期待される。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-