要介護高齢者の介護サービス需要とその影響要因に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300056A
報告書区分
総括
研究課題名
要介護高齢者の介護サービス需要とその影響要因に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
南部 鶴彦(学習院大学)
研究分担者(所属機関)
  • 菅原琢磨(学習院大学)
  • 野口晴子(東洋英和女学院大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
8,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、制度の抜本改革が予定され、本格的議論が開始されているにも関わらず、未だ十分かつ頑健な検証がなされているとは言い難い介護保険サービス需要について「介護サービス需要関数」を導出し、介護サービス需要への影響要因とその程度を定量的に把握・明示する事にある。特に自己負担率の改定を含め、介護サービス価格変更がおこなわれた際の影響を検討するためには、介護サービス需要の価格弾力性の計測が必要である。本研究では自治体所蔵の介護給付レセプトデータを用いて、価格変化にもとづく介護サービス需要変化(介護サービス需要の価格弾力性)を計測するとともに、利用者の諸属性などいかなる要因が介護サービス需要に影響を与えているかを検討した。
ところで介護保険制度導入時の政策目標の一つとしては、従来の老人保健制度と老人福祉制度を再編し、医療と介護の機能分担を明確にすることで、各々のサービスの一層の効率化を目指す社会保障構造改革の端緒となることが期待されていた点がある。個人のレベルで介護保険レセプトと老人保健レセプトの情報を結合し、個々の利用状況を経時的に把握した上で、介護保険導入後の両制度の利用状況を検討することは、両者のマクロ的な財政動向の背後にある利用者レベルでの両サービスの相互依存関係を明確にする点で、貴重な情報となることが期待される。本年度はこの点についても検討をおこなった。
研究方法
介護サービス需要が価格変化に対してどの程度影響するかに関する計測は、初の介護報酬改定が2003年に実施されたことにより、介護報酬改定前後を含むデータセットを構築することが可能となった。これを用いて一般利用者の実際の利用状況を反映した分析が可能となった。そこで本年度の研究では介護保険制度開始時点から介護報酬改定後の2003年7月までのサンプルをデータセットに含め、介護サービス需要関数の推定作業をおこなった。
実際の分析は協力自治体から『国民健康保険連合会配信/給付管理レセプトデータ』の提供を受け、推定に必要なレセプト情報を分析データセット化した。これと同時に1999年3月~2002年2月利用分の老人保健レセプト情報の提供も受けたため、介護保険とのデータの重複期間については、両者を結合させたデータセットを構築し、両制度の利用状況の相互依存関係を検討するために活用した。
介護サービス需要、ここでは最も基本的なサービスとなる訪問介護サービスのうち、介護報酬改定で変更が認められた「身体介護」サービスの需要を決定する基本モデルは、次式で表されるものとする。
Di=f(Pi,Ui,Si)
ただし、Diは第i番目の利用者の身体介護サービスに対する需要量(利用回数/月)、Pi は第i番目の利用者の介護サービス価格(介護報酬単価)、Uiは第i番目の利用者の属性を識別する諸変数(年齢、性別、要介護度など)、Siは第i番目の利用者が利用した身体介護サービスの諸属性を識別する変数(利用時間、深夜利用、ヘルパー2人利用など)である。
上式でDを利用回数(身体介護サービス需要)としたとき、この利用回数が各々の説明要因の「線型関数」で表されるものと仮定し、回帰推定をおこなう。推定は利用回数の分布により、仮定する確率分布を考慮する必要があるが、此処では標準正規分布を仮定した最小二乗法によってもっとも基本的となる推定をおこなっている。
介護保険・老人保健の結合データを用いた分析では、2000年4月~2002年2月までの期間について、両者の利用額の全体推移を「性別」、「要介護度別」、「一人当たり利用額別」に把握した。次に老人保健を縦軸、介護保険を横軸に各々の利用額をプロットして両者の相関係数を算出し、更に単回帰分析をおこなうことで、両者の相互関係を把握した。このような分析は、サンプル全体でおこなうだけでなく、要介護度別、介護保険における施設・在宅サービス利用区分、老人保健における入院・入院外利用の区分別に実施した。
結果と考察
訪問介護サービス中、介護報酬が改定された「身体介護」サービス全体について基本統計量を把握した後、サービス需要関数の推計をおこなった。身体介護サービス利用者全体の要介護度分布は、要支援が13.7%、要介護1が37.5%、要介護度2が13.4%、要介護度3が10.5%、要介護度4が9.1%、要介護度5が15.6%であった。また利用者の平均年齢は79.2歳で、男性の割合が36.6%を占めた。身体介護の利用回数をサービス需要とする需要関数の推定では、担当するケアマネージャーによりサービス利用回数の有意差が確認された。また利用時間については、他の条件をすべて一定とすると30分未満(除外基準)の利用が最も多く、30分以上~1時間未満の利用回数はそれに比べ23%減、1時間以上~1.5時間未満の利用回数は25%減という結果を得た。2003年4月の報酬改定を反映した介護報酬単位(介護サービス価格のProxy)は統計的に有意に推定された。今回の改定では「身体介護」に関して、30分未満の利用は「引き上げ」、1時間・1時間半まで「現状維持」、1時間半以上の利用について各々「引き下げ」とされている。この改定価格を用いて今回の改定から導出されたサービスの価格弾力性は(-)0.74であった。
介護保険と老人保健の利用状況(利用額)の相互依存関係を検討したところ、両者間には全体として負の相関(代替関係)(相関係数-0.22)が存在した。また要介護度の上昇とともに概して両者の負の相関は強まる傾向が認められた(要支援/-0.14、要介護度5/-0.34)。老人保健利用額を被説明変数、介護保険利用額を説明変数とする回帰分析で推定された係数値は-0.18であった。
結論
2003年4月の「介護報酬改定」前後の期間を通じた「介護給付管理レセプト」をデータベースとして、訪問介護(身体介護)需要関数の基本的な推定をおこなった。一般利用者の現実の利用実態を反映した訪問介護需要の価格弾力性の推定値ほか、需要への影響要因を定量的に明らかにした。訪問介護(身体介護)需要の計算上の価格弾力性は0.74と推定されたが、モデルの定式上、未だ重要な変数が投入されていない点には留意が必要である。またケアマネージャー区分、要介護度区分が、サービス需要の有意な説明要因となっていることが示唆された。介護保険と老人保健、各々の利用額の相互関係については、全体として「緩やかな」負の相関関係が認められた。

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